柄谷行人さんの「日本の近代文学の起源」という本を読み進めて
いるのですが、
フロイトの説においてもっとも重要なのは「内部」が存在し始める
のは、「抽象的思考言語がつくりあげてはじめて」可能だといって
いることがある。われわれの文脈において、「抽象的思考言語」とは
なにか。おそらく「言文一致」がそれだといってもよい。(風景の
発見より)
と述べています。いまいちピンとこないし、「言」=「話し言葉」「文」=「書き言葉」だと思うのですが、どうもあのころの
時代状況に疎くて話についていけません。
柄谷さんの言っていることに・・賛成できないような・・
そこらへんについて詳しく分かる方教えてください。
よろしくお願いします。
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
論旨を見失っておられる印象を受けます。
この箇所はそういうことを言っているのではありません。
この章の趣旨は、わたしたちがごく自明のものとして受け入れている「風景」というのは、明治二十年代に「発見」されたものに過ぎない。けれども「風景」という観念は、普遍的なものとして受け入れられ、その歴史性が覆い隠されるところに成立している。したがって「風景」になれてしまっているわたしたちには、その意味を知ることができない。だからこそ、その同時代を生きた人びとによって、明治二十年代の日本において「風景」がどのように「発見」されたかを見ていこうとするものです。
「風景」という観念の成立は、その時代を生きた者にとってはどのように意識されるか。
「漱石はちょうどこの過渡期に生きたといってよい。むろんそれを過渡期とよぶのは歴史主義的な見方にすぎない。実際は、彼は、英文学を選択したあとで、彼自身において認識の布置が根本的に変わってしまったことに気づいたのだ。……つまり、「風景の発見」は、過去から今日にいたる線的な歴史において在るのではなく、あるねじれた、転倒した時間性においてある。」(講談社文芸文庫版ではp.21)
この文章の根底にはフーコーの『言葉と物』があります。
わたしたちはある時代を境に、ものの見方がまったく変わってしまう。そうして、その変わっているあいだはそのことに気がつかず、変わってしまってから、いつのまにか前のような考え方をしなくなっている。変化に気がつくのは、そうした「転倒した時間性」においてなのです。
それまで人びとは、山や川や海を見ても「風景」として認識していたわけではない。
「風景」という観念が生まれたから、山や川や海が「風景」として認識されるようになった。そればかりではない。主観や客観という考え方が可能になったのも、「風景」という「場」があったからです。
そうして、西洋が近代という何世紀もかけて成熟していった観念が、日本ではある一定の期間に集中的にあらわれた。そのために日本ではこの問題をより凝縮したかたちで見ることができる。それに立ち会ったのが漱石であり、独歩であり、あるいは鴎外であり、二葉亭だったわけです。
さて、ここからがご質問の箇所です。
論理の流れを書いていきますから、これを目安にしてもういちど読んでいってください。
近代文学のなかでよく言われる「近代的自己」、これはただ頭のなかで成立するものか。自己が自己として存在しはじめるには、べつの条件が必要である。
↓
フロイトは「意識」をはじめからあるのではなく「内面化」による派生物としてみる視点をとっている。
↓
「内部」(と同時に「外部」)が存在しはじめるのは、「抽象的思考言語がつくりあげられてはじめて」可能である。
そうして、この「抽象的思考言語」、つまり、「自己」であるとか、たとえば「社会」であるとか「人間」であるとか、「風景」であるとかの、抽象的な思考を支えることのできる言語が言文一致体だった、ということを言っているのです。
言文一致体というのは、単に文章表記上のものではなく、その創出によって、当時の日本人は抽象的な思考が可能になり、「風景」を見いだし、そこから自分の「内面」を発見した、という脈絡です。
> 「言」=「話し言葉」「文」=「書き言葉」だと思うのですが、
ということではありません(「言文一致体」の語句的理解としても誤っています)。
この回答をお読みになっても、おそらくおわかりにはならないだろうと思うのですが、多少の整理の助けになれば、と思って回答しました。
大変分かりやすい説明ありがとうございます。
文学に関しては、まだまだ初心者なもので・・(涙)
再度読み直し、整理してみたいと思います。
本当にありがとうございました。
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