
No.4ベストアンサー
- 回答日時:
No.2です。
知人の方の理解したい(もしくは分かりにくい)ポイントがどのあたりなのかハッキリとは察しかねますが、色々な回答を参考にされたいということかなと理解して、蛇足ながら私も回答を書いておきます。>不定代名詞が否定形になると肯定の意味になる、と書いてあるのですがまで意味が分かりません。
問題にしているのは『妣が国へ・常世へ』で例示される「た・誰」「いづ=いづこ 」「なに 」というキーワードのあたりですね。
原文では、これらの単語は「未経験な物事に冠せる疑ひ」と説明されています。これは英語でいうところの「疑問詞」と同じ働きをする言葉だよ。と言っているのと大体同じです。「た・たれ」はWho、「いつ/いづ」はWhere、「なに」はWhatにあたります。精確に書くなら「不定代名詞の中の疑問詞のこと」ですね。
次に折口信夫氏は、その3つの単語の「否定を伴うた形」の例として、「たれ-ならなくに」「いづこ-は-あれど」「何-ならぬ」という3つの言い回しを挙げていますね。この複合語の意味作用について、折口信夫氏は独特の解釈をしていますので、ここが理解しにくいということですね。
実は、ここでいう「否定」という単語には「反語」や「逆接」の意味も含められています。言語学者や文法学者だったらそんな言い方はしませんが、折口信夫氏はそもそも詩人なので、その辺の言葉の使い方は結構アバウトなのです。ここは分かりにくいかもしれないので、あとでもう少し説明を足します。
ともあれ、そのように「否定」という概念が本テキストではわりと広義で使用されていることを踏まえると、否定の対義語として出てくる「肯定」という用語のニュアンスも、国語辞書通りの意味とは若干違いそうだな、と察しがつくかもしれません。
「誰ならなくに」の用例などを見るとわかりますが、その言葉は、厳密に言えば「否定として作用する」わけではありません。「反語的な作用」とか「消去法による特定」という作用を持っています。
No.1さんの和歌の例に見られる通り、「Aならなくに」という言い回しでは、Aでもないのだけど、さてさて正解はなんでしょうかねえ…みたいな、少しとぼけたような思わせぶりなニュアンスが大事になります。そういった、わざとぼかしたような婉曲な言葉の仕草をすることで、実際には(誰でもないなんてことがあろうか、否ない、当然これはあなたのことです)とか、(私ではないんだよ、ということは、あなたしかいないよね)といったようなメタメッセージが浮かび上がるような仕組みです。
このように、あえて真のメッセージをメタメッセージに落とし込んで、無言のうちにそれを読者に知らせる方法を彼は「肯定法」と表現しているのです。「~ならなくに」を現代語で訳せば「~でもないのだが」という感じですが、この言い回しには「ない」という打消し(否定)の語が含まれているので、その否定語に呼応するように「肯定」という表現をここでは採用しているのでしょう。このへんは、折口信夫が文法学者ではなかったことの証拠ですね。学者だったら、こんな紛らわしい言い方は避けますからね。
それを踏まえて、以下は、もう少し細かい説明です。
まず、「だれ」に続く「否定を伴うた形」として示されている「~ならなくに」ですが、この語を細かく分解すると、断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の古い未然形「な」+体言化する接尾語「く」+助詞「に」という構造です。
いま、あなたの知人の理解のヒントを増やすために、少々強引に英語で例えるならば、「たれ/Who」+「なら(なり)/is」+「な‐く/no-body⁼nobody」+「に/but…」みたいな感じですかね。
英語の語義や文法構造と正確な対応をさせることは私にはできませんが、日本語の「誰ならなくに」のニュアンスをなんとなく、感覚的には分かってもらえるかと思います。最後の「but…」の「…」のようなところが日本語のニュアンスを理解する時は特に重要ですね。
