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「現代」の日本や中国の死生観というのは、難しいです。というのは、「現代」の文化的状況というのは、流動し展開しつつあり、特定文化の死生観のようなものは、広範囲な調査とか、相当な年月を経て、時代の特徴がかなりはっきりと把握できるようにならないと、どういうものか分かりません。
中国については、現代の死生観と言われても、どういうものか見当も付きません。こういう伝統があって、その上で現代中国は政治的経済的社会的にこうなているので、こういう死生観ではないか、と想像できるだけです。
日本人の死生観でも、調査すれば、おそらく世代によって、違いが出てくるでしょうし、一つにまとまらないとも思えます。最大公約数的に、こういうことではないのか、という程度です。
中国の伝統的な特徴は、大家族制度と祖先崇拝です。儒教は、これらを肯定し、促進します。しかし、こういう文化は、儒教が広く流布する以前の古代中国の文化にもあったものです。中華民国の後、中国は、中華人民共和国になり、儒教は否定されました。
しかし、大家族制と、大結社制、そして祖先崇拝は相変わらず中華人民国和国の中国にあります。日本でも、同じ祖先の者が結集し協力し合うということはあり、また、政治の世界では「派閥」があります。
中国の場合、同じ「姓」の者は祖先が同じであるという考えがあり、実際には、そうでもないのですが、しかし、どこどこ県の「李」であるとか、何何省の「張」というように、同じ李姓や張姓でも、何か限定を加えて、祖先を同じくする共通の一族だという考えがあります。
中国の場合、大家族になります。ある家族連累は、100万人いるとか、別の家族は300万人いるとか、途轍もない話になり、しかも、それらが、互いに家族の連絡組織などを持っています。
また派閥制度も、大家族制度と並んで、全国的に巨大なものがあり、中国の「裏の社会」は、日本など比較にならない、複雑で巨大な結社が競合しています。大結社や大家族の後ろ盾を持つ者が、政治指導者になったり、経済の指導者になったりするのが中国です。
中国文化は,元々現世的・現実的で、この世の外に、あの世とかを考えませんでした。不老長寿の仙人という考えはありましたが、仙人は「不死」ではありません。秦の始皇帝は、不死の霊薬を求めましたが、結局見つかりません。
人は死んでどうなるのか、というと、中国では祖先崇拝が盛んで、祖先の「霊」に報告したり、捧げものをしていましたが、「祖先の霊」は、どういう形で存在するのかというと、曖昧です。そんなものは、いてもいなくても、どちらでも良いという考えのようにも思えます。
日本の文化も、古くから祖先崇拝が信仰の軸にありましたが、日本の場合、人は死ぬと、やがて、祖先の霊に溶け込んで行きます。また、流転の思想が日本にあり、人はまた甦って来るとも考えられていました。
儒教や仏教や道教の教えが日本に入ってきましたが、日本では、祖先崇拝があります。ところが、仏教の教えと祖先崇拝が、日本では混じり合ってしまいます。
中国では、人は孤独では生きられない訳で、社会に出ようとすると、大家族または大結社の後ろ盾で世に出ます。現世的成功をおさめるのに、コネクションを使うのが中国の伝統です。
日本でも、コネクションというものはありますが、流動的で、千年続いた一族の結束とか、結社の団結などはありません。中国では、才能のある人は、大家族や大結社の後ろ盾があると世に出ることが出来ます。しかし、個人単独では、なかなか世に認められません。
日本の社会は、江戸時代であっても、身分制度のかで、それでも有能な者は、指導的地位へと、身分の壁を越えることができたという事実があります。明示維新後、こういう傾向はより大きくなり、敗戦後の一時期では、実力主義で、個人が首相になまでなった時代もありました(田中角栄がその例です)。
現代は、社会の階層間移動の自由度は、以前より低くなっているのですが、それでも、まだ中国に比べれば、個人の自由度が大きいとも言えます。コネクションの社会であっても、中国社会と日本では、スケールが違うのです。
「死生観」の話だと、現代の若者だと、中国も日本も、あまり変わりがないように思えます。ただ、日本は宗教や信教が憲法で保証され、実際、宗教的な生き方をしている若者もかなりいます。中国では、事実上、宗教禁止です。無神論の唯物主義です。
