■山菜を知らないのは「目にすることがない」から?
春を告げる食材である「山菜」。時期が来ると、近所の人からおすそ分けをいただくという家庭もあるだろう。しかし昨今、山菜になじみのない若者も多いようだ。
「今の若い人が山菜のことを知らないのだとしたら、山菜を知るきっかけがなくなってきているということが考えられます」(佐藤さん)
都市部で生活する若者は、山菜が並ぶスーパーや「山菜のおすそ分け」という文化に触れる機会がないのも想像ができる。
「反対に山菜を知っているという若い人は、親や祖父母に連れられて山菜取りをした体験がきっかけになっていることが多いですね」(佐藤さん)
大規模な土地の開発など、「環境の変化も原因になっている」と佐藤さんは言う。
「最近では、開発により山菜が取れる野山が減ってきています。さらに、山菜を知らない世代が親になり、食卓に上がらなくなったということも考えられます」(佐藤さん)
実際に山菜を見る、触れる機会がなければ、存在すら知らなくても当たり前だ。「環境の変化」は「山菜離れ」の大きな要因といえるだろう。
■消え行く食材には、親世代の影響も
山菜だけではなく、親世代が食べなくなった食材が次世代に引き継がれることは、やはり難しいのだろうか。
「いつ、何を、どのくらい食べるかなどの食習慣は、幼少期に親の影響を大きく受けるといわれています。親世代が食べなくなった食材は、家庭の食卓にも並ばなくなります。次世代とされる子ども達が、その食材を知るきっかけが一つ減ることにもなるでしょう」(佐藤さん)
上記を踏まえると「親世代が食べなくなった食材が、次世代に引き継がれなくなるということはあり得る」と佐藤さんは警鐘を鳴らす。
高度成長期以降、日本では食の欧米化、グローバル化が進んでいる。このような状況も、日本独自の食材や料理が消えつつある状況に拍車をかけているのだろう。
■手軽に使える「下ごしらえ済み商品」も
山菜といえば、おひたしや煮物といった副菜を思い浮かべるのではないか。“どのように調理したらよいかわからない”という人もいるかもしれない。
「山菜は炊き込みご飯、和風パスタ、そば、ナムル、天ぷら、みそ炒めほか、いろいろな料理に応用することができます」(佐藤さん)
メイン料理としておいしく食べられるのであれば、ぜひ挑戦してみたい。野山が身近にない場合でも、八百屋やスーパーマーケットで手に入るのだろうか?
「生だと売場面積や商品数は限定的ですが、山菜を置く小売店は現在もあります。直売店や道の駅のようなところだけでなく、チェーン展開しているスーパーマーケットでも、下処理をされた水煮タイプのゼンマイやワラビ、炊き込みご飯用の山菜セットが販売されています。スーパーによっては、生のフキノトウやタラノメ、ウドなどを『春野菜』として販売している店舗もありますよ」(佐藤さん)
山菜のほとんどはアクが強く、生だとそのまま食べることはできないとか。そのため、「しっかり下処理(アク抜き)を行う必要があります」と佐藤さんは続ける。
「アク抜きには、毒素を取り除く効果も期待されています。タラノメ、フキノトウ、ウド、フキ、コゴミは水に10分程度つける、ワラビ、ゼンマイは重曹をふり、熱湯を注いで常温で一晩置くという方法があります」(佐藤さん)
正しい調理法で、旬の味覚をおいしくいただきたいものだ。
■山菜の採集で注意しておきたいこと
ハイキング、キャンプなどのアウトドアブームに伴い、山菜を採集する人もいるという。注意すべきことはあるか。
「一般に流通している山菜は、食用と認められているため毒性はありません。しかし、見た目が似た植物で毒性のあるものもあります」(佐藤さん)
具体例を教えてくれた。
「たとえばセリに似たドクゼリ、ノビルに似たヒガンバナ、フキノトウに似たハシリドコロには毒性があり、誤って食べてしまった場合の中毒症状が懸念されます」(佐藤さん)
似ている植物に毒性があるとなると、素人は安易に採取しない方がよさそうだ。
「農林水産省のサイトでも“知らない野草、山菜は採らない、食べない!”と、注意喚起されています。山菜に似た有害植物をまとめた情報も掲載されています。山菜を採るときは『知っているものしか採らない』『熟練者に確認してもらう』『1本ずつ確認して採る』といった点に十分注意してください」(佐藤さん)
季節の味を今に伝える山菜。その見た目からも、自然のありがたみや春の訪れを感じる。調理法や採集のハードルが高いと感じることもあるかもしれないが、今回伺ったことを参考に、日本の伝統食材である山菜で食卓を彩ってみてはいかがだろう。
●専門家プロフィール:佐藤志歩
株式会社ソフィアプロモーション管理栄養士。
日頃より生活者に近い立場で「食による健康」を発信。セミナー・レシピ監修・商品開発・教育・メディア出演などを行う。
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