
小説の冒頭部分で『あ~良いかな』と思わない限り、なかなか読む気になりません。ありきたりなものも、いかにも小説っぽい(?)ものも苦手です。かと言って奇をてらったものもダメなんです。加えて日本の小説で気に入った作品を見つけられません。さして読書量が多いわけではないのでマニアック路線を求めている訳ではありません。全体を通して好きな作品は国内外を問わずありますが、冒頭も含めて『コレだ!』という日本の小説を探しています。わがままな質問でイライラするかもしれませんが、暇つぶし程度で構いませんので、皆さんの思いつく小説を教えて下さい。参考までにサリンジャーの作品は書き出しも含めてまずまず好きです。よろしくお願いします。
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
ヒットしそうにありませんが、暇つぶしということで
●坂口安吾『桜の森の満開の下』
桜の花が咲くと人々は酒をぶらさげたり団子をたべて花の下を歩いて絶景だの春ランマンだのと浮かれて陽気になりますが、これは嘘です。なぜ嘘かと申しますと……
●梶井基次郎『桜の樹の下には』
桜の樹の下には屍体が埋まっている!
これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。
●安部公房『終わりし道の標に』
終わった所から始める旅に、終わりはない。墓の中の誕生のことを語らねばならぬ。
●大江健三郎『死者の奢り』
死者たちは、濃褐色の液に浸って、腕を絡みあい、頭を押しつけあって、ぎっしり浮かび、また沈みかかっている。
●水島裕子『人形の脳みそ』
寒さで鳥肌がたった胸を、ホテルのバスルームのドライヤーで暖めた。縮んでしまった胸を男のひとにみせるのは嫌だから、こうやって元に戻すことにしているのだ。だんだんと形が整っていく乳房に優しく手を触れていると……
●太宰治『恥』
菊子さん。恥をかいちゃったわよ。ひどい恥をかきました。顔から火が出る、などの形容はなまぬるい。草原をころげ廻って、わあっと叫びたい、と言っても未だ足りない。
●倉橋由美子『霊魂』
Mは、死病の床に就いているとき、婚約者のKに、
「わたしが死んだら、わたしの霊魂をおそばにまいらせますわ」といった。それからちょっと考え込むようすがあって、「霊魂がおそばにまいりますわ」といいなおした。
沢山の作品をありがとうございます。相当な読書家でいらっしゃるようで恐縮するやら、感心させられるやらです。
坂口安吾は興味ばかりあるのに、未だに何も読んだことの無い作家でした。これを機会に読んでみようと思います。紹介してくれた冒頭はちょっとという感じですが、その先が読みたくなってきました。梶井基次郎は『檸檬』しか知りませんでしたが、こちらのほうがずっと面白そうですね。安部公房は大大大好きなんですが、大江健三郎はダメです。単なる食わず嫌いなんでしょうけど、書き出しだけでなくこのテの文体が苦手なようです。恥ずかしながら水島裕子という名前は初耳かもしれません。冒頭はともかく面白い描写ですね。ここでも太宰作品ですが、ヘタウマ感の漂うぎこちない文章が好きです。私なりに彼の魅力だと思っています。倉橋由美子という作家も知りませんでした。ストーリーはどんなものか解りませんが、冒頭だけを読むとこの『霊魂』が一番私の好きな感じです。かなり良いです。ウマいですよね。これからの秋の夜長を満喫させて頂きます。
No.6
- 回答日時:
中島敦「山月記」
隴西の李徴は博學才穎、天寶の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性狷介、自ら恃む所頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかつた。いくばくもなく官を退いた後は、故山、(くわく)略に歸臥し、人と交を絶つて、ひたすら詩作に耽つた。
博大な教養に裏打ちされた感受性と表現力は、
夭折したのがいかにも惜しいと感じさせます。
上記も一行で人物が躍り、悲劇の予感が濃厚に現れる、と思います。
浅学ながらもっとも好きなもののひとつです
ありがとうございます。やはり出ましたね。私も文句無しに好きです。創り込んだ感は確かにあるのに、それでも勢いを失っていない文章に、ひたすら感嘆と溜め息を繰り返してしまいます。若い時分は冒頭くらいならソラで言えたものですが、久し振りに読み返してみたくなりました。こうした文章、物語を書く新しい作家に出逢いたいものです。
No.5
- 回答日時:
○川端康成 『片腕』
