No.3ベストアンサー
- 回答日時:
『プロレゴーメナ』の序言のなかで、カントは「デヴィッド・ヒュームのうながしこそが……独断のまどろみを破り」と言っていますが、ここで言われている「独断のまどろみ」とは、当時のドイツで主流であり、カントも学んだライプニッツ=ヴォルフ学派の形而上学のことです。
ヒュームの因果律批判を受け、従来の形而上学を捨てた上で、あらたに哲学思考の基礎を打ち立てることにした、それが『純粋理性批判』であり、その入門書としての『プロレゴーメナ』である、と言っているのです。もう少し具体的に説明します。
形而上学、言い換えれば日常的経験を超えた、神や人間の自由、霊魂の不死やイデアについて考察する学問は、ギリシャ時代から連綿と続いていました。
近世に入り、数学や自然科学が発展していくと、デカルトやライプニッツらは、自分たちが専門とする自然学や数学が、こうした形而上学と矛盾しないことを証明しようとします。たとえばニュートンは絶対空間に「神の感覚器官」という位置づけを与えています。
このような流れを受けて、ドイツではライプニッツ=ヴォルフ学派が成立します。おおざっぱに言ってしまうと、一切のものごとは根本原理から論理的必然性によって演繹をおこなっていく合理的認識によって認識しうる、という考え方です。つまり、数学的観念と同様に、神であるとか、世界(存在するものの全体)であるとか、イデアといった観念も、理性的観念であるから、普遍性と客観的妥当性を持つことができる、と考えたのです。
カントも大学時代、このライプニッツ=ヴォルフ学派を学び、そののち大学で数学や自然学、やがて論理学と形而上学を教えるようになります。
それに対して、ヒュームに代表されるイギリスの経験主義は、経験に寄らない「理性的観念」を否定します。そうしてカントは「ヒュームのうながし」によって、「独断のまどろみ」から目覚めた。目覚めて何をしたかというと、ヴォルフ学派を批判したのです。従来の形而上学が合理的に論証し得たと思い込んでいるのは、理性の自己欺瞞にすぎない、と。
ただ、ヒュームは因果律そのものを否定しますから、そこでは自然科学も成立しません。2+3=5という数学的認識さえも、蓋然的真理にすぎないことになる。けれどもカントは自然科学は確実性を持つと考えたし、一方で敬虔なキリスト教徒でもあったために、形而上学的な要求も強くありました。その上で書かれたのが『純粋理性批判』だったのです。
・・・カントが、数年にわたって三度におよんで一貫して「まどろみ(Schlmmer)」という表現をとり、けっして「眠り(Schlaf)」とか「夢(Traum)」と言わなかったという事実には、一般にはほとんど注意が払われていない。表現上の些細な問題と一蹴してしまえばそれまでであるが、ここにも解釈上の「仮象」がひそんではいないであろうか。
石川文康著「カント入門」より抜粋
というわで質問してみました。
お忙しいところご回答いただきありがとうございました。
No.2
- 回答日時:
>>カントの言う「まどろみ」とはどういう状態のことを述べているのでしょうか?
ヒュームへのコメント「懐疑論に座礁してしまった。」という点を参考にすると、
「独断のまどろみ 」とはソクラテスの「無知の知」の言い換えのようですね。
知という大海に船出した哲学者が大海の小さな島を見つけ、そこが地の果てだと思い込むという意味ですね。
それが「独断のまどろみ」状態ですね。
知は人間が理解できるものもできないものもある、その広さに謙虚になれといういう戒めだと思いますよ。
No.1
- 回答日時:
(1)本来の夢想
(2)「これまでそうだったように,明日も日は昇る」というような認識の状態
(3)「これまでそうだったからといって,明日も日は昇るとは限らない」というような認識の状態
(3)から(2)を見ますと「これまでそうであったように永遠にそうであって欲しい」という叶わぬ願望を含んでいて,より夢想的であると言えるでしょう。
しかしまた,そうは言っても,比較対象を変えて,より夢想的とかより現実的であるとか言うだけのことなのですが,(2)は(1)に対しては,より現実的な状態です。
現実に対してはもちろん,より夢想的な夢であり,夢の中の夢に対してはより現実的な「まどろみ」の状態に,(2)の状態をたとえたのでしょう。
夢の中で夢をみるとき,夢(虚構)と現実(真実)の区別を知っているつもりで,とっても気持ちのよい状態なんですね。そこから「あ,夢だった」と目覚めたのでしょう。
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