三島由紀夫の小説が好きでほとんど読みましたが、特に「金閣寺」が好きです。なんども読み返したのですが、序盤で出てくる有為子の存在がわかりません。何の意図をもってこの女性を登場させたのか。三島の意図はどこにあったのかが今いち判然としません。
私の解釈では、主人公が一方的に恋焦がれるものの吃音という障害があり、有為子はきわめて健康的で美人に描かれています。つまり醜⇔美の構図をあらかじめ書いておき、後半の私(醜)⇔金閣寺(美)の伏線を張っておいたと考えるのです。つまり金閣寺を人間の姿で表現したのが有為子であり、恋焦がれるものの絶対に手の届かない存在、神聖な世界(最後に入ろうとして入れなかった究境頂)として描いたと考えるのです。実際「美しいもの」を主人公が見た時に、そこに有為子の姿が重なるという表現がいくつか出てきます。彼女が恋人のところに走ろうとして射殺されてしまうのも、滅びの中に「美」を見出すからであり、有為子の死は最後の金閣寺炎上と作品の最初と最後でつながっている気がするのです。
ただ、それにしても何故三島は修行僧が金閣寺に放火する屈折した感情を表現するために人間(有為子)を登場させたのか、そこが分かりません。美しい人間に恋させることによって、主人公の人間臭さを表現したかったのでしょうか。要するに高度に観念的な理論の積み重ねで「金閣寺を燃やす」という結論に到達させたのでは、まるで主人公がロボットのような無機質な存在になってしまうため、あえて最初の方に有為子を登場させ彼女に恋い焦がれさせることで主人公の人間性を読者に定着させる目的があったように思えるのです。
金閣寺にはいろんな解釈があるでしょうし、各自がそれぞれの解釈をすればいいと思いますが、有為子の存在について考えるところを教示いただければ幸いです。よろしくお願いします。
No.4ベストアンサー
- 回答日時:
No.1の補足です。
私の下手な日本語が誤解させていたら申し訳ない事です。>「私には質問者さんの文章が分かりません」~「宜しいのではありませんか」と書いてしまいましたが、
質問者さんの文章は分かります。質問者さんなりにしっかりと有為子に役割を感じているのに、なんで「それにしても」疑問に思う必要があるかなぁという意味です。
昭和31年10月新潮社刊行の小説「金閣寺」は同年の「新潮」1月号から10月号に”連載”されていたそうです。ちなみにこの年2月、新潮社は出版社としては日本初の週刊誌「週刊新潮」を創刊します。
題材にしているのは、昭和25年7月の金閣寺放火事件。逮捕された21歳の徒弟僧の供述は「美に対する嫉妬と、自分の環境が悪いのに金閣という美しいところに来る有閑(ゆうかん)的な人に対する反感からやった」というもので、実際の彼は小説の内容とは違って、小刀を捨てて生きようと思ったのではなく、死には至りませんでしたが、山中で切腹したようです。
以下主観ですが、この小説はその壮麗な文体とは逆に、無常だとか仏教的に高尚な事を伝えるものではないと思います。ギャップを楽しむ小説ではないでしょうか。最後の生きようとするところなんてガッカリでしょう。作家名、作品名、仏教用語、ぜんぶ堅いイメージですが、内実はナンパであるという、そこが一番、破壊的なのです。
美醜の議論はさておき、有為子は最重要の存在です。建造物としての「金閣寺」も含めて皆等しく《有為》なのです。
《有為》とは、有為転変というように、転変する有限の存在です。いわば消える為に作られた造作です。
★第9章の「同じ店の同じ女を訪ねて」で始まる段落にぜんぶ答えが書いてあると思いますよ。
小説「金閣寺」の衒学的部分は結局仏教理論ではなくやはり三島美学の観念論ですね。現実よりも観念を愛する三島の甘美な精神論を宣伝しています。
もとより金閣とその美醜は三島の関心事ではなかった気がします。おそらく金閣を美しいと思っていない三島がお得意の美辞麗句で修飾した作品です。犯行動機を、自分とは対照的な金閣の美への憧れと反感と見ていた三島は作品内で、作家自身のコンプレックスと怒りに換骨奪胎していると思います。
そう考えると、建前である金閣の美よりも、性的実体として描かれる女たちが三島の本音に直接関係してきます。だから有為子は必須の登場人物です。
有為子は脱走兵との恋に死にます。第三章では進駐軍相手の娼婦が登場します。日本人の精神が地に落ちる現場から、逃れられなかった占領下を物語っています。この場面も主人公が有為の滅殺に関与します。有為子も引用されます。第7章では輪廻のように老師が愛人といるところに出くわします。遊郭の話もそうですし、ぜんぶ性的な女と悪い男の組合せですね。
