
■サンマの生態と不漁の原因
まずはサンマの生態や近年の漁獲量の傾向から聞いた。
「サンマは南の暖かい海域で生まれ、成長とともに餌が豊富な海域まで北上します。栄養をとって太ったサンマは、産卵のため冷たい親潮(おやしお)水域に沿って南下、回遊します。そこで日本漁船の漁獲対象となるのです」(渡邉さん)
親潮とは、千島列島から日本の東まで達する寒流のことだ。さらに、「サンマの寿命は2年と短く、漁獲量は変動しやすい」と渡邉さん。
「特に近年の漁獲量は減少傾向にあり、2019年、2020年と過去最低を記録しました。今年6月に水産庁にて行われた『不漁問題に関する検討会』では、一番の原因として『日本近海の暖水の影響で海流が変わったこと』があげられました。その影響で稚仔魚(ちしぎょ)が沖合に流されやすくなり、親魚が産卵のために行う南下経路も日本から離れて沖合化したのです」(渡邉さん)
サンマの分布域が沖合化すると、なぜ漁獲量が減るのだろうか。
「漁場が日本の港から遠くなると、往復に何日もかかり小型船では行けません。そのため操業船数や日数が減少します。その上、漁場に行ってもサンマの群が薄く、2年続けての大不漁となりました」(渡邉さん)
ほかにも考えられる原因があるとか。
「『日本近海でマイワシ等が増加し、サンマが近づきにくくなった』、『沖合にサンマの餌が少なく成長が妨げられた』、『公海での外国船の漁獲が増加した』なども原因としてあげられました」(渡邉さん)
近年は、日本のサンマ漁にとって悪い条件が重なっているのだ。
■今年のサンマ漁の傾向
気になる今年の傾向について聞いてみた。
「当センターが集計した9月10日までのサンマ水揚げ量の速報値によると、今年は1,486トンです。過去最低だった昨年の378トンを上回りますが、過去2番目に少なかったおととしの1,910トンを下回っています。不漁と言わざるを得ないですね」(渡邉さん)
残念ながら、今年のサンマ漁も好条件とはいえないようだ。
「今年の漁期当初のサンマ漁場は、港から1,000kmほど離れた公海です。昨年よりやや日本に近いですが、おととしよりは遠いです。群の数は昨年より多いものの、1回あたりの漁獲量は非常に少ない状況でした。8~9月は昨年同様、比較的水温が高い場所にいるサンマを漁獲しています。太りが悪く、群も薄いものでした」(渡邉さん)
こうなると価格も高くなるだろうか。
「セリで付く値段は昨年よりも下回っていますが、おととしよりも高いです。価格も漁獲量に比例しています」(渡邉さん)
とはいえ、がっかりするのはまだ早いとのこと 。
「資源も漁獲量も多かった好条件の年は、遅くても9月には太ったサンマが多く水揚げされました。沖合化し資源が少なくなってからは、漁獲量が増える時期が遅くなる傾向があります。今年9月も漁獲は少なく痩せたサンマが目立ちました。水温が低い北の区域にいる、太ったサンマが南下していないためです。太ったサンマが本格的に漁場に出現するのが、おととし、昨年とも10月に入ってからでした。今年も9月下旬から太ったサンマが出現してきています」(渡邉さん)
つまり、近年のサンマは10月以降が旬なのだ。
「10月以降も、昨年より多くおととしより少ない程度の水揚げが期待できます。価格も昨年よりは下がる可能性があるでしょう。冬が近づくと南下するサンマの脂が少なくなっていきますので、おいしい時期のサンマを逃さず楽しんでください」(渡邉さん)
おいしいサンマの選び方は、口先が黄色くとがり、白目が透明で澄み、銀白色でハリのあるお腹が目印だそう。10月以降のサンマの水揚げに期待し、スーパーや鮮魚店でチェックしてみてはいかがだろうか。
●専門家プロフィール:渡邉 一功(一般社団法人漁業情報サービスセンター)
一般社団法人漁業情報サービスセンター 水産情報部 部長。サンマに関する研究で博士号を取得(海洋科学博士)。主にサンマ、スルメイカ、マイワシ、マサバなどの最新の分布状況、海洋環境との関係を解析し、情報提供を行っている。
画像提供:ピクスタ