■持ち帰りOKなもの、NGなものと、その判断基準
ズバリ、持ち帰りOKなもの、NGなものをそれぞれ聞いてみた。
「小分けされているシャンプーや歯ブラシ、カミソリ、スリッパなどは使い捨てであり、消耗品なので持ち帰りOKですが、その他の備品は、基本的にNGと考えてよいでしょう。ですが、消耗品とはいえ、ボトル入りのシャンプーを別の容器に移し替えたり、ティッシュの箱の中身を持ち帰ることはNGです。ホテルや旅館の名入りタオルなど、1回のみの使用を想定しているような物はOKでしょうが、クリーニングして再利用をしているような厚手のものはNGでしょう」(大塚さん)
大塚さんいわく、「上記のような持ち帰りOKの備品は、宿泊客にサービスとして無料で提供していると考えられるため、許されているに過ぎない」とのこと。持ち帰りの判断には、宿泊者の「常識」が問われるようだ。
「備品は基本的に、ホテルや旅館の所有物であり、無断で持ち去る行為は『窃盗』になります。一般的には、その物を持ち去る行為が社会的に相当か否か、当事者(ホテルや旅館)の合理的意思解釈(持ち帰りを認めているか否か)が判断基準となることが多いです」(大塚さん)
大塚さんの言う「常識」とは、宿泊者がホテルや旅館の「合理的意思解釈」を汲み取り、持ち帰ってよいものかを判断できる力のこと。誰しもが持ち合わせていたいものだが、実際はそうでない人もいるようだ。
■ホテルや旅館が出来ること、宿泊者が心がけること
大塚さんの記憶に残る、驚きの「持ち帰り事件」がこれまでなかったか聞いてみた。
「旅館の宿泊客が、分かっていながら旅館の提供した丹前や帯、浴衣、下駄を着用したまま旅館から立ち去る行為があり『窃盗罪に該当する』とした最高裁判例がありました」(大塚さん)
先の話によると、「備品は、原則としてホテルや旅館の所有物」であるので、当然の結果だ。
「持ち帰りOKのものを除き、備品はホテル、旅館の所有物であるため、原則として窃盗罪が成立します。ホテル、旅館側には、その所有物の返還請求や、場合によっては損害賠償請求権が認められます。ですが、経済的に価値がない、あるいは低額に留まるものについては、犯罪として処分されないこともあります」(大塚さん)
窃盗罪が成立しても宿泊者が返還に応じてくれない場合は、ホテル側が手間や費用により損をしてしまうこともあるという。そうならない為、ホテル側が出来ることはあるだろうか。
「事前に対策を講じておくのが賢明ですね。例えば、持ち帰りNGの備品は固定しておいたり、鎖等で繋げておくのは効果的でしょう。持ち帰ってよい物を明記し、それ以外の物の持ち去りを禁ずる旨を、宿泊客が理解できる言語で目につくように記載しておくことなども、よいかもしれませんね」(大塚さん)
宿泊者にとっては、悪気なく備品を持ち帰り訴訟を起こされてしまったら、楽しかったはずの旅行も台無しだ。「常識」を持ち、旅の後は持ち帰りOKのアメニティグッズなどで余韻に浸る程度がよいのだろう。
●専門家プロフィール:大塚 嘉一
1956年埼玉県に生まれる。1979年早稲田大学法学部卒業。1988年弁護士登録(埼玉弁護士会)。菊地・高野法律事務所に入所。2000年埼玉弁護士会副会長に就任。2004年菊地総合法律事務所代表パートナーに就任。