No.3
- 回答日時:
芭蕉の「野ざらし紀行」に「猿を聞く人 捨て子に秋の風 いかに」という句があります。
旅の途中で捨て子を見て詠んだ句です。小生が訳すと「猿の悲しげな声を聞いて詩歌を作る風流人よ。私の目の前の捨て子は冷たい秋風にさらされている。この捨て子をどうする?」ということになります。この句を大学で習ったとき、恩師が「サルトルの例の問題提起とほぼ同じことをすでに芭蕉は言っている」と言っていたました(小生はこれでサルトルの言葉を知ったのでが)。「芭蕉の昔からある問題を、新しい問題のように仰々しくサルトルは言っている」という冷笑的なニュアンスを恩師の口ぶりから感じたのを覚えています。もしかするとこのへんが、伝統的な国文学者の典型的な感想なのかな、と思って紹介するものです。前のお二人とのやりとりを拝見して、何かの参考になればと思って書きました。ご回答ありがとうございます。
>冷笑的なニュアンスを恩師の口ぶりから感じたのを覚えています。もしかするとこのへんが、伝統的な国文学者の典型的な感想なのかな、と思って紹介するものです。
その「冷笑的」という部分が気になります。
サルトルが新しい古いの問題ではなく、tacobe様がお書きになっていたように
>頼りなさ、はかなさのようなものを背負いながら、なおかつその文学に何ができるか考えていくのが文学的実践ということではないか、と思っています。
という覚悟がその文学者自身にあるかどうかが問題なような気がするのですが。
>伝統的な国文学者の典型的な感想
が「冷笑的」というのは、実は彼らが自らの非誠実さから目をそむけるための態度ではないか、疑っている昨今です。
もちろんhiruchan様の恩師が非誠実な方と誹謗しているのではなく、わたしの文学者全般への漠然たる印象でそう感じるだけです。
ご不快になられたら申し訳ありません。(非礼な書き方にならないような文章がうまく書けずに申し訳ありません)
hiruchan様やその恩師をご批判しているわけではありませんので、ご気分害されたらお詫びします。
ご丁寧なご教授、ありがとうございました。
No.2
- 回答日時:
講演会で人づてに聞いた話なのでちっとも詳しくはないのですが、サルトルが、
ビアフラの飢餓のような状態を前に文学は無力だ、と言ったのに対して、リカルドゥという批評家が、いや、(遠い)ビアフラで起こっている悲惨を知って同情したり、何とかすべきと判断するような想像力、判断力を養うのは、文学を含めた文化的教育なのだ、と主張したのだそうです。私は、個人的には、これはまさに文学の存在理由を肯定的に述べた言葉であると理解して、感動したものでした。
要するに、これは、文学というものが常に抱えている、「思想と行動」とか、「参加」(アンガージュマンとかコミットメントと言われていますね)という、いわば永遠の問題ですね。一方には、文学者もいざとなれば、(政治的に)行動すべきだ、という考え方があり、他方、いや、文学者は文学でこそ初めて仕事ができるので、そういう活動は邪道だ、という考え方があるように思います。どちらを選ぶかは、結局は個々人の判断だと思いますが、サルトルの発言にはsokuraさんの言われるような事情があったとするとよくわかります。
小林秀雄に「文学なんてものは海の泡でしかない」というような言葉があったように記憶しますが、そうした頼りなさ、はかなさのようなものを背負いながら、なおかつその文学に何ができるか考えていくのが文学的実践ということではないか、と思っています。
ご丁寧なご回答ありがとうございました。
参考になるお話です。
決してtacobe様のご意見を批判しているわけではなく、個人的な感想としては現在私は、
>リカルドゥという批評家が、いや、(遠い)ビアフラで起こっている悲惨を知って同情したり、何とかすべきと判断するような想像力、判断力を養うのは、文学を含めた文化的教育なのだ、と主張したのだそうです。
という意見は現実へのコミットメントしとしてあまりにも迂遠な方法ではないかと感じています。
むしろ
>小林秀雄に「文学なんてものは海の泡でしかない」というような言葉があったように記憶しますが、そうした頼りなさ、はかなさのようなものを背負いながら、なおかつその文学に何ができるか考えていくのが文学的実践ということではないか、と思っています。
