この質問は運動生理学に関することではないかと思うのですが,外にないのでここで質問します.
楽器-話を簡単にするためにバイオリンに限定-を演奏する練習をする-例えばトリル-例えば,指で,ドレドレの速い繰り返しを行う-場合,これを最初はゆっくりし,次第に速くして行くわけですが,ある程度訓練して速く繰り返しが出来るようになった時点と練習をし始める前とを比較すると,体の中に何らかの変化が起こっている筈だと思うのですが,どこにどのような変化が起こっているのでしょうか.
筋肉を制御する部分に変化が起こっているのでしょうか.それとも神経系,或いは脳の中も変化が起こっているのでしょうか.
もし脳に関係しているとすれば,例えばエビングハウスの記憶の実験のように放置すれば時間の経過とともに訓練結果は減衰するものでしょうか.可能であればこのようなことについて書いた本なども消化いただければ幸いです.
No.1
- 回答日時:
基本的に脳が学習により変化しているのでしょう。
ただしトレーニングによる筋力増強の寄与もある程度あると思います。専門家ではありませんが、私もそのような問題に興味があり、関係ありそうな記事などに注意を払ってきました。
そのものずばりの回答になるような話は聞いたことがありませんが、運動の学習は小脳が主要な役割を担っているそうです。
http://www.bekkoame.ne.jp/~domen/cerebellummc.html
http://www.riken.jp/r-world/info/release/news/20 …
私の想像では、「体で覚える」と表現されるような現象はすべて小脳の働きではないかと思っています。「テニスのフォームを体で覚える」みたいなスポーツの話だけではなく、ピアノやバイオリンで弾き慣れた曲がうわの空でも弾けてしまう、などの楽器演奏の場合や、パソコンのキーボードのタッチタイピングの習得など…。
話はやや異なりますが、昔、テレビの科学番組で、蝿の羽ばたきは実は脳は数回に1回しか司令を発していないこと、それに対し、バイオリニストがビブラートをかける時は毎回脳の司令によるものであること、を測定して明らかにしていました。
楽器演奏では、「反射」のようなものは使わず、すべての動きはちゃんと脳が司っているのです。(当たり前か…。)
返事が遅れて済みませんでした.
ご回答ありがとうございました.
ご紹介いただいたサイトの記事も拝見させていただきました.
定性的には理解することが出来ました.
大脳の場合の記憶の訓練は,エビングハウスなどのいろいろな実験データが公表されていますが,小脳の場合については,実験データがどの程度公表されているのかよく分かりませんが,どのようなやり方で小脳を訓練するのが効果的であるのかがわかれば,いいなと思っています.
ありがとうございました.
No.2ベストアンサー
- 回答日時:
こんにちは。
>体の中に何らかの変化が起こっている筈だと思うのですが,どこにどのような変化が起こっているのでしょうか
>筋肉を制御する部分に変化が起こっているのでしょうか.それとも神経系,或いは脳の中も変化が起こっているのでしょうか
小脳の中に運動をコントロールする神経回路の変化が起こっています。
筋肉を制御する部分を「運動神経系」と言いますよね(ちょっと突っ込み)。この中心は大脳皮質にある「運動野」と呼ばれる運動機能中枢ですが、これは運動のやり方・手続を指示する部分で、運動の上達そのものにはあまり関係がありません。
慣れや訓練などの「熟練運動」は、小脳に保持された「運動記憶」を使うことによって行なわれています。このようなことから、最近では小脳にも運動情報を記憶する「学習能力」があると考えられています。
小脳は運動神経系によって支配された骨格筋、つまり我々の手足などの筋肉の動きを木目細かにコントロールする役割を担っています。小脳は大脳皮質や大脳辺縁系を通して視覚・聴覚などの外部感覚や、半規管の平衡感覚、筋収縮・関節の内性感覚など、様々な感覚情報を受け取っています。大脳皮質・運動野によってプログラムされた運動命令は、このような感覚情報と照らし合わせることによって実際の動きがコントロールされます。つまり、大脳の運動命令は、小脳内で様々な感覚情報と統合されることにより、どの角度でどのくらい手を伸ばしたのか、あとどのくらい力を入れれば良いのかといったことが制御されているわけです。
ですが、このような場合、その度にいちいち感覚情報のフィード・バックがなければ正しい運動は実現しないことになります。幾ら0.0何秒以内の処理といえども、これでは余分に時間が掛かってしまいます。初めて覚えた運動や仕事がぎこちなくてのろまなのはこのためですね。
ですから、慣れや訓練によって運動が上達するということは、細かいフィード・バックがなくても筋肉に正しい指示を与えることができるようになるということです。何故フィード・バックがなくても運動ができるかに就いては諸説があり、この辺りはまだはっきりとはしていないそうですが、少なくともそのためには、その運動が既に経験されたものであり、目的と結果が事前に決まっているものでなければなりません。小脳では、そのような刳り返される経験が運動制御を行なうための「神経回路の修正・変更」として記憶されます。このような運動を「熟練運動」といい、特定の運動に対して変更が加えられた制御回路を「運動記憶」といいます。
「学習記憶」とは、主に大脳皮質に作られた神経回路の「繋がり・結合」が反復学習によって強化された「長期記憶」のことをいいます。ご存知の通り、長期記憶とは海馬によって保持された一時的な記憶が、学習によって大脳皮質でに書き移される際に長い間忘れない確かな記憶になったものです。このように、記憶を形成する神経回路の繋がりが強化され、長期間に渡って信号のやり取りが活発になることを「長期増強」といい、これが大脳に於ける記憶・学習のメカニズムと考えられています。
