■なぜ飲食店の被害が多いのか?
「No show」防止のため、巷で新しいサービスが続々誕生している。なかでも注目は、インターネット上で簡単な会員登録をするだけでキャンセル料の請求および回収を弁護士が代行してくれる「ノーキャンドットコム」。代表の北周士弁護士によると、サービス開始後、2カ月半余りで会員登録は70店舗以上に上ったという。
「飲食店は、日常的に、とても気軽にドタキャンされています。まず、飲食店の母数自体が大きいですよね。当社のサービスは全国の飲食店を対象としていますが、やはり問い合わせが多いのは東京・大阪です。大都市ほど飲食店の数が多く、その分被害に遭いやすいというのもありますが、地方に比べてまったく知らない店に行く機会が多いこともひとつの要因なのではないでしょうか」(北弁護士)
総務省統計局の「平成28年経済センサス」によると、飲食店の事業所数は45万3541軒(持ち帰り・配達飲食サービス業を入れると49万9542)。美容業は14万9177軒、エステティック業は5148軒、ネイルサービス業は1705軒なので、ほかのサービス業と比べてどれほど多いかがわかるだろう。
「美容院やエステサロン、ネイルサロンなども当然被害に遭ってはいるのですが、一度のキャンセル人数は多くても1~2人です。飲食店の場合、何十名という規模で予約の無断キャンセルが起こり得ますから、被害額は比べ物になりません」(北弁護士)
■60人の無断キャンセルにより被害額30万円
では、実際にどのくらいの被害額が出ているのだろうか? 過去の事例を聞いてみた。
「都内にある某飲食店からの依頼では、60人分の予約が連絡もなくキャンセルとなり、30万円の損失が出たというケースがありました。無事に全額回収できましたが、事前にキャンセルの連絡をもらっていればほかのお客さんを入れることができた訳ですから、実際の被害額は30万円以上ということになります。利用者も、電話1本入れていれば何も食べていないのに30万円払う必要はなかったので、モラルを守った行動をしてほしいなと思いますね」(北弁護士)
現状では、予約額(30万円)以上の金額を請求することは難しいそうだ。
■キャンセルポリシーの掲載は必須!
では、被害を防ぐためにはどうしたらよいのだろうか。北弁護士によると、手軽にできて有効な対策は以下の3つ。
(1)キャンセルポリシーを定めておく
(2)前日や前々日にメールを一通送る
(3)電話予約をなるべく減らす
まず、大事なのは、「何日前のキャンセルで、何%のキャンセル料金が発生するか」を定めたキャンセルポリシーをホームページなどに掲載すること。
「会員登録制のアプリなどからインターネット予約を受け付けると、記録が残るので便利です。ホームページがないのでキャンセルポリシーを記載する場所がないというお店にはおすすめです」(北弁護士)
こうしたアプリなら、前日か前々日に自動的にリマインドメールが送られるので、「うっかり忘れていた」という事態にはなりにくい。
「しかし、実際はアプリやインターネット予約の導入がむずかしい店舗もあります。飲食店の予約の7~8割は、今でも電話です。電話のみだと『言った、言わない』という事態になりやすいので、予約日の前になるべくショートメールを送って記録を残しましょう」(北弁護士)
弁護士に依頼すれば、電話番号から契約者情報を割り出せるので、あとから住所を調べたりキャンセル額を請求したりすることは難しくないという。しかし、できるだけ電話予約は減らした方がよいそうだ。
年末に向け飲み会が増えるこれからのシーズン、利用者側にはモラルが求められる。飲食店に限らず、ドタキャンは相手の時間やお金を奪う行為であることを自覚した方がよいだろう。早めに連絡すればほかの客を案内することもできるので、キャンセルの場合には速やかに行動しよう。
● 専門家プロフィール:北 周士
法律事務所アルシエン所属。ベンチャー企業の顧問業務と、士業の経営支援を中心に行う。飲食店の無断キャンセル回収代行サービス「ノーキャンドットコム」は、申込金・着手金無料、回収額の30%が手数料として差し引かれる仕組み。
(酒井理恵)