No.2ベストアンサー
- 回答日時:
駆け出しホヤホヤのバロック鍵盤奏者です。
興味深いテーマなので投稿させていただきます。18世紀後半から19世紀初期までのウィーン古典派と呼ばれている時代の調性に対する考え方の大前提としてまず鍵盤のみの曲と鍵盤を含む合奏・協奏曲とでは鍵盤の調律法が異なったという問題があります。
鍵盤のみの曲のケースではまだこの時代は平均律が実用化されていない時代でしたのでウェル・テンペラメントを使用したはずです。この調律法ではハ長調に近い調では純正に近い響きが得られ、遠ざかるほど濁った響きになります。主和音が比較的綺麗で和声的解決感がありソナタ形式で重要なオルガンポイントに使用する属七和音の響きもよい長調(ハ/ト・ニ・イ/ヘ・変ロ・変ホ)と短調(イ/ニ・ト・ハ)が主調として設定されました。モーツァルトは改良型中全音律かヴァロッティではないかという説が有力です。
鍵盤以外の楽器では常に純正な音程での演奏(変ホと嬰ニを区別するような)をしましたが、鍵盤だけは1音階中12という限られた数の鍵しかないので物理的に変ホと嬰ニを区別しながら転調が自在に出来るような純正律に調律はできません。そこで中全音律というこの時代の音楽にとって重要な長三度音程をなるべく多くとる調律法を採用しました。これならばハ音を基準に調律した場合、近親調と重属和音までは純正に近く響きます。つまるところ、ハ長調が主調の合奏・協奏ならばハ音を基準に、ニ長調が主調ならばニ音を基準にして調律替えを行い中全音律で鍵盤楽器は演奏されたのです。(現実的には嬰ト/変イと変ホ/嬰ニの部分の調律替えをするだけで嬰変記号3~4個までの調が演奏可能になりますのでこちらを現場では頻繁に使った可能性が高いです)
そしてこの時代の音楽の中心はヴァイオリンであり管弦の核であったということも重要な要素です。
ヴァイオリンは開放弦が音階に多く含まれ、なおかつ主要三和音の五度が開放弦であるニ長調が最も明るく響き、この調から離れるにしたがって曇った響きになり開放弦がほとんどない変イ長調・ロ長調・変ロ短調・嬰ハ短調では運指困難(初見演奏も)ということで避けられました。
このような前提を踏まえてニ長調は管弦では重んじられ祝賀の調となり(ハ短調などは葬送の調)、ダブルベースの調弦もファンファーレで使うトランペット、そしてフルートはニ長調調弦・ニ管になりました(トランペットは他にも管長がニ管に近く鍵盤の音律と相性の良いハ管と変ホ管もあった)。さらに、オーボエもニ長調と音高に近く鍵盤との相性のよいハ管になり、バスーンは変ロ管、クラリネットは変ロ管とイ管になったのです。
最後にホルンですがヴァイオリンの響きがよく副三和音の響きがよいヘ長調(牧歌的な調)にあわせてヘ管が基本になり、替え管は曲の主調になり得る調にあわせてヘ・ハ・ト・ニ・イ・変ロ・変ホの七種類が基本になりました。
No.9
- 回答日時:
ソナタ形式で属調転調が多いというのは提示部主題Aから主題Bに移行する際の話やと思いますがこれはソナタ形式のみならずその影響を大いに受けたロンドソナタ形式、複合三部形式の各主題Aと主題Bにも見られます。
ちなみに短調が主題Aの場合は主題Bは平行長調です。ではなぜこういった転調パターンが多いか?単一主題のルネサンス以来、最も多い主題の転調パターンは長短調ともに属調であったというわけです。短調の場合は17世紀末頃から平行長調への転調が大半を占めたことがソナタ形式での短調の平行長調転調を定石とする神話を作りだした可能性が高いです。
ルネサンス期にピカルディーの三度という現象があり短三和音の第三音を半音上げるというもので曲中の様々な箇所で行われました。和声進行でI→V→I→V→I→II#→Vとなります。これが属調転調の元となる借用和音の起源です。
もちろん若干の例外もあり、長調ならば平行下属短調や平行属短調もありました。
これは私が楽曲分析をした上の話なので詳しい分析内容は専門書をあたってみるかご自分で分析なさってみるといいと思います。
No.8
- 回答日時:
ルネサンス期ではまだまだ鍵盤であっても声楽や器楽のように純正な音程を心がける調律をしていましたので中全音律であったと推測されます。
