
■生活に密着しているからこそ脱却が困難
ファミコンやプレイステーションのようなゲーム機は、目の届かない場所に隠したり、処分したりすることが可能だ。しかし、通信機器としての利用がメインであるスマートフォンの場合、そうはいかない。
「その通りです。ネットゲーム依存は生活に密着したツールへの依存とも言え、これは日本のような近代化した国で、依存から抜け出しにくい特徴の一つです。社会的な信用を損ねたり、人間関係に支障が出ることも少なくありませんし、課金が重なりギャンブル依存に近い形で借金をつくる人もいます」(平井さん)
依存症は、大きく3つに分けられる。アルコールやたばこ、薬物などへの物質依存、特定の人間関係に執着する関係依存、そして特定の行為や過程に必要以上に熱中するプロセス依存。
「ネットゲーム依存症などのプロセス依存は、物質依存のように特定の依存物質が無いため、服薬での治療も困難です」(平井さん)
そのため、「物理的に隔離する」ことが必要なようだ。詳しく教えてもらおう。
■物理的に遠ざけることが最も有効
「すでに依存状態になっている場合、頻度を下げるのは容易ではありません。ゲームができない状態にする必要があります。入院治療はもちろん、専門家中心のキャンプなどを行い、使用時間・方法を制限するといった取組みが行われます」(平井さん)
子どもの場合、大人がしっかりと管理することが大切だ。具体的には、
・フィルタリングなどを用いてアクセス制限する
・ガラケーや、ゲームができない子ども向けスマホに変更する
・習い事の時間を増やす
・子ども自身にルールを考えさせて書面にし、ルールを破った場合の措置も明確にする
などの対策がとれる。
「ただし、頻度や使用時間を減らす方法は、依存状態が悪化してからでは、焼け石に水となることの方が多いかと思います。また、一方的に物理制限を設けることは、心理的な依存を強め、家庭内暴力やひきこもりに繋がる場合もあるため、慎重で丁寧なコミュニケーションを伴ったアプローチが必要です。依存症になってからでは遅いので、予防をしっかりと家庭や学校での教育に取り入れることを推奨します」(平井さん)
教育委員会などが研修を開催し、子どもたちが学校単位でルールを考えている事例もあるとのこと。では、大人の場合はどうだろうか?
「大人の場合も、中途半端な対策ではなく、一定期間スマートフォンなどの機器を使わず生活するデジタルデトックスを行わない限り、回復は難しいと考えられます。周囲の協力を得て、環境を整えて治療することになるでしょう。回復後も、他の依存症と同様にスリップ(再発)しやすい症状なので、ゲームアプリをダウンロードできない機器を用いるなど再発予防の物理的対処が必要です」(平井さん)
■ゲームをする上での心構えとは
平井さんは、「ゲームはあくまでもヒトの道具のひとつに過ぎない」と指摘する。
「どんな道具でも使い方によっては悪い影響が出ます。利便性に溺れることなく、主体性を持って使用することが大切です。『ゲームに遊ばれる』のではなく、『ゲームを遊ぶ』感覚で使用できているかを意識してみてください。海外のプレーヤーとプレイすることで語学が上達する、遠方の友人と交流する手段になっているなどの使用は、生活に支障が無い範囲であれば、とても上手く付き合えていると言えるでしょう」(平井さん)
そもそも、依存症と呼べるほど過度に熱中してしまうのは、何らかの心理的要因が考えられる。
「ストレスの原因があると、ゲームの時間が長くなるという方が多く見受けられます。この際、多趣味でいることや、多くの人間関係を持っていることが、ゲームだけに発散方法が偏らないための予防策になります。普段から、幅広い人間関係を築くソーシャルスキルを磨くことも忘れないようにしていただきたいです」(平井さん)
「最近ハマり過ぎているな」と感じている人は、ゲームに目を向ける時間を減らすことも意識してみよう。
●専門家プロフィール:平井 大祐
臨床心理士、精神保健福祉士、産業カウンセラー、健康経営アドバイザー。オンラインゲームと人の付き合い方を考える研究機関として2003年に活動を開始した「オンラインゲーム調査研究所」の代表。企業に所属し、働く人やその家族へのカウンセリングやセミナーなども行っている。
(酒井理恵)