■初詣の由来
新年を祝い、神社や寺院に参詣する初詣。まずはその由来について教えてもらった。
「一年で最初の行事を特別に大切にする習慣は日本人ならではのものであり、初午や初天神といった、お稲荷さんや天神さんの初縁日には特別の賑わいを見せます。一年の最初の日である元日もそのひとつで、私たちは年の改まりの節目に氏神さま(地域に住む人が祀る神社)や歳神さま(新年に家々に幸せをもたらすために降りてくる神さま)、ご先祖さまなどをお祀りし、その加護を祈ってきました。新年を祝い、神社や寺院に参詣する初詣は現在、日本人の習慣として定着していますが、その由来には諸説あります。例えば、『年籠(としごもり)』といって、大晦日の夜に一家の主人が氏神さまの社にこもったり、社前で夜を明かすというものです。他にも、江戸時代に流行した、元日、歳神さまがいるとされる方角(恵方)にある社寺に参詣する『恵方詣(えほうもうで)』などがありました」(神道文化会)
これらは、伝統的な生活様式や社会形態を明らかにしようとする民俗学的視点による説だそうで、まさに初詣の原型といってよさそうだ。その「初詣」だが、実は鉄道会社が広めた言葉だという。
「明治以降、恵方詣は鉄道の普及により、郊外への社寺参詣が容易になり、さらに盛んになりました。成田鉄道(現在のJR成田線)の成田山新勝寺や、参宮鉄道(現在のJR参宮線)の伊勢神宮などは、鉄道と社寺参詣が結びついた代表的な例です。鉄道による日帰りが可能になったことが、従来の参詣に拍車をかけました。参詣による鉄道利用者を確保しようとした鉄道各社が、『初詣』という当時用いられだした新しい言葉を積極的に利用し、それが恵方詣に代わって広まったのだとする研究成果があります。現在でも、年末年始に鉄道各社が沿線の神社をPRしていますが、これは日本の鉄道の歴史と共に継続してきたことといえそうです」(神道文化会)
初詣は、鉄道だけでなく、戦後の高度経済成長における道路交通網の整備や、テレビ、自家用車の普及などにより、現在の形になってきたようだ。
■神社、お寺の両方あるいは複数の社寺に初詣に行ってもよい?
では目的に応じて、参詣する社寺を選ぶべきだろうか。
「初詣は、社会状況などの変化により形を変えてきたとはいえ、新年を祝う行事のひとつです。その意味においては、初詣に神社へ行くことも、寺院へ行くことも、その目的に違いはありません。また、初詣で神仏に祈願する事柄は人それぞれであり、願いごとによっても行き先はさまざまでしょう。なかには神社と寺院の両方、あるいは複数の社寺に参詣する人もいるかもしれません。よって、行き先については家のしきたりや個人の信仰などに従えばよいでしょう。新年というおめでたい節目にあたり、それをお祝いして神社や寺院に参詣し、一年の飛躍や無事などをお祈りしていただければと思います」(神道文化会)
初詣の願いごとは、無病息災に加え、商売繁盛や合格祈願、必勝祈願、恋愛成就など、人にとってさまざまかもしれない。複数の参詣も問題なさそうだ。
「しかしながら、新年を祝う場は神社や寺院だけではありません。家庭で、門松やしめ縄、鏡餅などをしつらえ、家族でお屠蘇(おとそ)やおせち料理を囲み、神棚には新しい御神札をお祀りするのも、年の改まりを祝う日本人の習慣です」(神道文化会)
家庭で供える鏡餅などにも供え方がある。今回のお話を踏まえ、新年の祝い方や、後世への伝え方を各家庭で改めて確認するのもよいだろう。
●専門家プロフィール:一般財団法人 神道文化会
昭和22年設立。神社や神道の信仰を中心とした、日常生活の中にある、古くから守り伝えられてきた文化と伝統を守り、後世に伝えることを目的として、出版や講演会などの活動を行っている。