「片腕を一晩お貸ししてもいいわ。」と娘は言つた。そして右腕を肩からはづすと、それを左手に持つて私の膝においた。
「ありがたう。」と私は膝を見た。娘の右腕のあたたかさが膝に伝はつた。
○太宰治 『駆込み訴え』
申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。ああ。我慢ならない。生かして置けねえ。
○島尾敏雄 『出発は遂に訪れず』
もし出発しないなら、その日も同じふだんの日と変るはずがない。一年半のあいだ死支度をしたあげく、八月十三日の夕方防備隊司令官から特攻戦発動の信令を受けとり、遂に最期の日が来たことを知らされて、こころにもからだにも死装束をまとったが、発進の合図がいっこうにかからぬまま足ぶみをしていたから、近づいて来た死は、はたとその歩みを止めた。
○武田泰淳 『もの喰う女』
よく考えてみると、私はこの二年ばかり、革命にも参加せず、国家や家族のために働きもせず、ただたんに少数の女たちと飲食を共にするために、金を儲け、夜をむかえ、朝を待っていたような気がします。
○金子光晴 『マレー蘭印紀行』 「センブロン河」
川は森林の脚をくぐって流れる。・・・・泥と、水底で朽ちた木の葉の灰汁をふくんで粘土色にふくらんだ水が、気のつかぬくらいしずかにうごいている。
○中河与一 『天の夕顔』
信じがたいと思われるでしょう。信じるということが現代人にとっていかに困難なことかということは、わたくしもよく知っています。それでいて最も信じがたいようなことを、最も熱烈に信じているという、この狂熱に近い話を、どうぞ判断していただきたいのです。
○丸谷才一 『贈り物』
世の中でいちばん馬鹿ばかしいものは、二つあって、一つは兵隊、もう一つは恋愛だと思ふな。だから、兵隊の恋愛といふのは、これはもう、馬鹿ばかしさの極致みたいなもんだ。絶対さうですよ。
○宮本輝 『錦繍』
前略
蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。
○宮本輝 『星々の悲しみ』
その年、ぼくは百六十二篇の小説を読んだ。十八歳だったから、一九六五年のことだ。
○池澤夏樹 『マシアス・ギリの失脚』
朝から話をはじめよう。すべてよき物語は朝の薄明の中から出現するものだから。
○山田詠美 『ベッドタイムアイズ』
スプーンは私をかわいがるのがとてもうまい。ただし、それは私の体を、であって、心では決して、ない。
○村上春樹 『風の歌を聴け』
「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」
僕が大学生のころ偶然に知り合った作家は僕に向かってそう言った。
○金城一紀 『GO』
(~冒頭省略~)
ここでまず断っておきたいのだけれど、これは僕の恋愛に関する物語だ。その恋愛に、共産主義やら民主主義やら資本主義やら平和主義やら一点豪華主義やら菜食主義やら、とにかく一切の『主義』は関わってこない。念のため。
○保坂和志 『カンバセイション・ピース』
伯母が死んで私と妻の二人が世田谷のこの家に住むようになったのが去年の春のことで、その秋に友達が三人でやっている会社をここに移し、今年の四月からは妻の姪のゆかりも住むようになったので、勤めに出ている妻をぬかして昼間は五人がこの家にいることになったのだけれど、私の知っているこの家の住人の数と比べたらまだずっと少ない。
ありがとうございます。川端康成や太宰治と、皆さん古典のド真ん中をついて来ますねぇ。それは、その当時に『良さ』が出尽くしたということなんでしょうか。そうだとするとその後の書き手は、常に新しさを求めなければならないのかもしれませんね。読み手がさらにその核心をついて貰いたいと願うことは欲張りなのかと思えてきました。島尾敏雄、武田泰淳、金子光晴の面々は開高健から知りました。世代というか、時代なんでしょうか、テーマも書き出しも現代にはない熱がありますね。tachan28gooさんも開高好きでしょうか? 中河与一、丸谷才一、宮本輝はあまり馴染みが無いのですが、『錦繍』はカタカナの使い方が面白いですね。西東三鬼の~ガバリと寒い海~を思い出しました。池澤夏樹、山田詠美、村上春樹とくると世代的には私のタイムリーな作家のはずなのに一字も読んだことがありません。というか、読みたくないといったほうが正しいかも。近ければそれはそれで苦痛になるっていう感覚ですかね、『そんなんじゃないっ』ていう反感が強いようです。金城一紀、保坂和志は最近の作家でしょうか。彼等に限らず、長い文章をこなそうとする懸命さに気を取られて、小説の世界に入りづらいです。テクニックの背景にあらがえない熱が欲しいですね。
