
教えて!gooでも「境界から出ている木の枝を折る行為」というタイトルの質問があるが、投稿時点は2018年であるため改正前の内容となっている。
そこで今回は法改正によってどのような対応が法律上ふさわしいのか、富士見坂法律事務所の井上義之弁護士に話を聞いてきた。
■改正後の変更点は2つ
最初に越境した木の枝の切除のルールがどのように変わったか伺った。
「(1) 枝が越境している木が複数人の共有である場合、各共有者が単独で枝を切除できるようになりました(民法233条2項)」(井上義之弁護士)
「改正前は、複数人が共有する木の枝が隣地に越境している場合、隣地所有者は、任意に枝の切除がされない場合、木の共有者全員から隣地所有者が切除することの同意を得るか、全員に訴訟を提起し勝訴判決をとる必要がありました。しかし、この改正により、隣地所有者は、共有者の一人から切除の同意を得るか、共有者一人に対する勝訴判決をとって代替執行の方法により枝の切除を実現できるようになりました。」(井上義之弁護士)
「(2) 木の枝が隣地に越境している場合に枝を切除できるのは、隣地所有者ではなくその木の所有者というのが原則ですが(同233条1項)、民法改正により、以下の①~③のどれかに該当する場合に、隣地所有者が自ら木の枝を切除できるようになりました(同233条3項)」(井上義之弁護士)
「①竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
②竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
③急迫の事情があるとき。」(井上義之弁護士)
これまでは所有者に切除を求めるか裁判が必要であったが、隣地所有者自身が枝を切除できるケースが増えたとのこと。
■「これなら安心」という手順は?
次に「これなら安心」という具体的な手順を伺った。
「前述した②や③に該当する事情がない限り、隣地の所有者は、まず、枝が越境している木の所有者に対して、相当の期間を定めて(一般的には2週間程度)枝を切除するよう催告すべきです。切除費用などでもめないように、木の所有者側の手配で枝を切除してもらうのが穏当でしょう。
そして、相当期間内に任意に切除がなされないことが確認された段階で、隣地所有者は、自ら枝を切除するかどうかを検討する、というのが良いと思います」(井上義之弁護士)
■「これはやっちゃダメ」という落とし穴は?
逆に「これはやっちゃダメ』」という落とし穴も聞いてみた。
「境界自体に争いがある場合、自らの認識する境界に従って枝を切除することはトラブルのもとです。境界に争いがない場合も、枝の越境によりなんらの実害もないときは、枝の切除が権利濫用となることもありえます。民法改正で枝の切除はしやすくなりましたが、枝を切除するかどうかは慎重に検討する必要があります」(井上義之弁護士)
■費用を負担してもらうためのヒント
隣地所有者側の手配で枝の切除をした場合の費用は木の所有者負担とのことだが、確実に払ってもらうためのヒントを最後に聞いてみた。
「木の所有者と協議ができる場合は、枝を切除する前に、費用の見積をとり、木の所有者との間で費用負担と金額について書面を取り交わしておくと、枝の切除費用について任意の支払を促す効果があると思います。ただ、現実問題としては、自ら枝を切除する場合、その費用について最悪自分が負担することもありうるという覚悟を持っておいた方が良いと思います。なぜなら、枝の切除費用が任意に支払われない場合、訴訟提起して勝訴し強制執行によって回収するほかなく、費用も時間もかかりますし、財産がない等の事情で回収できない結果も考えられるからです」(井上義之弁護士)
今回の民法改正により、越境枝の問題はより円滑に解決できるようになった。しかし、トラブルを避けるためには、適切な手順を踏み、必要であれば専門家である弁護士の助言を求めることも検討するとよいだろう。
専門家プロフィール:弁護士 井上義之 事務所HP ブログ
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ライター o4o7
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