■健康と環境に個人差あり
人は何歳で運転をやめるのが理想なのだろうか。
「個人差が大きいため、具体的な年齢を設定するのは難しいと考えています。同じ年齢でもお元気で運転に全く問題がない方もいらっしゃいますし、その逆の方もいます」(志堂寺先生)
健康の個人差に加え、生活状況や居住地域によっても考え方は変わるという。
「車をあまり必要としない生活を送っている、公共交通機関が比較的便利な地域にお住まいの場合などは、運転をやめる決断は比較的容易かもしれません。逆に、公共交通機関があまり便利でない場所に住んでいる方は、決断しにくい状況であるのが実態です」(志堂寺先生)
個人差が大きいとはいえ、時間と共に加齢の影響が出てくるのが自然だ。
「高齢者事故の最大の原因は心身の諸機能が低下することです。知覚能力や運動能力だけでなく、注意力や判断力も低下していきます。心身の機能が少し低下するくらいで車を運転することに影響がなければよいですが、ある程度加齢が進むと運転に影響が出てくるようになります。具体的には、運転がスムーズでなくなったり、小さなキズをボディにつけたりするようになります」(志堂寺先生)
同乗の際に異変がないか、車のボディのキズが増えていないか、見逃さないようにすることが重要だ。
■免許を返納してもらうには
住んでいる地域によっては、高齢者でも免許が手放せないこともある。
「公共交通機関の利便性が悪い地域にお住まいの方は、毎日車を使用する必要があり、免許返納は非常に大きな課題です。公共交通機関が安く便利に使えるようになることが望ましいですが、ななかなかそうもいきません。このため、自治体や事業者等がタクシーやバスの料金割引サービスなどのさまざまな支援策を提供しているところもたくさんあります。お住まいの地域によって利用できるサービスが異なりますので、調べてみることをおすすめします」(志堂寺先生)
免許を返納し外出が減り、安心感を得られる一方、認知症になる可能性があると心配する声もあるらしいが……。
「免許返納したからといって、かなりの確率で認知症になるというわけではありません。免許を返納して健康に暮らしておられる方々もたくさんいらっしゃいます。免許返納をすることの問題点は、今までの生活が大きく変わることです。車を手放すと気軽に外出できなくなり、寂しさを感じることもあるでしょう。本人任せにしてしまうと、次第に外出しなくなることもあります。周囲の人たちが積極的に関わり外出の機会を増やしたり、楽しいことを提供することが必要です」(志堂寺先生)
どのようにすれば、気持ちよく免許を返納してもらえるのか。
「話をする人が、信頼できる人であることが極めて重要です。高齢の親御さんに説得する場合は、普段から頻繁に連絡を取り、困ったことを解決してあげていることが大切です。その上で、免許返納後の生活について話し合い、しっかりと準備をしてください。警察官やかかりつけ医から話をしてもらう方法もあります。また、免許返納に関する専用相談ダイヤル(#8080)が開設されていますので、電話相談することもできます」(志堂寺先生)
住んでいる地域によって車は生活必需品だ。高齢者の気持ちに寄り添い、誠実な気持ちで説得し気持ちよく免許返納をしてもらいたい。
●専門家プロフィール:志堂寺和則
九州大学大学院教授。同大学院で交通心理学を中心とした研究教育に従事。日本交通心理学会副会長。『大切な親に、これなら「決心」させられる! 免許返納セラピー』(講談社)監修。ドライバー心理に関する著書、講演、取材多数。
●取材協力:高齢ドライバードットコム
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