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No.1ベストアンサー
- 回答日時:
1970年代から、放射線技術の進歩により人の脳を輪切りの形で撮影することができるようになりました。
今でしたら大きな病院であればどこでも備えられているCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)という脳の画像解析装置です。 この装置を使って、統合失調症患者さんの脳の形を調べた研究が数多くなされました。
今までのところ、多くの研究者の間で一致している意見としては、対照群に比べ脳室(脳の中心にあって脳脊髄液という液体で満ちている空間)が拡大していること(逆にいうと脳の実質が小さくなっているということ)、前頭葉や側頭葉が小さいこと、大脳辺縁系の海馬や扁桃体がとくに左側で小さいことなどです(ただし、小さいといっても統計的に対照群と比較して小さいということで、脳の画像を見て診断ができるほど大きく違うということはありません。 それでもこのような所見が研究者の間で注目されるのは、これが統合失調症の本質的な病因を探るための手がかりになるのではないかと考えられているからです)。
これらの脳の部位が小さいということは、その機能も障害されているのであろうと想定されます。
図1にMRIによる脳の断面図を示しました。
脳の細部までかたちがよくわかります。
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【図1】耳を通る斜めの平面で脳を切るようにして得た横断面です。脳の周囲のしわが大脳皮質です。中央にある明るいところは、脳室と呼ばれ脳脊髄液とよばれる液体で満たされています。
PETやfMRI
最近では科学技術の格段の進歩により、脳の形だけでなく、脳の活動もそのままの状態で調べることができるようになってきました。
脳のある部分が活発に活動すると、エネルギーのもとになるブドウ糖がそこでたくさん消費されます。 脳の血流もその部位で増えて、酸素の消費量も増えます。
PET(ポジトロン断層撮影法)、SPECT(シングルフォトン断層撮影法)や機能的MRI(fMRI)などとよばれる方法を使うと、検査されている人の脳の中で、どこでブドウ糖の消費や血流が変化しているかを見ることができます。 頭の中で考え事や計算をしてもらったり、ものを見たり聞いたりしてもらいながらテストをすることもできます。 このようにいろいろな精神活動をしているときに、統合失調症の患者さんは、そうでない人と比べて、脳のどこの部位でどのような特徴的な変化を示すのかを調べるのです。 このような研究は現在世界中で行われています。テストをいろいろ工夫して、統合失調症に特徴的な所見を得ようと研究者は懸命になっています。 機能的MRIによる研究の一例を図2に示しました。 この図ではふつうのMRIの像の上に、課題によって信号が変化している部位を赤色で重ね書きしています。 様々な所見が得られていますが、多くの研究者のあいだで支持されている所見は、統合失調症では前頭葉の機能が低下しているのではないかというものです。 とくに前頭葉を働かせるようなテストをしてもらうと、機能の低下がはっきりしてきます。 それ以外にも、左側の側頭葉(言語に関連する領域です)の機能が低下しているという研究者も少なくありません。
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【図2】被験者に指と指を軽くたたいてもらうあいだに撮影し、得られた信号をコンピュータ上で分析して、このときに特異的に信号の強くなる領域を求めます。図 2-1はふつうのMRIによる脳の横断面上に、脳の血流量が増える領域を赤色で示したものです。指どうしをたたくと大脳皮質の運動野で血流が増えていることがわかります。
図2-2はこのとき、得られた情報を擬似的に再構成した脳の上に重ね書きしたものです。コンピュータによる画像処理の進歩で、このようなこともできるようになりました。図2-1とでは右左が逆になっています。 (放射線総合医学研究所須原哲也博士の提供による)
また、PETを使うと脳内の神経伝達物質の受容体なども可視化することができます。
図3では、FLB457というドーパミンD2受容体に結合する標識化合物を使って、ヒト脳でのD2受容体の分布を調べたものです。
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【図3】FLB457というドーパミンD2受容体に結合する標識化合物を使って、ヒト脳でのD2受容体の分布を調べたものです。
赤いほどD2受容体の密度が高く、青いほど低くなっていることを示しています。
脳の横断面で示しています。赤い部分が線条体とよばれるD2受容体の密な部分です。
大脳皮質にもD2受容体は分布していますが、密度は低いようです。 (放射線総合医学研究所須原哲也博士の提供による)
2-2脳の生理的機能の研究からわかったこと
人の脳の機能を丸ごと調べようとするのは、脳の画像診断技術が進歩する前から、脳波や目の動きなどを指標として行われてきていました。
残念ながら、当時の脳波や目の動きなどの生理的指標を用いた研究では、統合失調症の病因に直接アプローチするには限界があったといわざるをえません。 それでも、統合失調症の患者さんは振り子を見てもらったときに、目の動きがぎこちなくなることや、特定の図形を見てもらったときに視点があまり動かず固定しがちであることなどが明らかになっていました。
最近では、いろいろな刺激を与えた後に出現する脳波をコンピュータで分析し、事象関連電位という脳波上の微妙な変化を抽出することによって、刺激が脳の中でどのように情報処理されているかを調べる方法がさかんに行われています。 このうち、聴覚刺激を突然与えた時、約300 ミリ秒後に出現するP300という脳波の波形がよく調べられています。
P300は聴覚刺激後脳内で複雑な情報処理を経てから出現するものと考えられ、統合失調症の患者さんではP300の出現がよくなかったり、出現が遅れたりすることから、脳の情報処理過程の障害が推測されています(図4)。
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【図4】被験者に聴覚刺激を与え、頭頂部から得られた脳波をいくつも加算していくと、ノイズは相殺されて、このような信号が得られます。
赤色が対照群、青の点線が患者さんの脳波です。刺激後約300ミリ秒後に表れる陽性の電位をP300とよびます。
統合失調症の患者さんではこのP300の出現が不良であることがわかります。
2-3統合失調症での認知機能の障がい
今まであげたような研究では、多かれ少なかれ機械を用いて、そこから得られたデータを脳の機能の指標として使っています。それ以外にも、患者さんにいろいろな課題を与えて、それを解決してもらう様子を調べることによって、脳の機能を調べることもできます。 これを神経心理学的な方法といいます。たとえば、記憶力・計算力・注意力・言語などの機能を測定するテストなどは、学校や職場などで経験された方もいらっしゃるかもしれません。 実際のテスト場面では、もう少し理論的に構成した課題を使ったり、いくつかのテストを巧妙に組み合わせたりして行ないます。 統合失調症の患者さんはこのようなテストに対してあまり協力的でないために、見かけ上成績が悪くなる可能性もあるので、検査の実行やその解釈は慎重である必要があります。 このようなテストを行うと、統合失調症の患者さんでは、注意力・記憶力・言語能力などが低めで、抽象的な思考も苦手であることがわかります。
行動の目標を設定し、柔軟かつ計画的に考え実行する力(実行機能といいます)も低下しています。 実際に、このような力が低下しているのは、統合失調症の患者さんの生活の中でしばしば観察され、社会の中で生活する上での障害になっています。
以上のような脳の働きはまとめて、認知機能とよばれています。統合失調症の患者さんではこの認知機能がいろいろな意味で障害されているようです。 そしてこの認知機能は前頭葉や側頭葉を中心として営まれているので、先に述べたfMRIなどの所見とも一致するのです。 ただしこれらの障害は、それだけで診断ができるほど重篤なものではありませんし、統合失調症だけで見られるというのでもありません。 また個人差も大きく、あくまで平均よりも低めに測定結果が出るということに留意して下さい。
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