最近の指揮者は、古典派やロマン派の超有名曲でも、本番でスコアを1ページずつ確認しながら指揮する人が多いようです。しかし30~40年前は、ポピュラーな有名曲の時はスコアを置かない指揮者も多くみられました(カラヤン、バーンスタイン、ベーム、クライバーなど)。この間に、何か指揮者のマナーにおける認識の変化があったのでしょうか? 実際には、プロの指揮者ならば有名曲、それもシンフォニー程度の長さであれば、その大部分は頭に入っているはずで、いちいちスコアを見なくても、本番の演奏には何ら支障はないと考えられます。楽譜に注意が取られる分、演奏者へのアイコンタクトが減るなどのマイナス面のほうが多いように思われるのですが、なぜこうなってしまったのか、ご存じであればご教示ください。また、予想される回答として、「作曲者や作品に対するリスペクト」というものがありえますが、ならばソロ・ピアニストや、協奏曲におけるソリストは不敬なのかという話になります。その点もふまえてご回答をお願い致します。
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
おそらく、演奏に使用する「版」がいろいろ増えたからでしょう。
昔は「一般に使用する版」はほぼ1つしかなく、指揮者も勉強している時代から「同じ版」を使い続けているので「ほぼ頭の中に入っている」ということだったと思いますが、現在では「最新の版を使う」とか、オーケストラが所有する版を使用するとか、指揮者が指定した版を使うとか、いろいろな状況があり得ると思います。
古典派(モーツァルト、ベートーヴェンなど)の曲であれば、新しいところでは「ベーレンライター版」があり、これに触発されて昔ながらのブライトコップフ社も新訂版を出しています。(ベーレンライター版自体も改訂しています)
ブルックナーの「ハース版」「ノーヴァク版」は有名ですし、マーラーも1960年頃の「国際マーラー協会版」に対して、ここ10~20年の間に本家マーラー協会が「新批判校訂版」を出版しています。
1960年代ごろまでの出版譜は「校訂者」の意見や思い込みが多いという反省から、最新のものは「作曲者の手稿」にまでさかのぼり、さまざまな「校訂記録」を付すことで客観的な評価や演奏上の選択の可能性を広くしているようです。
そういった「最新の知見」を取り入れて、指揮者ごとに改訂の取捨選択を行って演奏することが多いようです。(総譜の中にいろいろと書込みを入れている)
そういった「演奏に用いる楽譜は一種類ではない」ということ、そのすべての版を暗譜することは無理だし大した意味はないので、きちんと総譜を置いて演奏するということなのだと思います。もちろん「総譜を首っ引きで指揮する」指揮者などいないでしょうから、あってもなくてもほとんど変わらないと思いますが。
これに対して、ピアニストや独奏者は「自分が使う出版社、版」を決めていると思いますので、それを暗譜して演奏しているのだと思います。
なるほど! 版の問題はノーマークでした。十分ありえる話だと思いました。プロの指揮者ならば、昨日の演奏会と今日の演奏会で、使う版が異なる、ということもありえますしね。すばらしいご回答をありがとうございます。
No.4
- 回答日時:
No.1 です。
まだ解決していないようなので、追加で一言。音楽演奏の場って、「工事現場」や「走っている電車」みたいなものです。指揮者は、その「現場監督」や「運転士」です。
工事現場も電車も、何事もなければ計画、時刻表通りに進行します。
ただし、天候や周囲の状況によっては、作業をストップさせたり、ブレーキをかけたり徐行運転しなければなりません。
そして、状況が回復すれば作業を再開しますが、そのときに「どのように正常運転、通常作業に戻していくか」といった判断をして指示を出さなければなりません。つまり、常に「現在の進行位置」「異常発生前の状態」などをモニターしていなければなりません。
それが「指揮者がページをめくって常に現在進行中のページを開いている」ことに相当すると思います。
とあるピアノの先生の発表会で、生徒が協奏曲を1楽章ずつ弾いたことがありました。オーケストラはどこかのアマチュア、指揮はピアノの先生だったと思います。生徒は慣れないので途中で間違えて止まったり、どこを演奏しているのか分からなくなって止まることが何度かありました。
その都度、指揮者は総譜を持って行って「ここから」と生徒に指示し、オーケストラには「練習番号○から」「○○小節目から」と指示して演奏を再開しました。
プロの演奏家がそういうことになることはほとんどないと思いますが、例えば演奏中に「地震」があって演奏を中断し、安全確認後演奏を再開するとしたら、そんなことが必要になるかもしれません。(いかに優れた指揮者であっても練習番号や小節数までは覚えていません)
