
■密接な関係にある呼吸と身体
アクション漫画やスポーツ漫画では、呼吸法で力を発揮するという展開がある。実際に、呼吸法でメンタルや肉体をコントロールすることは可能なのだろうか。
「私が専門とするメンタルトレーニングでは、深呼吸による心のコントロール方法があります。これは1960年代の旧ソビエトではじまり、北米を中心に科学的根拠と裏付けをもって発展してきたテクニックです。日本でも取組前の力士、投球前の投手、フリーキック前のサッカー選手などが行っています。彼らが呼吸を整える姿や、深呼吸を行って気持ちを切り替えようとしている姿を目にしたことはないでしょうか? 大切な試合や試験などで、いつも通りの心理状態に整えるために確立されたテクニックです」(大儀見さん)
心と呼吸は密接な関係にある。心が乱れている状態では、呼吸も浅く早くなり、息を吸おう吸おうと脳から信号が送られてくるという。動きにも無駄な力が入り、スムーズな動きやシャープな動きが生まれづらくなってしまうのだ。
「たとえばイライラしたときや不安を感じたとき、人の心は体を守ろうとしたり攻撃に備えようと、脳からアドレナリンやノルアドレナリンというストレスホルモンが分泌されます。そして呼吸は乱れ、浅く早くなり、身構えて無駄な力が入る状態になります。さらに血液は末端から体の中心に集まり、心拍数が上昇します。キョロキョロしたり、音に敏感になったりと過敏な状態になります」(大儀見さん)
大儀見さん曰く、深呼吸を取り入れることで緊張状態を脱出することができるという。平常心や集中力を高め、パフォーマンスを上げるためのテクニックとして、呼吸を整えることはとても重要なのだ。
■深呼吸でメンタルをコントロール
具体的にどう深呼吸をすれば、緊張や不安で一杯なときでもパフォーマンスを発揮できるのだろうか。
「まずは、よい姿勢を作りましょう。『すぅーっ』と、胃袋が縮むイメージで口から自然に心地よく息を吐き出します。次に、胃袋が広がるイメージで鼻からゆっくりと、4秒ほどかけて吸い込みましょう。最後に、口をすぼめて細く長く倍以上の時間をかけて吐き出します。このとき、唇や前歯、舌を使い吐く息を調節してみてください。自分が気持ちよく、心地よいと思える呼吸を行いましょう。目を閉じて行うとさらに効果的です。猫背になっていると胸郭が圧迫され、大きく呼吸ができなくなるので、常によい姿勢で行うようにしてください」(大儀見さん)
また、深呼吸を2回し、口角を上げて目を開けたあとポジティブな言葉をつぶやくという流れもさらに効果的だという。人の心は、言葉や思考、行動で変わってくる。今回の呼吸法を習得すれば、漫画やアニメのように、自分のメンタルや肉体をコントロールすることも可能かもしれない。
●専門家プロフィール:大儀見 浩介(→株式会社メンタリスタ)
株式会社メンタリスタ代表取締役。スポーツ心理学に基づく「メンタルトレーニング」理論をベースとし、 目標設定、集中力アップ、コミュニケーション、チームビルディングなどをテーマに年間約250本の講演活動を行っている。