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普段クラシック音楽はよく聴く方ですが、先日、生でブラームスの交響曲を聴きに行って100年前の人も聴いていたんだよなと思ってしまいました。相変わらず人は何年経っても基本的には変わらないものだと思いながら。
もちろんブラームスやベートーヴェンの曲は好きなのですが、現代人として現代音楽を少しは聴いておかないと後世の人たちに嗤われるのではないかと危惧します。
幸い、家ではNAXOSのミュージックライブラリーが聴きたい放題なので、主な作曲家は聴くことが出来ます。

そこで質問ですが、現代音楽は古典派やロマン派と違って感情表現というよりは、別の何かの表現だと思います。古典派やロマン派と印象派の曲とでは聴き方も自ずと変えているのではないでしょうか。であるなら、現代音楽の聴き方としては、どう捉えたらいいでしょうか?

どうも現代音楽が難解だというのは、自分が持っている知識が邪魔して、印象を排除した聴き方をしているのではないかと思います。

A 回答 (1件)

仕事として作曲に関わっているので、古典から最前衛の音楽まで膨大な数の作品を聞いてきました。

「現代音楽」という言葉は、20世紀から現在までの作品全体の総称であって、傾向も様式も様々です。現代音楽全体に共通の聞き方というのは考えられません。CDなどが「現代音楽」にジャンルに分類されているというだけでは何もわからないのです。

作曲を自分でやっている人たちは現代の作曲技法を熟知しているので、一般の聴衆にとって難解な音楽でも一応理解できます。私も若いときは、一般の聴衆が現代音楽を聞こうとしないことに不満を感じたものです。ですから、現代人だから現代音楽も聞いておいた方がいい、という考え自体は、関係者としては賛同します。昨今は、コンサートのプログラムから現代音楽が排除される傾向が強いので、少しでも関心を持てくれる人が増えることを祈ります。とはいうものの、私は常に新しい作品が発表されているこの世界を何十年も見てきた結果、専門的な耳だけで聞くことはしなくなり、面白いものは面白い、つまらないものはつまらない、と虚心に聞くことができるようになっています。専門家が聞いてもつまらないものはつまらないのであって、そういうものは難解なものとして見向きもされなくなっても仕方がないと思っています。プロの演奏家にも、仕事だから仕方なく演奏しているけれど本当はやりたくない、という人はかなりいます。

古典派、ロマン派、印象派といった音楽がそれぞれ異なる美学の上に成り立っており、それを踏まえた上で鑑賞した方が理解を深められることを考えれば、現代音楽にもそれに見合った聞き方があるのではないかという発想も理解できます。しかし先ほども書いたように、これは容易なことではありません。20世紀以降は様々な試みがあり、前衛的な作風の人もいれば、それに反対する保守的な人もいます。方向も美学も混沌としていて、古典派時代、ロマン派時代のような、その時代の大部分の作曲家に共通する美学や様式はもはや存在しません。したがって、個々の作曲家について知らなければなりません。

例えば、20世紀の現代音楽を代表する作曲家としてまず出てくる名前には、シェーンベルク、ベルク、ウェーベルンの3人による新ウィーン楽派や、バルトーク、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチなどがあります。新ウィーン楽派は、それまでの「調性音楽」、「ドレミファソラシド」の音階を基礎とする音楽の代わりに、十二音技法といって、「ドレミファソラシド」の音の間にある半音を含むすべての音、オクターブ中の12の音を均一に用いる技法を開発しました。その結果、「ハ長調」とか「ト短調」という「調」が崩壊したのですが、この方法で書かれた音楽は、実際には作曲家がメロディー・ラインを書いていても、訓練されていない聴覚にはメロディーとして認識されにくいという問題があります。つまり、現代音楽の多くが難解と感じられる理由の一つは、古典的な音楽に慣れている聴覚にはメロディーやハーモニーが把握、記憶しにくいということです。これは感覚的な適応の問題なので、数をたくさん聞いてだんだん慣れるよりほかありません。

「古典派」という概念は、古代ギリシャやローマの彫刻のような均整のとれた造形美に由来するので、形式美が第一です。「ロマン派」は、この世界全体を知ろうという欲求と、民族的なものへの強い関心があります。そのため、古典的な形式感からははみ出ることが多くなります。「印象派」は、目の前の情景から受ける印象を客観的に移し替えたものです。

同じ作曲家の作品であっても、生涯の各時期で大きく作風が変わり、美学も異なります。シェーンベルクという作曲家にしても、初期の作品は「後期ロマン派」の作風です。こんにち演奏会で最も取り上げられる機会の多いのは、この時期の「浄夜」「グレの歌」「ペレアスとメリザンド」といった作品です。これらは、ロマン派の音楽を聴くときとあまり変わりはありません。

そのあとに「表現主義」の時期がきます。これは印象主義の対極にあり、自己の感情を主観的に表現したものです。感情表現が優先され、古典派のような形式美は重要ではなくなりますので、古典派の音楽の美を求めて聞いても理解できません。内面の叫びのようなものです。マーラーの晩年の作品には表現主義的な傾向がすでに表れていますが、シェーンベルクの中期の作品のほか、ベルク、ウェーベルン、バルトーク、ヒンデミットなどの初期の作品にも表現主義的な傾向が強いです。

