
■春が旬といわれる理由
春に旬を迎える貝には、どんなものがあるのだろうか。
「二枚貝が多いです。魚介類がおいしい時期は、栄養を蓄え、脂ものる産卵期の前です。3~5月に産卵に備え身が太るのは二枚貝のアサリやハマグリ、ホッキ貝などです。卵を持つと栄養分が卵に取られてしまい身が薄くなるので、産卵前がおいしいとされています」(守屋さん)
よく店頭で見かける二枚貝は春が旬ということで間違いないようだ。では、あわびやサザエなどの巻き貝はどうだろう。
「あわびとサザエの旬は夏です。夏になると身が柔らかくなりおいしくなります」(守屋さん)
貝によっておいしくなる時期が異なることがわかったところで、よい貝を見分けるコツを聞いてみた。
「貝を見慣れていないとわかりにくいですが、二枚貝は表面的な大きさと厚みがあるものがよいでしょう。横から見て厚みがあるものは身が太っている証拠です。サザエは地面をはうための触腕(しょくわん)部分が柿みたいなオレンジ色になっているものがおいしいです」(守屋さん)
スーパーではパックされていてわかりにくいことがあるかもしれないが、よく確認し、おいしそうであれば普段食べない貝にもトライしてみるとよいだろう。
■おいしい貝が沢山あるのに流通しないのはなぜ?
貝だけで図鑑が何冊もできるほど貝類の種類は豊富だ。それでも一般的に出回らない貝が多いのはなぜだろう。毒があるものは除外するにしても、もっと店頭に種類があってもよいのではないか。
「一般的に知られていない、おいしい貝も沢山あります。たとえば、二枚貝のオオミゾガイです。マテ貝のように細長くないですが、長い楕円形のような形です。他の貝に比べてお買い得なのに、なかなか市場には流通しません」(守屋さん)
おいしくて安いのになぜ流通しないのだろう。
「オオミゾガイは体の真ん中に砂袋という袋を持っていて、そこに砂を沢山溜めている個体がときどきいます。貝をむいてちゃんと掃除しないと、おいしく食べることはできません。調理方法がわかりにくいため、流通しにくいのだと思います。ただ、バター炒めにすると甘くてとてもおいしいです」(守屋さん)
確かにそのような下処理が必要な素材は、家庭では調理しにくいかもしれない。
■おいしい貝の食べ方
スーパーなどで手に入る貝類で、おいしい食べ方がないか聞いてみた。
「貝によって食べ方は違いますが、二枚貝だと酒蒸しがおいしいですね。アサリやハマグリはとてもよい出汁が出ますが、いろいろな貝を盛り合わせて酒蒸しにすると、それぞれの出汁が混ざりよりおいしくなります。貝自身に海水を含んでいるので、塩分を足す必要はありません。お酒やワインを入れて、貝の口が開いたらオリーブオイルを少し垂らします。好みでブラックペッパーを足すと更においしく仕上がります」(守屋さん)
貝はメイン料理にこそなりにくいが、専門店があるほどファンの多い食材でもある。しかも低脂肪でタンパク質も豊富だ。皆さんもおいしい時期を見極めて、貝を楽しんでみてはいかがだろうか。
●専門家プロフィール 築地わたなべ(https://www.tsukiji.or.jp/)
築地市場開設時から約90年、豊洲新市場に移転後も営業する老舗の仲卸業者。貝類、特にアワビに関しては多種多様を取り扱う。魚や貝の目利き選りすぐりの品物はネットでも購入可能。築地場外市場にも店を構え営業。魚はすべて天然、新鮮な魚貝を豊洲、築地双方から直送している。