めったに演奏しないレアな曲、初演曲などでは、プロでもそんなことが起こり得ると思います。演奏者間で「ずれて」しまった場合や、特定の奏者(例えばフルート奏者)が現在位置を見失ったような場合(業界用語では「落っこちる」というらしい)には、指揮者が振りながら「(練習番号)○の3小節前、2小節前、1小節前、○!」などと適切な合図を送ったりもするでしょう。
そういった「現在位置」「状況」を常にモニターして、何か非常事態があったら素早く対応するのが指揮者の役目の一つですから、総譜を置くからには必ず「現在のページ」を開いているはずです。
またまたお世話になります。確かに、シェーンベルクやストラヴィンスキー以後の複雑なスコアの時は、必須でしょうね。しかし古典派・ロマン派の場合は・・・うーん、プロならばなんとかなるかも・・・どうなんでしょうか。
じつは、ここ以外にも、複数のプロの指揮者に同様の質問をしてみたのですが、その中のお一人は、「完璧に(書けるほど)暗譜したものでない限り、譜面なしで指揮台に立つと、不安になって音楽に集中できない」とおっしゃっていました。どうも、プロの世界では、譜面なしで立ったとたんに、「お前本当に完全暗譜できてんのか?」的な、周囲からのプレッシャーが半端ない、という感じが、複数の証言から伝わってきました。
今回もご協力に感謝いたします。
No.3
- 回答日時:
それは当たり前です。
1ページずつ見るのも簡単な理由があります。総譜を置いている限りページをめくらないといけませんよね。今どこを演奏しているのかわからなくなると本末転倒ですから。覚えるくらい簡単な曲で楽譜を見る必要がなかろうと、結果的には演奏を追って楽譜を見ることになります。
楽譜すら置かない指揮者やソリストはこれが嫌で置かないというのもあると思います。
楽譜は結局「全面的に見る」か「全面的に見ない」しかないです。「その間」はあり得ません。
ありがとうございます。私が疑問なのは、本番で総譜をめくる指揮者は、そうしなければならない積極的な理由があるのではないかということなのです。有名曲であれば、自分がどこを演奏しているかわからないなんてありえないわけで、位置の確認だけならば、総譜を置くまでもないはずでしょう。また、総譜を置いたからと言って、必ずしもページをめくらなければならない、というものでもない。ただ置いておくだけでもおかしくはありません。それでも多くの指揮者が、いちいちページを確認している。そこには何か重大な意味があるのではないかと。その必要もないのに形式的にめくっているのであれば、単なるパフォーマンスに過ぎず、その分をもっと演奏者とのコミュニケーションに注ぐべきではないかと、疑問に思うのです。
No.2
- 回答日時:
総譜であれパート譜であれ、楽譜を見なきゃいけないマナーは無いと思いますし、あるから意識高いとかお上品とかリスペクトとかもないですよ。
おっしゃるように、ソリストはなんなんだって話になります。楽譜は必要であれば自己責任で用意する、無い方がいい演奏が出来ると判断する人もいる、それだけです。
考えられるのは、価値観の多様化というのもあると思います。
いくら人気曲だからって数十年も同じ演目ばかりじゃ演者も客もさすがに飽きます。また、人気作品だからって喜ぶクラシックファンばかりでもないでしょう。クラシックというジャンルが西洋音楽の花形産業だった1900過ぎまでから、もう百年経っています。この百年は業界の関心はやはり新作よりも、有名作曲家の無名作品や埋もれた無名作曲家を再評価したり発掘したりする動きの方が活発だと思います。指揮者やソリストは半ば使命感のようなものもあり、演目に取り上げられることも多いと思います。新鮮味もあり、上手くいけば自分の代名詞になるかもしれないからかもしれません。昔ながらの人気演目だと今更代名詞にするのはハードル高いですから。
そうなると自動的に人気作品の演奏回数も減りますよね。そして「演奏会で楽譜見ない」人も減ってくる。…ということもあるのでは? 実際今でもソリストが楽譜使わないケースが多いのは、ヘビロテの得意演目があることや、一曲にかける練習量も楽団や指揮者より多いからでしょう。
誤解があるのは、奏者も指揮者も「いい演奏をすること」が最大の使命で、それが作曲家への敬意だと思います。楽譜があるとか、いいスーツ着るとか…が敬意ではないですし、そういったことで「不敬」なんてこともありません。実際裸足のピアニストもいますし、本当にいい演奏が出来るなら逆立ちして演奏しても別に構わない。百年以上前なら知りませんが、今の業界はそういう考え方が主流となってると思います。
楽譜の有無なんて些細なことでしょうね。私はむしろ楽譜の有無にマナーという発想があることが意外でした。楽譜はただの実用品だと思ってたので。
ご回答ありがとうございます。おっしゃりたいことはわかりますが、しかし現実に、有名曲でも総譜を1ページずつ確認する指揮者を多く見かけるのはなぜなのか、という疑問には、答えられていない気がします。
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