楽譜に変イや嬰ニが出てくれば調律替えをするバロック以降の合奏&協奏用鍵盤と同じ事が行われました。しかし調律替えを要する曲は少ないです。ハ音を基準に調律すると数の多い順で長調のト・ハ・ヘ・変ロ、短調のニ・ト・イが純正に響いて使えます。なお、ピカルディーの三度が曲の最後以外の短三和音にも頻繁に使われたのでニ長調では六度上の副三和音が濁って使えずほとんど書かれませんでした(J.ブルの実験曲を除く)。七和音はまだ出てきません。ちなみに教会音調の名残があってか17世紀初期までは三全音で悪名高い第五調の影響の強いヘ長調・変ロ長調は第一調とともに好まれた第七調のト長調やハ長調よりはずっと少数派でした。
そしてなによりも欧州全域で17世紀末ごろまでは教会音調の影響が強く短調偏重主義でした。即興で変奏曲や幻想曲を演奏する事が大半で古い指使いが自然に曲を作ってくれるという合理的な世界です。そのため、曲を書き留めることはあまりなかったと考えられています。ですからハ○ンやバ○エ○で指の均等練習を積む必要はありません。指の個性的性質を生かした指使いが曲を作るのです。
望むまでもないぐらい多くの事を(これで二回目!)ご示唆いただき感謝します。
要するに時代の習慣でモーツァルトは調号の多い曲を主調にしなかったのですね。ではソナタ形式ではなぜ属調転調が多かったのですか?
No.7
- 回答日時:
質問者様は問題解決をする気がないんやね(+_+)悲しいわ、ウチ(>_<)
>>音楽家たるものは型にはまらずに
おっしゃる通り。それで長調偏重主義時代に短調で書いたりイ長調のピアノソナタの終楽章トルコマーチの展開部で嬰ヘ短調を使うたり、ヘ長調の曲の緩徐楽章でヘ短調を使うたりしたんや★さらに39番の終楽章では展開部で変ホ長調から短三度上の変ト長調へ転調するという常識はずれの遠隔転調をしとるで(^。^)例を挙げればキリないケドな(・_・)
それに作曲家は調以外にも拍や速度も考慮せなあかんわけ♪それにハンドンみたいに実験好きの作曲家やってロ長調の曲を一曲しか書いてへんし。
曲書いてメシ食うとるモンは演奏もされへんのに作曲だけが自己目的っちゅうことはあらへんの。つまり、モーツァルトやハイドンはロマン派みたいに思想のために音楽を考えるヒマなどなかったんや。毎週教会の為にカンタータの作曲をせなあかんかったバッハも一緒や。大体、調号がめっちゃ多い調など「初見演奏できへん」と作曲中のバッハの楽譜を覗きながら演奏しとる楽師から苦情が出るねん!!
No.6
- 回答日時:
それは、変化をつけるためです。
このことは全ての時代・ジャンルの音楽に言えることではないでしょうか?ニ長調やハ長調は確かに18世紀音楽の基本的な調性ではありましたが変化を付けるためにト長調や変ロ長調でも書かれたに違いありません。これらの調も趣が深く調それぞれに特徴があります。もっといろいろな調に親しみを持ってみませんか?J.マッテゾンは調性格についてこのように述べています。
主調で使用する調
ニ長調 幾分鋭く、頑固な性質
ハ長調 かなり大胆で荒削りな性質
ト長調 人をひきつける雄弁な性質
ヘ長調 この世で最も美しい感情を表現できる
変ロ長調 非常に気晴らしに富んだ壮麗な調
変ホ長調 非常に悲壮な感じを具えている
イ長調 輝かしくはあるが、非常に攻撃的
ニ短調 信仰深く穏やか、高貴で満ち足りた性格
ハ短調 並外れて愛らしく、同時にまた悲しい
ト短調 真面目さと愛らしさを合わせ持つ
イ短調 嘆くような、品位のある落ち着いた性格
展開部のみで使用する調
ホ長調 悲しく絶望的な、苦悩に満ちた心にしみる効果
ホ短調 非常に考え込み、深く沈み、悄然として悲しい性格
ヘ短調 温和で落ち着いているが、深く重苦しく絶望的
ロ短調 奇異で不快、メランコリック
嬰ヘ短調 憂愁で孤独、悩ましげで恋に夢中なさま
この回答への補足
望むまでもないぐらい多くの事をご示唆いただき感謝します。
音楽家たるものは型にはまらずに時には変わった事もしてみたいと思うものだとよく言われるもので。その視点では調性格などの理論は無意味であり学者の道楽なはずです。Tallis様がどのような音楽関係者かは興味ありませんがプロは調号の多い調でも書いてみようと感じたはずでは?
