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さるほどに、この中将殿は御子四人持ち給ふ。三人は皆々ありつき給ふ。四番目の御子、宰相殿御曹司と申すは、みめかたち世に優れ、優にやさしき御姿、昔を申さば源氏の大将、在原業平かとぞ申すばかりなり。春は花の下(もと)に日を暮らし、散りなんことを悲しみ、夏は涼しき泉の底、玉藻に心を入れ、秋は紅葉(こうよう)、落ち葉の散り敷く庭の紅葉(もみじ)を眺め、月の前にて夜を明かし、冬は蘆間(あしま)の薄氷、池の傍(はた)に羽を閉ぢて鴛鴦(おし)の浮き寝ももの寂し。重ぬる妻もあらばこそ、一人すさみて立ち給ふ。

御兄たちも殿上(とのうえ)も、御湯殿へ入らせ給へども、かの御曹司ばかり残らせ給ひ、小夜更けて、はるかになりて、ひとり湯殿へ入らせ給ふ。かの鉢かづき、「御湯、うつしさぶらふ」と申す声、やさしく聞こえける。「御行水」とて差し出だす手足の美しさ、尋常げに見えければ、世に不思議に思し召し、「やあ鉢かづき、人もなきに、何かは苦しかるべき、御湯殿して参らせよ」と宣へば、今さら昔を思ひ出だして、人にこそ湯殿させつれ、人の湯殿をば如何するやらんと思へども、主命(しゅうめい)なれば力なし、御湯殿へこそ参りける。御曹司はご覧じて、河内国は狭しと言へども、いかほどの人をも見てあれども、かほどにもの弱く、愛敬(あいぎょう)世に優れ、美しき人はいまだ見ず、一年(ひととせ)花の都へ上りし時、御室(おむろ)の院の花見のありし時、貴賎群集して門前に市をなしつれども、その時にもこの鉢かつぎほどの人はなし。いかに思ふとも、この人を見捨てがたくや思はれける。「いかに鉢かづき、思ひそめにし紅(くれない)の色は移ろふことなりと、君と我が仲変わらじ」と、千秋の松に契りを遥かに掛け、松の浦の亀に久しく結ばれける。

古典 鉢かづき
現代語訳お願いします!

A 回答 (3件)

そうだね

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文末に原文と違う訳がありました、訂正します。



(誤)と、宰相の君は千秋の松に永遠の愛の誓いをかけて、松の浦の亀のように永久に結ばれようと仰います。
(正)と仰って、宰相の君は千秋の松に永遠の愛の誓いをかけて、松の浦の亀のように永久に鉢かづきと結ばれました。
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http://suwa3.web.fc2.com/enkan/minwa/cinderella/ …

一部改めてあります。

さて、この中将どのは、お子を四人持っておられました。上の三人は皆々妻を得ておられます。四番目のお子、宰相の君と申す御曹子は、見目容(みめかたち)が世にも優れ、優美なお姿は光源氏か在原業平かと言われるほどです。春は花のもとに日を暮らし、散ってしまうことを悲しみ、夏は涼しい泉の底、美しい藻に心奪われ、秋は紅葉(こうよう)、落ち葉の散り敷く庭の紅葉(もみじ)を眺め、月の前で夜を明かし、冬は蘆間(あしま)の薄氷、池の端で羽を閉じてオシドリが浮き寝するのも物寂しい。袖を重ねて共寝する妻がありませんので、独り荒んで立っておられます。

 兄たちも母君も、お風呂に入りましたけれども、例の宰相の君だけが残りまして、夜が更けて遅くなって、独りでお風呂に入りました。鉢かづきの「お湯を、お移しいたします」と申す声が、優しく聞こえます。「御行水」とて差し出される手足の美しさ、非常に優れて見えましたので、世にも不思議に思われて、

「やあ鉢かづき、他に人はいないのだから、何を遠慮する。背中を流しておくれよ」

と仰いますと、鉢かづきは今更ながらに昔を思い出して、人に入浴の世話をさせたことはあっても、人の入浴をどうして世話できるでしょうかと思いましたが、主命であれば、逆らう力もなく浴室に行きました。宰相の君はご覧になって、

 河内の国が狭いとはいえ、どんなにか多くの人を見てきたけれども、これほどまでに たおやかで可愛げがあって美しい人は未だに見たことがない。先年、花の都へ上った時、仁和寺の花見があって、身分の高い者・低い者が群れ集まって門前に市を立てていたけれども、その時にもこの鉢かづきほどの人はいなかった。どう考えてもこの人を放ってはおけない、と思われます。

「どうだい鉢かづき、染めた紅くれないは色褪めて変わることがあっても、私が思い染めた君と私の仲が変わることはないよ」

と、宰相の君は千秋の松に永遠の愛の誓いをかけて、松の浦の亀のように永久に結ばれようと仰います。
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