しかし、先祖崇拝はあり、先祖を同じくするものの家族結社があるのです。現代の中国の若者は、国家の閉塞状態のなかから、新しい未来を築こうとする展望があると思えます。個人の力ではどうにもならないのですが、大家族システムも、中国の未来の発展躍進を希望しています。
日本は、未来の展望がないように思えます。中国は、現世的な生き方で、世界を中国が制覇しようというほどの展望があるはずです。それの実現可能性は別に、国力を充実させ、欧米日本を乗り越えようという野望があります。
日本は欧米の後を追随してきて、戦後、経済復興を遂げたものの、この先どこへ行けばよいのか、欧米の人同様に、分からないということになります。
中国人は、「未来」に躍動して、生きようと、意欲を持っているということになります。日本人は、「現状」の維持、あるいは、過去の栄光よ、もう一度、という夢はあっても、現実的には、疲れきっているようにも思えます。つまり「過去」に目が向いているように思えます。
生きることに意味があった時代は、もう十年前に過ぎて、いまは惰性で、目的なく生きているというのが。日本人の生き方の基本にあるように思えます。
「死」は、中国人には、「無」でしょう。しかし,名を残し、子孫を残し、祖先崇拝のなかで、子孫の記憶のなかで、誉れある者として、生きようというのが、死後のヴィジョンでしょう。なにごとか、現世で大きなことをするに、「死」を恐れないという気風がまだ、中国現代には,残っていると思います。
日本人にとって、「死」は、いまや「無」になって来たのですが、年長者は、生命の更新という意味の死後の再びの転生を無意識的に望み、祖先の霊となって、自分の子孫を見守ろうという考えが、心のどこかにあると思えます。
中国は元々、非宗教的で、現世的であったこと。仏教や道教は、この世でいかに生きるかを教える宗教になったとも言えるでしょう。伝統的な中国人の理想の生死は、道教の仙人のようなものです。子孫が多く、富み栄え、長寿で、病がないということです。死後の世界については、あるなしを語らずです。
日本は、流転する自然の四季における更新される自然・生命という原始的な信仰がありました。これに仏教,道教などが重なると、輪廻転生とか、あの世とか、極楽地獄の思想になります。中国にもそういう思想は芽生えましたが、日本の方がずっと、強度があるのですし、影響力が大きかったのです。
中国では、仏教は道教に吸収され、仏教として残ったのは、禅のような現世思弁的なものか、この世をいかに生きるかの世俗的倫理的教えです。閻魔などは中国が起源ですが(元は、インドの民間信仰のヤマ王です)、あのようなものは、本気で信じていなかったのだと思います。日本では、多数の人々が、本気で信じていました。
こういうところから、祖先崇拝は同じでも、中国は、現世での利害のための結社の軸としての祖先であるに対し、日本の神道の祖先崇拝は、現世の利害を超えた、自然に帰った、やすらかな祖先霊の漠然とした、祖先崇拝になるのです。
中国人は,心の奥底で、死後の生を「考えていない」。日本人は、心の奥底で、死後の生を「信じている」。中国人は、未来を切り開こうと、いま未来を見ているに対し、日本人は生きるのに疲れて、惰性で、どうなるのか、生きている、というのが、現状でしょう。
中国の戦国時代などではそのアブノーマルな時代背景から「親は子を産むが子は親を産まない」、よって子が盾となり親を守る、という思想があったことは知っていたので、歴史的な一点を選び日本と中国の死生観を比べたところで良い比較ではないと思い、この伝統的な特徴のなごりを残しつつ今に至るであろう「現代」での両国の死生観について質問させていただきました。
儒教は死後の世界は無いものとし、仏教では在るものとなっています。これが現代の日本人に無意識ながら「死後の生の可能性」を信じさせ、結果的に「どうにかなる」という考えを与えているのでしょうか。潜在意識の中でやはり両国の死生観には相違点が生じていることをとても面白く感じます。
とてもわかり易く興味深い文章でした。本当にありがとうございました。
これを機に自分なりに勉強してみたいと思います。
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