■子ども1人あたり3,000万円必要という噂の真相は?
最初に、子ども1人育てるのにいくら必要なのか質問をぶつけてみた。
「国民生活白書の調査では1,300万円ほどですが、保険会社などの調査では3,000万円やそれ以上の算出をしています。少子化を懸念する政府と、金額を訴求して学資保険等の契約に結びつけたい保険会社の思惑によって、集計金額が大きく変わっているのは認識しておく必要があるでしょう」(武藤さん)
3,000万円以上と言われると、それだけで2人目をあきらめてしまう家庭も多そうだ。この数字の信憑性はどうだろうか。
「とある保険会社の『3,000万円』の根拠を紐解いてみると、『全て私立学校』、『低学年からの塾通い』、『子どもの小遣いが通算400万円以上』などが前提条件になっています。このような家庭も無いとは言いませんが、平均的な水準からは乖離していると考えられます」(武藤さん)
では、国民生活白書の数字は信頼に値するのだろうか。
「保険会社では推計した費目を足し算していくのに対し、国民生活白書では総務省の『家計調査』をベースに『子どもが1人いる世帯の支出』から『子どものいない世帯の支出』を差し引いて算出しています。そのため多少の『統計上の誤謬(ごびゅう)』を考慮したとしても、それなりに実態に即した数字であると評価してもよいでしょう」(武藤さん)
そうあってほしいという希望もあるが、国民生活白書の数字を信じたい。
■1,300万円でもなお高い?助成金は?
しかし計算してみると、1,300万円もの負担も疑問だ。
「1,300万円という金額が実際に口座や財布から出ていくというのは、その通りかもしれません。ただし、『子育て中に入ってくるお金』があることも、知っておいたほうがよいでしょう。実際には、『出産育児一時金』や『児童手当』(*)などの公的な助成金だけでも1人あたり通算で200万円前後は支給されます。年収が基準以下の場合には、さらに『児童扶養手当』や『児童育成手当』が各地方自治体から支給されます」(武藤さん)
(*)児童手当受給には所得制限があります
200万円は少なくない金額だ。しかし、それを差し引いても1,000万円以上のお金が必要なことには変わりないようだ。
「家庭にもよりますが、両家の両親からの有形無形の援助を期待できるケースもあるでしょう」(武藤さん)
年金をしっかり受給できる世代は、孫の援助ともなると財布のヒモが緩みっぱなしということも少なからずある。節度ある範囲でなら、援助をお願いしてみてもよいのかもしれない。
「ついでに、教育資金贈与の非課税制度も知っておくと役に立つかもしれません。2021年3月末までの特例措置ですが、最大1,500万円もの金額が申告により非課税で贈与可能となっています。学校以外にも、学習塾やスポーツ教室の月謝などにも適用できることも見逃せません」(武藤さん)
これは、知っておくべき情報といえよう。
■「2人目、3人目にかかる費用は減っていく」は本当か
子どもが増えるたびに、それぞれにかかる費用は減っていくという話があるようだが……。
「国民生活白書によると2人目にかかる費用は1人目の80.7%、3人目になると59%水準まで減っていくものとされています。しかし、2人目から自動的に費用が少なくなるというわけではありません」(武藤さん)
やはり各家庭での努力や工夫が必要ということか。
「1人目のときには『現在できる最善の環境を整えてあげたい』という気持ちが強いものですが、2人目となると重なる出費に現実が見えてくるものです。出費をお下がりで抑える、塾通いは必要最低限の教科に絞る、さらには公立へ進むように促す等々、各家庭の努力も見逃せません」(武藤さん)
武藤さんは、「子育て費用は15歳~20歳あたりがピークを迎えるため、5年程度のタイムラグがあると上手く回ることも多い」とも教えてくれた。
子宝のタイミングは机上の計算にはそぐわないかもしれない。だが、事前に知っておいて損はなさそうだ。
●専門家プロフィール:武藤英次(むとう えいじ)
カードローンに関する疑問や悩みを解決するサイト「なるほどカードローン」「ナビナビキャッシング」の執筆および監修を担当。地方銀行勤務時にはファイナンシャル・アドバイザー担当を含めた多様な実務経験を積む。現在は大手不動産企業、信用金庫等、幅広く金融や不動産等に関わる記事を多数執筆している。