このような学習の概念に基くならば、反復訓練によって運動記憶を形成し、それを保持することができるということは、小脳が大脳と同様に学習能力を持っていることを示しています。現在では、それが事実であることはほぼ確かめられているそうですが、ただひとつ、そのメカニズムは大脳とは大きく異なる点があります。それは、大脳の長期記憶の形成が学習による長期増強であるのに対し、小脳の運動記憶には「長期抑制」が使われているということです。
「長期抑制」とは長期増強とは逆に、長期間に渡って神経回路の信号の繋がりが悪くなるということです。
大脳では新たな神経回路が形成され、それを強化することによって記憶を保持しますが、小脳では予め作られていた神経回路の余分な部分に抑制が掛かることによって目的の回路が形作られます。長期抑制が掛かりますと、その回路の繋がりがブロックされてしまいますので、それによって正しい運動のコントロールに必要な回路だけが残されることになるわけですね。
更に、小脳の神経結合抑制には「誤差修正信号」というもうひとつ特別な経路があります。誤差修正信号というのは、運動が成されたあとの評価に従い、誤差の原因となる神経細胞の入力経路に割り込んでそこに長期抑制を掛けてしまうというものです。入力がカットされますと、その細胞は発火しませんので次ぎの細胞に信号を出力することができなくなります。これにより、訓練を重ねるたびに誤差修正信号が発生し、ミスの原因となる神経細胞が少しづつ取り外されてゆくわけですね。やがてこれが熟練運動記憶となり、我々はいちいち誤差を修正しなくとも円滑な運動を実現することができるようになります。
学習により、神経回路の結合に長期増強や長期抑制が掛かるのは「シナプスの可塑性」によるものと考えられています。小脳では、皮質表層部のプルキンエ細胞にシナプス可塑性が発見されました。このプルキンエ細胞は、小脳から外部に対して信号を出力する細胞ですから、ここに選択的な長期抑制が掛かることによって、小脳からは、自らが学習によって獲得した運動記憶に基づく整理された運動制御信号が運動神経系に対して正しく出力されるということになります。
従いまして、バイオリンのお稽古のそのあとには、指先にタコや赤むけができると共に、小脳皮質上層部・プルキンエ細胞の入力結合に、シナプス可塑性による選択的な長期抑制の発生という変化が起こります。
さて次ぎに、小脳に於ける運動記憶の形成が学習によるものであるならば、それが大脳のように「忘却曲線」を持っているかどうかというご質問ですが、、小脳が大脳と同様に学習能力を持つものだとしても、本家本元の大脳でも、まだ「忘却」のメカニズムに就いては良く分っていなかったのではないでしょうか。これに就いては、私はあまり良く分らないので、ざっと状況だけご説明します。
しばらくやっていなかったけれど、やり始めたら勘を取り戻した、なんて経験は誰にでもありますよね。
海馬に於ける短期記憶には容量や時間に制限がありますが、長期記憶にはそのような制限がなく、記憶回路そのものが消滅してしまうことはないと考えられています。ですから、思い出せないというのは、その回路にアクセスできなくなるということですよね。
ならば思うに、勘を取り戻すことができるということは、大脳の長期記憶が長期増強であるのに対し、小脳の運動記憶は長期抑制によって作られるという違いはあるにしても、小脳の運動記憶というのは大脳の長期記憶の方に良く似た性質のものではないでしょうか。少なくとも、五年、十年くらいは回路が消えずに残っているものだという可能性は、経験上も十分にありますよね。でも、これ以上経ちますと、勘を取り戻しても身体が付いて行かなくなりますかねえ。
更に、小脳の運動記憶には大脳と良く似た長期と短期があるのではないかという研究も成されています。これは、数時間(短期)訓練によって形成された運動記憶が数日間(長期)訓練によって、その情報が「小脳前庭核」に書き移されるというものです。まるで、海馬から大脳皮質に移されるのと同じですね。ですが、これもまだ研究の途上で、はっきりとしたことは分っていないそうです。
ただ、ひとつはっきりと言えることは、大脳で運動をプログラムした記憶と、小脳で運動をコントロールした記憶は別々のところに保管されているということです。ですから、大脳でのプログラム、即ち手順は忘れてしまっても、小脳で覚えた運動は幾らでも再現することがきるというわけですね。自転車に乗る、強いては真直ぐ歩くといった、身体で覚えた運動とはこのようなものです。
前半長ったらしく、後半歯切れが悪くて申し訳ありません。
私は、特に小脳の機能に就いて纏めた本は読んだことがありませんので、それに就いてはご紹介できません。
プルキンエ細胞のシナプス可塑性を研究して、初めて小脳の学習機能を解明したのは「伊藤正男博士」というひとだそうです。「伊藤正男」「運動学習」などのキーワードで検索すれば、それなりの情報が集まるのではないかと思います。また、ここでは説明を省きましたが、興味がおありでしたら「仮想軌道(仮説)」という言葉も検索してみて下さい。
返事がおくれまして済みませんでした.
懇切丁寧なご回答ありがとうございました.
小脳の長期抑制が関与しているということはよく理解できました(それにしても,ある部分を活性化するのに神経を抑制させるとは驚きました).
そもそもこの質問は,バイオリンの練習を行う際問題の長期抑制を起こすためには,同じフレーズを練習するとすれば,
1)1回の練習時間がどの程度であれば長期抑制の効果がある のか.ある時間以下は効果がないということがあるのか.
2)通常の記憶の場合は睡眠が効果的といわれていますが,練 習の合間に休憩を入れることが効果があるのか
3)フレーズをそのまま練習するのがいいのか.あるいは,細かく分けて練習するのいいのか
などの事について何らかの手がかりが得られれば,と思って質問させていただきました.
ご紹介いただいた分野について,調べてみたと思います.
ありがとうございました.
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