■「大丈夫です」、「結構です」が持つ複数の意味
まずは基本的な言葉の意味に加え、異なる意味として使われる例を挙げてもらった。
「男性を意味した『丈夫』は『じょうふ』と読み、『大丈夫』はもともと『立派な男性』という意味でした。やがて『じょうふ』を『じょうぶ』と読み、『しっかりして壊れにくいこと』を表すようになり、『大丈夫』は『危険や心配がない』、『病気や怪我がない』という意味で使われるようになりました」(松岡さん)
「重い物を乗せても大丈夫な机」や「ケガはない?」「大丈夫です」という使い方がこれに当てはまる。
「しかし近年は、婉曲(えんきょく)的に拒否や辞退をする場合にも使われるようになりました。『コーヒーはいかがですか?』『大丈夫です』という使い方のことですね」(松岡さん)
「結構」は「作りが見事であること」が本来の意だという。
「『剣道は結構な腕前』、『結構な物を頂戴しました』などと使い、『素晴らしく難点がない』、『満足である』という意味になりました」(松岡さん)
“それ以上必要としない”、“十分である”という意味から「もう結構です」という使い方が生じたそうだ。
「さらに最近は、予想に反して満足である場合に『結構面白い』などと使うことが増えています」(松岡さん)
改めて伺うと、実際に両者の言葉をさまざまな意味で使っていることに気付かされる。
■「大丈夫です」、「結構です」を使う際の注意点
たとえば転んで膝から血を流していても、「大丈夫ですか?」と聞かれると「大丈夫です。何とか歩けます」と答えてしまう人が多いそう。その真意を聞いてみた。
「自分を気遣ってくれた相手を心配させまいと思う気持ちが根底にあります。相手の気遣いを婉曲的に辞退しつつも、『お気遣いありがとうございます』、『ご心配かけて申し訳ありません』という言葉が隠れています」(松岡さん)
そのため、相手が「大丈夫です」と言っても本当に大丈夫か見極める必要がある。
では、本来「素晴らしい」という意味がある「結構」はどうだろう。
「近年、特に若い世代ではほとんどその意味で使わなくなりました。『いや~結構、結構』というほめ言葉は少し古臭い印象なのかもしれません。現在は、“かなり”、“思ったより”という副詞として『結構よかった』、『結構おいしかった』という使い方が一般的です」(松岡さん)
「予約は10時で大丈夫ですか?」という問いには、つい「大丈夫です」と答えてしまいがちだ。
「そこは『はい結構です』と答えるべきです。しかし現代の感覚だと『結構です』の語感が少し強く、否定的な意味の方が使いやすいのかもしれません」(松岡さん)
松岡さんいわく、「大丈夫ですか」や「よろしいですか」という問いに対し、「大丈夫です」、「はい結構です」、「いいえ、もう結構です」などを上手に使い分けられると “洗練された言葉の使い手”になれるとのことだ。
■他にも複数の意味を持つ言葉はある?
「大丈夫」や「結構」のように、複数の意味を持つ言葉は他にもあるのだろうか。
「『すみません』は、自分の気持ちが『済まない=片付かない』という意味で、本来『遅刻して、すみませんでした』という謝罪や、『すみませんがペンを貸してください』という依頼の際に使います」(松岡さん)
謝罪や依頼を受け入れてもらえたらお礼を言うもの。そこから、お礼を伝える言葉としても使われるようになったという。
「『お弁当をご用意頂きすみません』などですが、謝罪、依頼、感謝の気持ちを真摯に伝えるにはもっと相応しい言葉があるため、TPOをわきまえて使用すべきでしょう」(松岡さん)
最後に松岡さんは「複数の意味を持つ言葉は一つひとつの意味が薄まってしまうので、気を付けて使いましょう」とアドバイスをくれた。何気なく口にしている言葉だが、自分の意が相手に伝わっているか、TPOに合った言葉かどうか留意しながら使うと、よりよいコミュニケーションが生まれるだろう。
●専門家プロフィール:松岡 友子
マニエール・トモ代表。コミュニケーションマナーアドバイザー®。駒沢女子大学・戸板女子短期大学非常勤講師。研修講師としての登壇回数は1000回を超える。ビジネスマナーからセルフマネジメント、キャリアデザインまで幅広く研修、講演を行う。
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