No.4
- 回答日時:
モーツァルトの曲全体を通してホ長調やヘ短調が極端に少ないのはソナタ形式のせいです。
ソナタ形式では第一主題がホ長調ならば第二主題はその属調であるロ長調を使うのが定石やさかいに。ならば第一がヘ短調ならば第二は?変イ長調ですね!
これでお分かりでしょう。
大バッハの話がでていて論点からずれていますが一応お答えしましょう。
バロック音楽は「明と暗の対比」が重要な音楽であったと思います。
つまり、音階中に出来る主要三和音を明とし副三和音は暗とするその対比が重要やったそうな。冒頭楽章がハ長調の場合、緩徐楽章になったら今度は副三和音を主役とした暗の楽章になるのが望ましいと考えたようです。
ですから第二楽章は短調が多かったと考えられます。
シュターミツ的マンハイム楽派では「明と暗の対比」よりも「強と弱の対比」に重きを置く強弱法中心の音楽が流行したため緩徐楽章は弦のみの耳休め楽章ということで牧歌的イメージの強い下属調が多かったと考えられます。
そして最大の理由は以前書いたように使える短調自体が少なく管弦では管を二種類組み合わせたりして編成がやっかいやったさかい。
ちなみに長短調ともニ調とハ調は弦や管が良く響きトランペットとティンパニが使える調なので祝賀や葬送で人気の高い調やったということはもうお気づきでしょう(それでも短調は大変少ないです)。
No.3
- 回答日時:
イ短調の曲がほとんどないのは作曲が難しいからです。
特に管弦楽曲では作曲の意図が単なる自己満足になる可能性が高いといえます。ソナタ形式では第一主題は分散和音的力強く明るい旋律で第二主題はその正反対の順次進行的で穏やかな旋律というのがシュターミツ的マンハイム楽派の定石でした。この考えからするとイ短調を第一主題にしてしまうと第二主題を定石の平行長調であるハ長調にしなければならず、矛盾してしまいます。
掘り下げて考えますと、イ短調で明るく元気に演奏して少し経ってからファンファーレなどで明るいイメージが強いはずのハ長調で穏やかに演奏するという消化不良気味の曲風になってしまいませんか?(勇壮な???)ファンファーレを演奏する機会は再現部では定石通りイ長調になってしまいますのでこれっきり!!です。
要するに奇抜な曲風になってしまいトランペット奏者の活躍が少なすぎる嫌いがあるということです。
しかし鍵盤曲では可能性はあります。典型例はモーツァルトのkv310やkv511です。おそらく、絶望の調であったと思います。
この回答への補足
ようやく納得しました。しかしJ.S.バッハの楽曲にはホ長調やヘ短調がいくつかありますがなぜモーツァルトにはないのですか?そしてなぜ第二楽章では短調への転調がないのですか?
いろいろすいません。気になるもので...。
No.1
- 回答日時:
お父さんのレオポルド・モーツァルトがヴァイオリニストだったということも影響しているのではないでしょうか。
ヴァイオリンとあわせるときに、その開放弦であるト、二、イ、等の調なら合奏しやすかったと考えられます。第二楽章をそれぞれの下属調としても、ハ、ト、二、となり、やはり♯の数は少なく収まります。シャープ調、ト、二、イ、ホ、ロ、は音階の第一音が白鍵なので弾きやすいということも関連があると思います。親指や小指が短いので白鍵を弾くには便利というわけです。
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