No.4
- 回答日時:
夏目漱石はただ単に有名でよく読まれるという以上に、
書き出しからやはりうまかったと思います。
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
どこで生まれたか頓と見当がつかぬ。
という、「吾輩は猫である」のこのなんともそらっとぼけた感じ。また「草枕」の名文句、
山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
リズミカル。なるほどそうだ、いいことを言う、と膝を叩きたくなります。「坊っちゃん」の書き出しは、
親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。
得をした人間の話などうざったいが、損をした話なら聞きたくなります。「それから」は、
誰か慌たゞしく門前を馳けて行く足音がした時、代助の頭の中には、大きな俎下駄が空から、
ぶら下つてゐた。けれども、その俎下駄は、足音の遠退くに従つて、すうと頭から抜け出して
消えて仕舞つた。さうして眼が覚めた。
枕元を見ると、八重の椿が一輪畳の上に落ちてゐる。
馳けて行く下駄の音と八重の椿の鮮やかさは、この小説全体の主調音でしょう。
そのほか「道草」の、話の中心に直結する緊張した出だしなど、きりがないので漱石はこの辺で。
檻に囲まれた、あおみどろの池のうえで、黒鳥は小さく啼いた。(…)
痩せ細った指を檻にからませ、青年は、もう長い時間を、黒鳥に心を奪われていた。
はじめ見たときから、何かすばらしい変身の行われたことは察知できたが、さて、それが何なのか。(…)
『黒鳥ばかりではない、すべての水禽はある日"恥"の記憶だけを残してこんな形に変えられた』(…)
そこまで考えたとき、たまりかねた黒鳥は、がまんがならないという口調で、こう叫んだ。
「いったい、そこで何をしているんです」
青年は、みごとなくらい呆気にとられ、檻を掴んだまま唇をふるわせた。(…)
「返してくれよ、おれの金貨を」
長々と引用しました。しかも作者を冒涜するぶち切りで。(…)は省略箇所があることを示しています。
これは中井英夫「黒鳥譚」の出だし。安部公房がお好きなら、中井英夫もお気に召さないかと思って。
最後にもう一つ。吉田健一「金沢」はぶっきらぼうにこう始まります。
これは加賀の金沢である。尤もそれがこの話の舞台になると決める必要もないので、
ただ何となく思いがこの町を廻って展開することになるようなので初めにそのことを
断って置かなければならない。
金沢、と断定しておいて、すぐ曖昧化される。
小説におけるリアリティとは、作者の断定や読者の思い込みによって決まるのではなく、
小説の中でおのずと決定されてゆき厳然として存在しはじめる、
そういうものでなければならないという、これは作者の宣言、そして覚悟なのでしょうか。
ありがとうございます。夏目漱石の書き出しは私も秀逸と思います。『猫』『草枕』『ぼっちゃん』どれも書き手が主題を明確にモノにしている様が伝わってきて小気味良いですよね。日本ではこうした態度を嫌みに取る向きがあるかもしれませんが、私は好きです。中井英夫は聞いたことがありません(あ~無知が恥ずかしい)。安部公房が好きなら、と言われるとかなり気になってきました。吉田健一も初耳の名です。でも、これは面白いですね。素直というか露骨というか、そうとう苦労してたのか、開き直ったのか、作品そのものの世界に、作者の立場をモロに反映した書き出しと思いました。こうした試行錯誤や実験を試みる勇気ある物書きを、作品の善し悪し、好き嫌いを別にして注目したいものです。

No.3
- 回答日時:
あえてSFで。
光瀬龍「百億の昼と千億の夜」ハヤカワ文庫より
寄せてはかえし
寄せてはかえし
かえしては寄せる波の音は、何億年ものほとんど永劫にちかいむかしからこの世界をどよもしていた。
幾千億の昼と夜で終わるラストシーンにつながる書き出しです。
ありがとうございます。私にとって小説でのSFは星新一くらいの知識なので、こういった詩的な下りから始められるとちょっと・・・。タイトルも苦手な感じです。もちろん、それだけで判断してはいけないんでしょうけれど、結論なり主題なりに導くための『読ませる』配慮が私の中で感じ取れるかどうかといった問題だと思います。nepyoさんの気に入っている作品かと思いますが、気を悪くされないで下さいね。
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