という意見の方が負い目を感じながら文学活動をするある種の聡明さと誠実さを感じます。
決して反論ではありませんので、ご不快になりましたらお許しください。
ご回答ありがとうございました。
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
この発言の背景には、当時のフランス文学の若手に対するサルトルの歯がゆさのようなものがあって、強い否定的な発言となったようです。
ですから、サルトルは、単に文学で「平和を訴えたとしても、それで平和になるわけではない」という趣旨で発言をしたようです。この発言を聞いた当時(時代をど忘れしているので)、フランス文学の若手たちは、ついにサルトルも年老いた、と落胆のまなざしで、批判を始めたのですが、私は、この発言の趣旨を、それだけでとらえるのは無理があると思っています。
というのも、その時代の日本の文学者も、この発言に触発されて色々と答えていたのですが、おおむねの発言の趣旨は「そんなのは当たり前で、飢えた子どもに文学が有効なはずはない」という冷めたものでしかありませんでした。
むしろ問題なのは、飢えた子どもの前で文学が有効でない、としても、文学には「ちゃんと存在価値がある」と断言を出来るかどうか、という文学者としての決意の有り様を問題にしていた、と記憶します。
文学を捨て、飢えた子どもたちにパンを配る実践の人になるべきか、また別の道を歩むべきか、という選択を迫られた時、「いや、私はそれでも小説を書く、文学をやりとおす」という決心が必要で、それには自分で、この質問に対する回答を見いだすことだ、というのが日本の文学者(主に小説家)の回答でした。
文学は、実践には見えません。しかし、人が小説や評論を通し、テキストとして文学に対峙することによって、自分の認識を変えること、また、読者に別の認識を迫ること、こうした、すこしづつの変革によって、歴史は変わる、と思い定め、今このときの目の前の不幸は救えないが、全く別の方向から、自分の願いを届けていきたい、と願うことは、文学者としては当然の願いのはずです。そうした後ろめたさを自分の背後に抱えて、小説を書き、発言をすることが、他者の琴線に触れることだ、という認識も大事なのではないでしょうか。
サルトルは自らの反省も含め、「今役に立たないからと言ってすぐに文学を捨てるのではない、より強く後ろめたさを感じて、自らの言葉を磨け」と言った意味で発言したのではないか、と考えます。
私の記憶では、武田泰淳、野間宏、安岡章太郎、大江健三郎、三島由紀夫、学者では白井健三郎、竹内芳郎などが、エッセイとか対論で答えていたと思います。この時代の小説家や文学者の文献を丹念に当たっていけば、大体何らかの反応を書いているはずです。
素晴らしい啓発的なお答えをありがとうございました。
どうお礼を申し上げたらよいかわからないほどの、充実したご回答、深謝いたします。
>おおむねの発言の趣旨は「そんなのは当たり前で、飢えた子どもに文学が
>有効なはずはない」という冷めたものでしかありませんでした。
>むしろ問題なのは、飢えた子どもの前で文学が有効でない、としても、
>文学には「ちゃんと存在価値がある」と断言を出来るかどうか、という文学
>者としての決意の有り様を問題にしていた、と記憶します。
結構、常識的な反応だったのですね・・・・・・・
むしろ文学の有効性をいいつのったのではないかと予想していたので、意外でした。
私はサルトルの同時代人たちの文学作品はあまり読まないので、知識不足で恐縮なのですが、SF作家で平井和正が
「人間の精神性の高みを見ようとしない、人間を肉体のみにとらわれたものと
して見ている愚問」
のようなことを答えていたと記憶します(ちょっと正確な文章は曖昧です)。
あと、筒井康隆が
「ぼくの小説を読めばもっと早く死ぬ」
と特有のブラックジョークできり返していました。
サルトルの意見に全否定的なものが多かったのではないか(文学の有効性を擁護しようとする意見)と予想していたので、sokura様のレスは意外でした。
最後に、あらためて素晴らしい回答をありがとうございました。
乱文乱筆お許しください。
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