No.1ベストアンサー
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よくわかりますよ。
最初から無理にわかろうとする必要はないと思います。まだお話ししていませんが、私は一応プロの作曲家で、現代的な技法も使います。しかし、バルトークの弦楽四重奏曲を普段愛聴はしていませんし、自ら進んで聞こうと思うこともあまりありません。
バルトークの弦楽四重奏曲は、このジャンルでは名曲中の名曲、金字塔の一つとされ、多くの弦楽四重奏団にとって、その能力を試す試金石にもなりますし、レパートリーとしてものにできるかどうかは評価に影響します。作曲家にとっても、6曲の弦楽四重奏曲は、作曲技法の研究上避けて通れないものです。
ただ、作曲の専門知識があって楽譜を詳細に分析する分には、なるほど、ここはこういう仕組みで構築されているのかと、知的な興味は満たされますが、実際に音になった時にどうかと言うと、はっきり言って面白くないところがあります。特に、テンポの遅い楽章の間が持ちません。
また、ペンタトニックの旋律や民族的なリズムなど、ハンガリー音楽に根付いている要素と、無調的な要素の共存に違和感を覚えるところもあります。そもそも、西洋クラシックの音階のシステム上で民族的な表現を扱うこと自体、非常に困難を伴います。そして、無調音楽の宿命として、機能和声に基づく古典音楽のように、音楽が一定の方向に進んでいくという展開感がどうしても希薄になります。バルトークに限らず、現代の作曲家はそれを補うために、特殊奏法による音色の変化など、クラシックとは違う方法を工夫しましたが、それでも持たないことが多いです。
弦楽四重奏曲に限ったことではないのですが、バルトークの作品の多くは、作曲に当たって理論的な思考がやや先行し過ぎるきらいがあります。音程やリズムの構造、曲全体の構造に関しては、かなり数学的な操作や、システマティックな組み立てをしています。これはもちろん、バルトークに限らず、20世紀以降の作曲家が多かれ少なかれやらなければいけなかったことです。作曲家に対して、これまでになかった新しいものを書かなければいけないという要求が大きくなり、そのためには全く新しい技法を開発しなければなりませんでした。その場合、新しい響きをただ感覚に頼って探り出したものより、新しい理論、システムを考案しているかどうかが注目されたと思います。復調や多調、十二音技法、その延長として開発されたトータル・セリエリズム、トーン・クラスターの技法、メシアンの旋法による技法、さらにはミニマル・ミュージックと、みな独自の理論を構築し、論拠を明確にした上で、新しい音の組み合わせ方、音楽の構成法のよりどころとしたのです。音楽学者など、専門の研究家にとっても、そういう理論が明確に読み取れるものの方が研究対象として面白いのは言うまでもありません。しかし、音の組み合わせをいくら理論的思考で緻密に考えだし、楽譜の上では興味深く見えても、それを人間の耳が認識できるかどうかは全く別の話です。20世紀以降の音楽の評価が、専門家と一般の聴衆の間でどんどん乖離していった原因はそこにあります。
6曲の中には、それなりに面白く聞ける部分はあります。1番、2番はそれほど聞きにくくはないと思います。3番もまだそれほど難解ではありません。4番が一番難解かもしれません。5番は6曲中一番有名で、演奏回数も圧倒的に多いはずです。面白く聞けるかどうかは、演奏にもよります。曲が曲なので、演奏技術が優れているだけでは無味乾燥な演奏になりがちです。私が知っている録音の中では、アルバン・ベルク弦楽四重奏団の演奏がもっとも先鋭かつ表現豊かで、なんとか間が持ちます。
バルトークの同僚で、親しみやすい曲を書いたコダーイという作曲家がいます。バルトークは、自分はどうしてもコダーイのように作曲ができない、と漏らしたと伝わっていますので、欠点として多少は自覚していたかもしれません。実際、いくつかの作品中に、やや無理をして面白くしようとしている個所があります。