「Aならなくに」は、うわべの語義としては「Aではないんだけど…」という意味になるのですが、前後の文脈からは、そのメタメッセージにある「特定の何か・誰か」を強く示唆する働きを持ったり、場合によっては「Aではないんだが、ある意味ではAなのかもしれないね」という意味に近似してきたりします。
たとえば「友ならなくに」は「あいつは友達じゃないんだけど…でもあいつを友達だと思っちゃう私がいることも事実なんですよね…」みたいな意味になったり、「われならなくに」で、「私のせいではないのに…っていうことはあなたのせいなんだよ?」みたいな意味になったり、「めづらしき声ならなくに」で「珍しくもない声なんだけど…でも、やっぱり特別よい声なんだよね」という意味になったりします。
2つ目に「いづこ」の否定型として「いづこはあれど」が挙げられていますね。これは「いろいろあるけれど(そのなかでもとくに…)」というほどの意味です。「あれど」の「ど」は逆接の意味、英語でいうbutとかhoweverと近い性質を持つのですが、古語の「~あれど」の形で使う場合は、とくにalthouthのニュアンス(~とはいえ) に似てきます。前段のメッセージを否定するわけではなく、内容を認めてはいるのだが、後段の方にこそ本当のメッセージのがあらわれる、比重としては後段に重みが置かれる場合に使います。
「あれど…」は現代でも多少は使う言い回しで、たとえば「この世に美しい花は多々あれど、桜にまさる花はない」みたいな使い方をする場合があります。この文は花の種類が多々あること、それらの花がすべて美しいことを「否定」しているわけではありませんね。しかしながら、とはいうものの、後段で出される主題(桜)の方がよりいっそうスペシャルだ、という話がしたいときに使う言い方です。
3つ目の例に出されている「何ならぬ」は「何ということもない、とるにたりない」という意味です。これも現代語に受け注がれている言い回しです。「並々ならぬ」「ひとかたならぬ」というような決まり文句の言い方があります。「並」とか「ひとかた」は、普通、という意味ですが、「並々ならぬ」「ひとかたならぬ」で「全然普通ではない、特別すごい」という意味になります。ここでは「ぬ」が、打消し(否定)の助動詞です。
「誰ならなくに」の用例は、日本語では非常に古い時代から「メタメッセージの伝達技法が確立されていること」の証拠です。これはいかにも日本人らしいやりかたでもありますね。結論や本題をわざと伏せて言わずにおくことで、かえってそのことを相手に強く意識させる、というテクニックです。空気読めよ、みたいな話でもありますね。使い方によっては下品な嫌味になりますが、上品に使うと、メッセージに奥行きや深みが増し、美しくなります。
「いづこはあれど」は「不定詞+although」のような形を取っており、「前段の内容も認めながら後段で部分的に情報を足す・強化する・修正する」みたいな接続方法です。だから折口氏が言う「否定」というような説明は、あまり正確ではありません。
「何ならぬ…」という言い回しも別に、否定文を作る言葉ではありません。何でもない、という言い回しには否定の言葉が含まれるのは事実ですが、その複合語を使った文全体の作用としては、その後に出てくるメッセージを修飾する効果が生じる、というだけです。
多分、彼は最初に挙げた「誰ならなくに」の例に引きずられて、3つの言葉の用例全部にメッセージの打消し機能が強く作用しているような捉え方をしてしまい、否定とか肯定とか書いてしまったんでしょう。
ただ、折口氏がここで本当に言いたいのは、否定や肯定といった話ではありません。
彼は「正体のハッキリしない未知のX」つまり、不定詞(疑問詞)に、それを一旦打ち消す「ない」という語を何らかの形でジョイントしたとたん、それが反語や強意の意味を帯びて、「既知の特定のことがら」を強く暗示したり重みを増したりする作用に注意を向けています。
ただ単に「誰」と書くだけでは、それは本当に誰なのか全然わかりません。でも「誰でもないけどね…」と書くことで、メタメッセージとしての【われ】とか【かれ】という特定の人が浮かび上がってくる。
