
■「結婚したら守るべき」夫婦間のルールはある?
まず前提として、現代と昔の「家族形態や家族観」は異なる。具体的な違いから聞いてみた。
「昔は“会社員の夫”と“専業主婦の妻”が多数派だったり、親の老後を子が面倒見ることが当たり前だったりしました。いわゆる“一般的な家族形態”が存在し、家族が円満に過ごすためのルールとして“伝統的な家族観”があったのです」(松本さん)
しかし家族形態が多様化している現代では、夫婦それぞれの生まれ育った環境や、当たり前と思う価値観が大きく変わっている。
「家庭ごとに夫婦のルールが異なる現代に、昔ながらのルールはほぼ存在しないでしょう」(松本さん)
一方、どんな夫婦でも身につけるべき「円満に過ごすための姿勢や能力」があるという。
「相手の話をよく聞き、相手の気持ちや考えを理解しようとする姿勢と、自分の気持ちや考えを適切な言葉で相手に伝える能力です。これらが不足すると衝突が増え、不満が解消せずくすぶり続けます」(松本さん)
学校や社会同様、夫婦間にも「基本的なコミュニケーション力」が不可欠ということだろう。
■子どもが生まれたらルールは必須?
夫婦だけの間はルール不要でも、子どもが生まれたら必要になるのだろうか。
「子どもが生まれると家族のステージが変わり、“子どもの心身を健全に育んでいく”という新たなタスクも生じます。夫婦の価値観をすり合わせたり衝突を減らすため、新たなルールを設けることは有益です」(松本さん)
松本さんは、子育て中の夫婦のカウンセリングで提案したルールの例を教えてくれた。
「“夫が担当する家事を済ませないうちからリラックスタイムを過ごしイライラする”という妻の不満を聞き、『お互い大変だよね。私たち頑張っているよね』と、互いを労う言葉をかけ合うというルール設定を勧めました。これにより、“残りの家事を協力して行う”という円滑な流れができました」(松本さん)
「プレゼントに時間を贈る」というルール提案も好評だったようだ。
「子育て中の夫婦は仕事、家事、育児と休む暇もないのが現状です。たまには自分のためだけに過ごす時間を持ち、気分転換や充電ができるとよいですね」(松本さん)
ただし、子どもの成長や父母の就労、子育てのサポート態勢の状況により、一度すり合わせたルールも臨機応変に変えていく柔軟性が必要になるとのこと。留意しておこう。
■夫婦円満のためにはルールが必要?
ルールを設けず円満に過ごせれば、それ以上のことはない気がするが……。
「ルールの必要性は夫婦次第です。ルールは互いに気持ちよく過ごせるよう、衝突を減らすために設けるものです。ルールを守ること自体が目的にならないよう気をつけましょう。また、ルールを守らないことでケンカが増えては本末転倒です。守れないことが続く際はルールの見直しも考えましょう」(松本さん)
夫婦の話し合いが大切なことは分かっていても、話を切り出すことに抵抗がある人も多いそう。
「その場合は、『毎週〇曜の〇時からは夫婦で話す時間』と決めるなど、話し合いをルーティーン化できるようなルールを設けるとよいかもしれません」(松本さん)
そもそも夫婦関係が上手くいかなくなる背景には、どんな家庭を築きたいかを十分共有しないまま結婚生活をはじめてしまうことがあるとか。
「“同居しはじめてから相手の考え方や価値観に違和感を抱く”というケースは少なくありません。結婚後の生活をイメージし互いの理想像や目指すゴールをよく話し合っておくと、一時的に衝突しても解決策を見つけやすいですよ」(松本さん)
結婚はゴールではなくスタートだ。互いの理想の結婚生活や未来像を理解し合い、その実現のためにどうすべきか、日々考え近づける必要がある。そのような努力をした上で、問題が起こるようであれば、上手にルールづくりをするとよいだろう。
●専門家プロフィール:松本 尚子
家庭裁判所調査官としての勤務経験を活かし、令和5年「横浜ファミリーカウンセリングオフィス」を設立。夫婦・家族に伴走するホームカウンセラーを目指し、新婚期から子育て期、夫婦の危機を乗り越えるサポート等を行う。夫婦の関係性を紐解く心理テスト等も実施しながら月約100件の相談に対応。
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