表現主義のあとにシェーンベルクが完成した12音技法は、一般に難解な現代音楽の代名詞のように扱われていますが、シェーンベルク自身は、「形式」と「理解しやすさ」をめざすという考えがもとにあって、「進歩するブラームス」などという言い方もしています。実際、ベートーヴェンやブラームス同様、ソナタ形式などを使って作曲をしており、12の音を一回ずつ使用した「音列」をもとに全曲を構成しようという考え方は、バッハのフーガなどと原理は同じです。表面的な響きは現代的であっても、根底には古典的な構成美学があります。ただ、これが結果として、聴覚にとっては必ずしも「理解しやすさ」の効果を上げなかったことは事実です。この辺の食い違いも、鑑賞者にとって壁になります。

ストラヴィンスキーなども、もっとも有名な三大バレエ「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」が書かれた時期は「バーバリズム」の時代で、原初的なエネルギーが表現の中心にあります。しかし中期になると、「新古典主義」に移行して、全体の構成の方が重要になります。さらにシェーンベルクの死後突然12音技法を使い始め、また全然違う美学の作品を書くようになりましたが、これらはほとんど演奏されることがありません。

20世紀中ごろは前衛の嵐が吹き荒れ、とにかく何でもいいからまだ誰もやったことがない新しいものを打ち出さなければならない、という時代が来ます。そのためには、音楽以外の分野からアイデアを取ることもあったので、哲学的、思想的、政治的なものからの発想や、数学的な操作、言語学からの影響など様々です。個々の作品に適切な聞き方を知るためには、毎回解説が必要です。また、「新ロマン主義」、「新バロック主義」など、過去の音楽の様式を新たな視点からとらえ直し、現代的な響きの装いを施して復興しようとする方向もあります。

そんな中で出てきたジョン・ケージの偶然性の音楽などは、西洋の考え方を離れ、東洋の思想に影響されています。また、その後さらに出てきた「ミニマル・ミュージック」という傾向なども、インド、インドネシア、アフリカなど、非西洋の音楽から影響を受けており、これらはもはや、西洋音楽としての聴き方だけでは鑑賞できません。

こういう事情があるので、現代音楽を聴き始めるときは、後期ロマン派から徐々に時代を下りながら、その都度新たに出会う様式や美学を知るようにすることをお勧めします。同じ現代音楽に分類されるものでも、古典と同じ感覚で鑑賞できるものから、逆立ちしても理解できないものまでいろいろあるということです。また、現代音楽に起こったさまざまな変革は、文学や美術の分野にもありますので、そちらも総合的にみると理解の一助となります。

ただ、より良い理解に必要な聞き方や知識は大事ですが、全く何も考えない虚心の聴き方も捨てるべきではありません。音楽史上重要な作品とされているとか、評論家や学者が高く評価しているとか、そういうことをあまり気にする必要はありません。重要とされているから知らないと恥ずかしい、という理由で聞くのは、必ずしも正しい聞き方ではないと思います。あくまでも自分がよいと思うから聞く、ということでよいのです。

ベートーヴェンやブラームスの時代には、彼ら以外にもたくさんの作曲家がいましたが残りませんでした。ナクソスからは、膨大な数の作曲家の作品が出ています。現代の作品の多くは、数十年後には残っているかどうかわかりません。まさに玉石混淆で、まだ評価が定まらないものの方が多いともいえます。まずは「現代音楽の古典」と呼ばれるような作品から聞くとよいと思いますが、一度聞いてピンとこなかったらとりあえず脇に置いて、どんどん次の作品へ聞き進めればよいと思います。いろいろな方向のものを聞き比べていくうちに、おのずから自分なりの聞き方が出来上がっていくと思います。

以下は、私がこれまでにかかわった、現代音楽関係のスレッドです。御参考まで。

https://oshiete.goo.ne.jp/qa/8784711.html
http://okwave.jp/qa/q9031340/a25126263.html
https://oshiete.goo.ne.jp/qa/9050960.html
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この回答へのお礼

大変丁寧な回答をしていただき、質問した甲斐がありました。感謝してもしきれません。個人的なことで申し訳ないのですが、長年クラシック音楽を聴いてきて現代音楽の作曲家の名前はちらほら耳にするものの、その作品についてあるとき全く無知なのに気付いて愕然としました。そこで時系列に聴いていこうと思い、作曲家の生年などを頼りにメモしてみました。その中で、リゲティの『アトモスフェール』やペンデレツキの『広島の犠牲者に捧げる哀歌』、武満徹さんの『How Throw the Wind』などを聴いてみてますます他も聴いてみたい気になりました。ブラームスやベートーヴェンの時代の作曲家も淘汰されてきたとおっしゃるように、現代の曲も時が淘汰するのでしょう。「量が質を呼ぶ」という言葉もありますので、先入観を持たずに聴いて行きたいと思います。また、フランスの作家プルーストが言っているように、知性よりも印象を大事にして聴いて行きたいと思います。今日はどうもありがとうございました。ご活躍をお祈りしています。

お礼日時:2015/09/13 20:56

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