■8割が期間満了を迎える「生産緑地」
そもそも生産緑地とはどういった土地なのだろうか。
「農業を行う人であればなじみがある言葉かもしれません。土地や森林のなかで、『市街化区域内の500㎡(151.25坪)以上の面積』、『景観や防火などの観点から公共施設としても利用できること』、『営農すること』などを条件として指定される区域をいいます」(坂根さん)
「農地扱いになるため、固定資産税が宅地に比べ約1/100になるというメリットもある」と坂根さん。
「指定されてから30年が経過したり、土地の所有者が死亡するなどの場合に指定が解除されます。2022年には、三大都市圏で4,000万坪弱ある生産緑地の約8割が期間満了を迎えます。農地が宅地として大量に不動産市場に供給される可能性があるのです。それにより新築の住宅などが増え、空き家が増える現象が『2022年問題』です」(坂根さん)
生産緑地としての指定が解除されても所有者は勝手に売買できず、地元自治体(農業委員会)に買取を申し出る必要があるとのこと。自治体が財政難などで買い取れない場合、他の農家にあっせんされる。それでも買い手がつかないと指定が解除されるという流れだ。
「近畿地方を例に『2022年問題』のシミュレーションを行ってみましょう。67都市約1,157万坪のうち、その10パーセントにあたる約115万坪が宅地に変わったとします。一戸建て(30坪)の場合、新築の家が約38,000軒建てられます。人口は増えていないのに住宅が増えることで、空き家の増加を引き起こす可能性があります」(坂根さん)
「2022年問題」により、住宅の供給が需要を上回る計算だ。
■「2022年問題」が起こる確率は?
実際のところ、「2022年問題」が起こる可能性はどのくらいあるのだろう?
「そもそも生産緑地に指定されて30年経っていることを自覚していない所有者が多いです。すでに所有者の8割以上が『特定生産緑地』として申請しています。“売却意向がある所有者が多い”という話題も聞かないことから、起こる可能性は低いと考えられています」(坂根さん)
「特定生産緑地」とは、生産緑地の中で30年が経過しそうな土地に対し、環境保全などの観点からその土地が有効であれば「買取の申し出の期限を10年間先送りにできる」と指定された農地のことだ。
「生産緑地が指定されたのは1992年ですから、ちょうどバブル期にあたります。土地価格が高騰していた当時でも土地を売却していない人となると、今でも売却しない可能性が高いと考えられます。2022年にたまたま相続が発生し“土地をお金に変えたい”という意向がない限り、売却するという選択肢を取る可能性は極めて限定的です」(坂根さん)
とはいえ、たとえ10パーセントでも売却に応じる人がいた場合、その土地に一戸建てやマンションが建つなど、少なからず影響は生まれるという。
「地価が下落したり、農地から離れた都心部で空き家が増える可能性があります。そうならないためには、生産緑地を農地として活用し続ける必要があります。『体験農園マイファーム』などの市民農園の運営に自治体も積極的に取り組み、官民で営農を行うといった対策がよいでしょう」(坂根さん)
土地や不動産のプロから見ると、「2022年問題」が起こる可能性は限りなく低い。一方で、もし起こった場合は「生産緑地」を所持しない人にも影響が生じるかもしれない。そういったもしもの場合に備え、民間企業と自治体が一体となった対策が求められている。
●専門家プロフィール:坂根大介(イクラ株式会社)
コンサルティング営業を経て、三井のリハウスにて居住用不動産売買仲介営業を経験。2015年イクラ株式会社を設立し、代表取締役CEOに就任。不動産売却プラットフォーム「イクラ不動産」を運営。
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