映りたくなければ避ければいいだけという考え方もあるが、とはいえやむを得ず写り込んでしまうこともある。となれば本人は不同意ということになるわけで、それが公開されるとなれば、抵抗を覚える人は少なくないだろう。そこで今回は許可なく他人を撮影・公表することの違法性について井上義之弁護士(富士見坂法律事務所代表)に話を聞いてきた。
■他人の容ぼうは肖像権として保護の対象とされている
早速、許可なく他人の容ぼうの動画・写真を撮影・公表することに違法性があるかどうかを尋ねた。
「容ぼうを撮影・公表されない法的利益は、憲法上の人格権に由来する権利(肖像権)として裁判上保護の対象とされており、撮影・公表は肖像権侵害として違法(民法709条の不法行為)となる場合があります。なお、本人と特定できない映像・画像についてはそもそも肖像権侵害が問題になりません」(井上義之弁護士)
つまり、本人と特定できるかたちで写真や動画に映り込んでいれば当然に肖像権侵害となるのだろうか。
「本人と特定できるかたちで写真や動画に映り込んでいれば直ちに肖像権侵害、というわけではありません。既に述べた通り肖像権は法的保護の対象ですが、他方で撮影・公表する側の表現の自由も重要な権利であり、両者の間で合理的な調整をする必要があります」(井上義之弁護士)
肖像権 VS 表現の自由という構図とのこと。
■肖像権侵害となる3つのケースとは
では具体的にどのような場合に肖像権侵害になるのだろうか。
「現時点では、どのような場合に肖像権侵害になるかについて裁判実務上確立された判断基準はないと思われます。ここでは、関連する最高裁判例の流れを踏まえつつ、表現する側の予測可能性を向上させるべく肖像権侵害となる場合を類型化した判断基準を示した裁判例(東京地裁令和4年10月28日)をご紹介します。この裁判例によれば、下記の3類型のいずれかに該当するなど被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合に限り、肖像権を侵害し違法となります」(井上義之弁護士)
(1)被撮影者の私的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないとき
(2)公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき
(3)公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるとき
「平たく言うと、自宅など被撮影者のプライバシーにかかわる場所で撮影された肖像の公表についてはそもそも被撮影者の不利益が大きいので公共の利害に関わる場合以外はNG、路上など公の場所で撮影された肖像の公表については被撮影者に不利益が大きく受忍限度を超える場合に限りNG、ということですね」(井上義之弁護士)
■YouTuberが気をつけるべきこととは
最後に写真や動画を撮影しSNSや動画共有サイトに投稿する際、どのような点に気をつけるべきか伺った。
「撮影・公表する際は、できる限り他人を映さない、他人が映ってしまったら許可をとったり特定できないように編集するなどして、無用なトラブルを防止すべきでしょう。許可のない他人の容ぼうの撮影・公表が法的に肖像権侵害と評価されるケースは必ずしも多くないかもしれませんが、他人の肖像権と抵触せずに希望の表現ができるのであればそれに越したことはありませんから…」(井上義之弁護士)
現時点では出来る限り他人を映さない、そして、自らも映り込まないように気をつけるということが最適解のようだ。
専門家プロフィール:弁護士 井上義之 (第一東京弁護士会) 事務所HP ブログ
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記事提供:ライター o4o7/株式会社MeLMAX
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