三島の主題はそっちのように思います。つまり金閣の美よりも有為子たちの方が必要なのです。金閣の美はあくまで実際の事件を筋書きにするための美ではないでしょうか。
主人公は妄想に生きがいを感じています。日本人にとって異常なことではありませんよね。その卑近な心理を三島が三島文学として重々しく表現したまでです。高尚な中身はありません。
質問者さんが有為子の必要性を心配されなくても主人公は十分身近な人物像です。老師に対する心理を読むだけでも普通の青年像でしょう。しかも最後は切腹ではなく生きようと思う人物なのですから、生きるばかりの愚民に向けた皮肉です。主人公は、死ねば有為子のそばに行けるなんて思うまでもなく、有為子の残像と共に生きていくことになるのでしょう。実際の犯人は26歳で病死します。彼に有為子がいたとは思えません。
ですから質問者さんが指摘された有為子の効果も含めて三島は健常人を主人公に卑近な心理を描いたものと想います。
質問者さんの意見も含めて、いろんな見方ができます。個人的には以上のように作品を読ませてもらいました。
大変詳しい説明をいただき、ありがとうございます。確かにご指摘のとおりで、この作品における有為子の存在理由がよく分かりました。金閣寺という作品の中で仮にこの女性の描写が無かったとしたら、おそらく相当評価が違ったものになっていたと思います。回答者様の「もとより金閣とその美醜は三島の関心事ではなかった気がします。~作家自身のコンプレックスと怒りに換骨奪胎していると思います。」の部分はまさにその通りだと思います。三島自身、本来金閣寺そのものには何ら関心がなかったところへ金閣炎上という事件が起こり、その動機がたまたま観念的なものだったことに着想を得て書き上げたものだと思います。いろいろ参考になりました。ありがとうございました。
No.3
- 回答日時:
>何故三島は修行僧が金閣寺に放火する屈折した感情を表現するために人間(有為子)を登場させたのか、そこが分かりません。
語り手(主人公)が金閣放火の顛末を振り返ったとき、有為子と脱走兵の事件が人間の愛欲と裏切りから成る現実世界の縮図として蘇り、これをフィルターにすれば自分の金閣放火の内的必然性も見えてくるはずということで、回想記の冒頭に有為子の事件を紹介する必要があったのではないでしょうか。
なお、有為子に限らず、三島は現実世界の帯びる両義性、多義性、不如意性、劣等意識、恐怖感、嫌悪感、憎悪の念等々に言及するとき、好んで世俗的、常識的な意味での《女性性》と重ねたがり傾向が顕著ですよね。
特に『仮面の告白』、『禁色』、『金閣寺』の主人公たちがいずれもED(勃起障害)を抱えて登場させられていることからすると、これらの物語は、いかにして現実(女性)に対するEDを克服するかをテーマにした物語と解せなくもないような気がします。
その点、『金閣寺』の主人公と金閣の関係って、ちょうどマザコン息子とこれを溺愛する母親(=美の観念)のそれに似てますよね。
こうしてみると、『金閣寺』とは、最愛のママの存在が自分のEDの原因だと勝手に思い込んだ主人公が、実は本当の原因は別にあること気づいたにもかかわらず、今度は有為子が身を以て体現した、愛欲と裏切りという現実の真相にもとづき、自分も有為子の矛盾を実践すべく《実母》を焼き殺してしまったという物語と言えるかもしれません。
その証拠に、金閣放火によって、主人公の現実(女性)に対するED(不安、恐怖、憎悪)が改善されたとは、これを読み終えた読者にはとても感じられませんよね。
作者のEDは生涯治癒されることはなかったような気がします。
ご説明いただき、ありがとうございます。三島の偏った性癖を考えると、確かにEDは三島文学を解釈する大きな鍵と考えられますよね。その部分を中心にして考えると、醜くて不具な自分を包み込む大きな存在(母なる存在)である金閣寺を燃やすことによってそれを克服しようとする物語とも解釈できます。主人公にとって金閣寺は子宮のような存在なのかもしれません。有為子の存在はこうした観念を現実世界の事件を通して表現するための手段だったのかもしれません。有為子と脱走兵の事件と金閣寺放火事件とは一直線につながっているように思えます。重ねて解説をありがとうございました。
No.2
- 回答日時:
まずポイントとしては、主人公にとっての「美」とは金閣である、ということです。