私が個人的に聞きやすいと思うバルトークの作品は、バレエ「中国の不思議な役人」やピアノ協奏曲などです。管弦楽のための協奏曲は、バルトークとしてはずいぶんサービスをしている曲で、演奏頻度も圧倒的に多いのですが、実は作曲家の間では「失敗作」と言われることがきわめて多い作品です。私も、機会があるたびにこの曲を聞き直しますが、どうしても好きになれません。部分的には面白いところがあっても、全体がばらばらにほどけてしまっているような印象があります。
バルトークの聴きにくさは、聴き方の不足にあるのではありません。もし、聞き手の方で何かができるとすれば、20世紀の音楽をできるだけたくさん聞いて、耳を慣らしていく以外にないでしょう。
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余談ですが、先日、リゲティの『ムジカ・リチェルカータ』について質問を出されたとき、回答を用意している間に締切になりました。あの曲は、デカルトの『方法序説』に想を得て書かれた曲で、音楽をゼロ地点から構築するという試みです。1曲目は、Aの音一音だけで全曲を書き、2曲目は、短2度(半音)の音程だけで書いています。曲を追うごとに使う音が一つずつ増えていくので、最初の数曲は旋法と言えるほどのものではありません。4曲目も音は4つだけで、旋法として認識できるところまではいっていません。特殊な旋法を記譜するのに変則的な調号を用いる場合はありますが、これらの曲の場合は、同じ音に臨時記号を付ける煩雑さを回避する程度の意味で、特殊な旋法を用いるために設定されたものではありません。5曲目は、強いて言えば、メシアンが『わが音楽語法』で「第2旋法」と定義したものに近いですが、これは、調性音楽で減七という和音が出てきたときに現れやすい音階で、ショパンやリストにいくらでもあります。6曲目、7曲目は、民族音楽でごく普通のペンタトニックの旋法が使われています。
この『ムジカ・リチェルカータ』の作曲技法は、バルトークの作曲法と非常に近いものです。リゲティも、時として理論が先行してしまっているような作品を書きましたが、音楽的な面白さということでは、バルトークよりはるかに柔軟で、アイデアが豊富でした。
いつも回答して下さって大変感謝しております。クラシックを聴くための指針になっております。
私がバルトークを聴かなければならないと思ったのは、リゲティからの流れで、同じハンガリー出身でリズムや民族的な歌謡を取り入れているところに共通点があり、バルトークは避けて通れないと思ったからです。また、コダーイもガランタ舞曲やハーリ・ヤーノシュで聴きました。
>ペンタトニックの旋律や民族的なリズムなど、ハンガリー音楽に根付いている要素と、無調的な要素の共存に違和感を覚えるところもあります。
なるほど、無調的な所と民族的な歌謡が共存しているところに違和感があるのですね。実は今日、アルバンベルク四重奏団の演奏で全曲聴きました。また、ピアノ協奏曲もアンドラーシュ・シフ/アダム・フィッシャー/ブタペスト祝祭管で聴きましたが、こちらは楽しめました。
先日の私のリゲティの質問で、回答を用意して下さっていたのに私が締め切ってしまい大変失礼なことをしてしまいました。お詫びいたします。
あれから、英語のWikiなどを参考にしたら、一曲目はラの音が延々と続き最後にレの音で終わるということに気付きました。
また、曲が一つ進むごとに音も一つ増えることに気が付きました。メシアン『わが音楽語法』、リゲティはメシアンを敬愛していたようですね。
最後になりましたが、回答していただいたことを十分理解するには読み足りなくて、お礼にも不足があるのは申し訳ありませんが、何分私は素人なもので、やはりただ聴いているだけでは作品の理解にはなかなか至らないものだと思います。もちろん、勉強はします。
それにしても、クラシックの作曲家はバロックから現代に至るまでいろいろな人がいろいろな時代を経て築き上げて来たものだと思わずにいられません。感謝してもしきれないです。ありがとうございました。
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