■豆類の出汁
魚や海藻からよい出汁が出ることは周知の事実だが、出汁にはどのような成分が含まれているのか改めて聞いた。
「和食に使う出汁は、昆布やかつお節(さば節)、煮干し、干し椎茸が基本です。これらを水で煮出すことにより、素材の持つ旨味を引き出すシンプルな出汁です。世界に認められている『UMAMI(旨味)』成分には、昆布に多いグルタミン酸、かつお節に多いイノシン酸、椎茸に多いグアニル酸などがあり、これらは『3大旨味成分』と呼ばれています」(中村さん)
他に出汁が出る意外な食材はないだろうか。
「大豆やひよこ豆からも出汁が出ます。私自身、長年豆を煮てきましたが、美味しい出汁を取ることができると認識したのは最近のことです。真空パックの蒸し豆や冷凍豆も出回っていますが、乾燥豆から煮るとリーズナブルな上、煮汁も利用できるのでおすすめです」(中村さん)
早速、豆出汁の作り方を教えてもらった。
「乾燥の大豆やひよこ豆は、さっと洗ってたっぷりの水に一晩(6時間)浸しておきます。浸した水を捨て、鍋に豆とたっぷりの水を入れて柔らかくなるまで煮ます。塩を少々、小さく切った昆布、洋風にするならローリエの葉を1枚入れると、より風味豊かになります。普通の鍋なら40分程、圧力鍋なら5分程で柔らかくなります。煮汁と豆を分け、保存袋やタッパーなどに入れれば、冷蔵で約5日間、冷凍で約3週間保存が可能です」(中村さん)
出汁は、大豆を原料とする醤油や味噌を使ったメニューと好相性とのこと。
「大豆やひよこ豆の出汁は、香ばしく甘味があるので、昆布や野菜、きのこなどを加え、煮物や味噌汁にするとよいでしょう。『畑の肉』と言われる大豆は、体に必要なアミノ酸や食物繊維、ビタミン、ミネラルなどの栄養素を多く含みます。体や地球に優しい『植物性素材(プラントベースフード)』への注目が高まる中、積極的に取り入れていきたい貴重なタンパク質源です。素材の旨味を美味しく感じ取る味覚を養えれば、自然と減塩もできますね」(中村さん)
出汁の味を多く感じることができれば、塩を多く入れる必要はなくなるのだ。
次に、ひよこ豆の出汁を使ったレシピも紹介してくれた。
「ひよこ豆の水煮缶を使った『スープカレー』は、缶詰と残り野菜を使って手軽に作ることができ、醤油や味噌、麺類などを加えてアレンジも楽しめます。作り方は、みじん切りのにんにく・ショウガ(1/2片ずつ)、オリーブオイルを温めた鍋に食べやすく刻んだ玉ねぎ(1/2個)やきのこなどを入れさっと炒めます。ひよこ豆水煮缶小1個(缶汁ごと使用)、トマトジュース1缶(缶詰かピューレでも)、水(または昆布の出汁)適量を加え、野菜が柔らかくなるまで煮て、塩、カレー粉、胡椒で調味すれば出来上がりです」(中村さん)
気温が下がるこれからの季節に、体を温め、代謝アップが期待できる一品だ。
■野菜の出汁
野菜だけで作る「べジブロス」は、野菜の甘味や旨味たっぷりの出汁だと中村さんは続けた。
「『べジブロス』とは、玉ねぎや人参の皮、パセリの芯など、捨ててしまいがちな野菜の皮や端切れなどを水で煮出して取る出汁のことです。最近の私のお気に入りは、かぼちゃの種とワタの部分で作る『ベジブロス』です。穏やかな甘味があり、塩を加えるとコンソメのような風味の出汁になります。材料を保存袋に入れて冷凍しておき、時間があるときに出汁を取ります。取った出汁は製氷皿で冷凍すると便利です。使用する野菜は、無農薬、有機栽培のものがおすすめですが、手に入らないときは洗って水に浸し、水気を切って使いましょう。シチューや味噌汁などに合いますよ」(中村さん)
かぼちゃの「べジブロス」を使った、「かぼちゃスープ」の作り方も聞いた。
「ざるでこした『べジブロス』に、ひと口大に切ったかぼちゃを入れて煮ます。柔らかくなったら、豆乳や牛乳、塩、てん菜糖、胡椒などで味を調えます。ポタージュなら、かぼちゃの皮をむいて煮込み、ブレンダーやミキサーなどで滑らかに仕上げます」(中村さん)
乾燥豆や野菜の捨てる部分から美味しい出汁が取れるとは、まさに目から鱗。いずれも体と地球に優しい出汁である。日々の料理に活用してみてはいかがだろうか。
●専門家プロフィール:中村 美穂(おいしい楽しい食時間)
管理栄養士。料理家。フードコーディネーター。国際薬膳調理師。プラントベースフードアドバイザー。栄養士として乳幼児の食事作りや食育活動、子育て支援事業に携わる。2009年より料理教室を主宰。離乳食教室、食育講師のほか、書籍、雑誌、WEB記事、生協カタログ等へのレシピ提供、監修を行う。