有為子じゃありません。有為子が最も美しかったのは、脱走兵がどこにいるかを尋問された際に黙っていた瞬間、つまり、世界を拒絶した時でした。有為子と金閣(美)が最も同一視されたのはこの時なのですが、その直後、有為子は脱走兵の居場所を指さします。主人公はこの時、『裏切ることによって、とうとう彼女は、俺も受け容れたんだ。彼女は今こそ俺のものなんだ』と語っています。
さらにその後、有為子は単なる「女」として死んだわけですが、この時のことは特に感慨を持っていません。
つまり、この後に主人公の言葉(地の文)の中に登場する「有為子」とは、金閣と同一視された時の、美しいが拒絶する存在ではなく、「裏切ることによって俺のものになった」有為子のことなのです。
第五章、第六章では女は金閣を想起させますが、遊郭に行くようになってからは有為子を想起していることに注目してください。
さて、金閣=美は、第五章から「生」を阻むものとなり、第八章では一回生のものである、ということになります。
「おしなべて生あるものは、金閣のように厳密な一回生を持っていなかった。人間は自然のもろもろの属性の一部を受け持ち、かけがえのきく方法でそれを伝播し、繁殖するに過ぎなかった」
対して有為子は「死も有為子にとっては、かりそめの事件であったかもしれない」などと書かれるようになります。
この時点で金閣と有為子はほぼ対極に置かれる存在になっています。
つまり有為子の存在意義とは、ひとつは「美=金閣」が「拒絶するもの」でもあることを予期させる役割と、金閣との対比を成す「生、受容するもの」を象徴する役割を同時に担っているわけです。
もうひとつ言うと、有為子が最初、彼氏をかばって美しく死のうとしながら、その直後に裏切って自分だけ生きようとしたことは、そのまま、金閣と心中しようとしてやっぱりやめた主人公の伏線であるとも言えます。金閣を燃やすことで主人公は有為子とひとつになれた、という解釈もできるでしょう。ただし、その行為は決してロマンチックでも「美」でもないことは、既に有為子のシーンにて書かれていることです。
もちろん彼女の末路も、書かれざるエピローグを予期させる伏線だと言えるでしょうね。
凡人は血が流れてからびっくりするけど、その時にはすでに全て終わっているわけです。彼は単なる犯罪者として捕まり、裁かれるだけで、もはや書くべき内容を持ちません。銃殺されたりはしないでしょうが。
ご回答ありがとうございます。詳しい解説で大変興味深く読ませていただきました。確かに有為子の裏切り行為と金閣寺との心中を止めた主人公の心理は共通するもので、同じ主題を現実世界と観念世界との両方で表したもののように思えます。そう考えると有為子を物語の最初の方に登場させることによって、最後の放火を予言しているというか伏線を張っているというか、小説の構成上必要な登場人物だったのだと思います。いろいろ説明いただき、ありがとうございました。
No.1
- 回答日時:
まず有為子は健康的な美人には描かれていないと思います。
「一人ぼっちで、何を考えているかわからないところがあった」のです。私には質問者さんの文章が分かりません。というのは、「ただ、それにしても」以降の疑問、つまり有為子を登場させた理由は、「ただ、それにしても」の前の段落にお書きなられている事で宜しいのではありませんか。
好感を持たせるような、いわゆる恋物語にはなっていないと思います。主人公は、彼女を敵の代表のように見立てて、その死を望んでいます。彼女が死ぬくだりの最後、翌朝目をさました主人公は自然の寒さだけを感じています。無機的な締めくくりにしていると思います。恋心どころか主人公は有為子を死に追い詰める側に喜んで参加しているのです。
素直に読めば、有為子のくだりの効果については、主人公の危険性を予感させ、彼を取り巻く世界像の無気味さを手短に紹介したのだと思います。むしろ有為子の話になるまでが普通の少年です。有為子が登場して、主人公が彼女を性欲の対象にしてから、この小説の売りである、尋常でない視点と演出が始まります。人格が屈折した理由を探りに、主人公の記憶を遡ればこの事件に行き当たるのでしょう。原点ですね、孤立感に充ちた。
有為子の死そのものは美しく描かれていません。燃える金閣も同様です。有為子の臨終も、金閣の燃え落ちる様も、どちらも見えていません。主人公は、有為子が死んだ時がそうだったように、焼失する金閣に対して何も感じていないのではないでしょうか。実在する物を積極的に滅ぼしはするのですが、結局、寒さを感じるか、生きようと思うか程度なのです。
とりあえずは、以上のように感じました。
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