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ワーグナーがライトモチーフについて、こういうものであると述べたものはないそうですが…なぜライトモチーフを使用するようになったかその意図などが述べられた本や文献はありますか?

A 回答 (1件)

ありません。

そういう内容の文章があるとしても、
それはワーグナーに限定したものではなく、
ワーグナー以前からの音楽史の流れで説明したものになるはずです。

第一に、「ライトモティーフ」という用語自体がワーグナーによるものではありません。
ワーグナー自身が「ライトモティーフ」という用語を自身の著作で用いたのは一度だけで、
これは、ハンス・フォン・ヴォルツォーゲンという人の著作からの引用です。
ヴォルツォーゲンというのは作家で、ワーグナーが雑誌の編集者としてバイロイトに呼び寄せた人物です。
このヴォルツォーゲンがワーグナーの音楽について書いた文章の中で「ライトモティーフ」という用語を使い、
それを読んだワーグナーが、自分の著作、『ドラマへの音楽の応用について』という著作に引用しただけです。
しかもそれは、ヴォルツォーゲンの言うような「ライトモティーフ」を否定する内容でした。
具体的には、「ヴォルツォーゲンのいわゆる〈ライトモティーフ〉というのは、
モティーフを音楽的構築のために活用するものとしてではなく、
劇的な意味深さや作用という観点からだけ考察したものである」という反論です。

また、「ライトモティーフ」という用語を最初に使ったのはヴォルツォーゲンであるという説明が時々見受けられますが、
この用語を最初に使ったのはフリートリヒ・ヴィルヘルム・イェーンスという音楽家、著作家で、
その『ウェーバーのオペラの年代的・主題的目録』というような著作の中でのことです。

ワーグナーは、代表的な著作、『オペラとドラマ』の中でモティーフの問題を取り上げてはいますが、
自分の作品の中からモティーフを抜き出したり名前を付けたりするのは拒んでいます。
理由は、「金言ではなく、具象的な感情の契機を創造するという詩人の意図に反するから」です。
ワーグナーの考え方は、目的はあくまでもドラマの方であって、音楽はその手段であるというものです。
「何とかのモティーフ」というような考え方は、ドラマの内容を手段として、
音楽の方が最終目的となり、それに重い意味を与えることになります。
これと類似の考え方は、ワーグナー以前に文豪ゲーテが歌曲の作曲について述べたことにも見られます。
歌曲においては、あくまでも歌詞が主、音楽が従で、
音楽の方が前面に出てが詩を解釈するようなことはあってはならない、という考え方です。

それと同時に、ワーグナーにとってモティーフというのは、
オペラを一つの統一的な音楽形式として構築するためのものでした。
これは、歴史的に見た場合、古い時代に番号付きの小品の連続から成っていたオペラの形式が解体され、
全曲を通作するようになるにしたがって、交響曲などの器楽曲のように、
モティーフを活用した統一的な構成を求めるようになっていったという経過の延長線上にあるといえます。

また、一つの作品の中で、同じモティーフを繰り返すことで特定のものを想起させるという心理学的な手段は、
ワーグナー以前からドイツロマン派にあったものです。
日本語版のウィキペディアの「ライトモティーフ」の項には、
「音楽において始まったライトモティーフは、文学にも取り入れられ、トーマス・マンなどの作品に影響を与えた。」
などと書いてありますが、そうではなく、ワーグナー以前の時代から、音楽、文学の両分野でそういう認識がありました。
オペラの分野でも、モティーフの活用というのは、もっと前から少しずつ開発されていたもので、
それがワーグナーにおいて特に最大限の発展に達したということになります。

ワーグナー作品の中の個々のモティーフを、何か特定のものや概念の象徴として名づけるというのは、
すでにワーグナーの生前から行われていたことですが、それが盛んになったのは、
こういう説明の方法はある意味通俗的で一般にもわかりやすいという理由からではなかったかと思います。
ワーグナーの妻、コジマの詳細な日記が残っていますが、
1881年8月1日に次のような内容の記述があります。
「ルッシュと一緒に、神々の黄昏の一部を連弾した。リヒャルトは、この作品は自分にとって喜びだと言った。
残念ながら、その楽譜の版には、旅心のモティーフだとか不幸のモティーフだとかの示唆ばかりが出てくる。
リヒャルトは言った。しまいには、こういう馬鹿げたことが私を促したのだと、人々は信じてしまうのだろう!」

もちろん、作曲家自身が述べていることと、実際に書かれた音楽の内容には、
多少の不一致がある場合もあります。
個々のモティーフを何らかの特定のものの象徴として分析することにも多少の意味はあると思いますが、
少なくともワーグナー自身がこういう立場を取っていた以上、
一般に捉えられているような意味での「ライトモティーフ」の使用意図をワーグナー自身が述べているということはあり得ません。

上に書いたことは、すべてドイツ語の音楽事典や論文によるもので、日本語訳はありません。
ワーグナーの『オペラとドラマ』という著作は、日本語訳が出たことがあるようですが、
すでに絶版で、古書として入手すると二万円を超えますので、
読みたいならば図書館を当たる方がよいと思います。
(ただし、上述のように、「ライトモティーフを使用した意図」というのは書かれていません。)
妻、コジマの日記は、日本語訳が入手可能で、
上に引用した記述は、年月日から言って、第3巻に収録されているはずです。
これも安くはありません。
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B3%E3%82%B8%E3%8 …
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この回答へのお礼

助かりました

ワーグナー以前からモチーフの活用は行われていたんですね、しかもモチーフと定義づけることに否定的だったなんて…なんだかすごい勘違いをしていました。汗
丁寧なご説明ありがとうございます、とても勉強になりました。
まずは図書館で探してみようと思います。
ありがとうございました!

お礼日時:2017/10/26 01:32

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