「いずこ/どこか」と書くだけでは、それはどこなのかわからない。でも「いづこにあれど…」と書くことで「いろいろなところがあるけど、そのなかでもとくに【ここ】が…」と特定の場所を強調できる。
「なに」と書くだけでは、何なのかわからない。でも「何あらぬ…」と書くことで「なんでもない、しょうもないことだけど【これ】は…」と特定の物事を特別扱いできる。
折口信夫氏は、このような日本語によく見られるレトリックを指して、日本語では「誰・いづこ・何」について書いていると見せかけながら、実際には「われ・ここ・これ」を強調することも簡単にできるんですよ。と言っているのです。
またこのテキストの冒頭では「ひと(human、またはman)」という日本語には「自分ではない人」という意味が古くからあったことも書かれていますね。折口氏によれば「ひとぐに(ひとの国)」という言い方が古くはあったのですが、それは「外国」という意味です。
折口信夫の本当のテーマはそっちであり、日本語では「ひとぐに」が自分の国ではなくて「異国・外国」を意味するように、「だれ・いずこ・なに」と「われ・ここ・これ」も決して対立概念ではなく、隣接概念であることを読者に伝えようとしています。長くなりましたが、参考になれば幸いです。
No.3
- 回答日時:
No.2です。
補足をありがとうございます。しかし、No1さんの回答で知人の方は理解されたということなので、私の方で回答を書く必要はなさそうですね。解決して何よりでした。大変詳しいご説明ありがとうございます。
ひょっとしてこういう事かなとなんとなく思っていても上手く言語化できなかったことを、多角的な視点から整理してお示しいただいた事を大変ありがたく思います。
じっくりと時間をかけて、知人と咀嚼していきます。誠にありがとうございました。
No.2
- 回答日時:
回答を書く前に質問しますので補足欄に返事を書いてください。
そうでないと、あなたにとって理解しやすい回答を書きにくいです。①『山のことぶれ』の中には、その話は出てきません。あなたが読んでいるのは『妣が国へ・常世へ』だと思います。それで合っていますか。
②あなた自身が「日本語学習中の外国人」なのですか。それとも、あなたは日本人で、外国人に説明する必要があるということですか。あなた自身が外国人の場合、英語はわかりますか。
③折口信夫の文章は、現代の日本人にとっても分かりにくい言い回しが色々出てきますが、あなたは折口信夫の文章をあるていど、読み慣れていますか。
No.1
- 回答日時:
古文素人ですが、ご参考まで。
1.
たれならなくに(誰でもない=それはまさにあなたなのです)
※しろたへの波路を遠く行(ゆ)き交(か)ひてわれに似べきはたれならなくに
白波の立つ波路を、お互いにはるばる行きあい、あなたもやがて私と同じように無事に任期を終えてお帰りになるはずです
2.
いづこはあれど(他のところは別にして=他のところはどうかわからないが)
※陸奥はいづくはあれど塩釜の浦こぐ舟の綱手かなしも
陸奥の国は、ほかの所はともかくとして、塩釜の浦を漕ぐ舟を陸上から引き綱で引いていく様子が、しみじみと心にしみることだ。
3.
何ならぬ(何でもない)
※いつのほどにてかは、何ならぬ御名のりを 聞こえたまはむ。
いつの折にか、たいした名でもないお名前を申し上げなさることができましょう。
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コメントありがとうございます。
①ご理解の通り、妣が国へ、常世へ、でした。旺文社刊 山のことぶれに収められているものです。
②私は日本語母語話者で、日本語中級レベルの外国人の知人を手伝っています。私も知人も英語の説明であれば理解できます。
③現代語の小説は大体理解できますが、折口信夫は何度も挑戦しては挫折しているようです。
よろしくお願い申し上げます。
再度コメントありがとうございます。
知人が、自分が分かったつもりになっているだけかも知れないので、可能であれば解説していただきたいと申しておりますが、お願いできますでしょうか。
ご面倒であればどうぞご放念下さい。
よろしくお願い申し上げます。