元ベテラン裁判官の井上薫著「つぶせ!裁判員制度」という本のP91~101には、尊属殺違憲判決について解説されています。そこでは、事件の特殊性(加害者の情状の高さ)が、違憲判決を導いたというように書かれています。
尊属殺違憲判決は、法令違憲です。当該法令自体が、(誰に対してというのではなく)憲法に違反するとした判決です。法令違憲かの検討に際し、事件の内容・特殊性を考慮することは許されるのでしょうか?適用違憲なら事件の精査して当然ですが。法令違憲かの検討で事件の内容を考慮することは、法適用の平等を規定した法の下の平等(の考え方)に反することにはなりませんか?事件を離れて法令の合憲性(法令違憲か)を審査し、その上で法令を事件に当てはめるべきだと思うのですが。
念のために申し上げておきますと、私は尊属殺が合憲だったと考えているわけではなく、事件の内容を考慮するまでもなく、尊属関係を特別扱いしている点で平等原則違反だったと考えています。
No.9ベストアンサー
- 回答日時:
#1です。
少し、補足させていただきます。
法令違憲とは、法律の規定その物が憲法に反しているか否かを判断するものですので、当該法律の憲法適合性のみが問題となり、事件の具体的事情は問題にはなりません。尊属殺違憲判決でも、200条の違憲性は事件の事情とは無関係に判断されています。(ただ、無関係といっても事件に適用されうる場合に初めて問題となる点で抽象的違憲審査制とは異なります。)
適用違憲は、法律の規定を具体的事件に適用したときに、当該事案に適用することが憲法に反するとするものです、したがって当然事件ごとに個別的判断がなされます。(もっとも、最高裁は適用違憲の判断手法は認めていません。)
法令違憲と平等権のお話ですが、A事件について法令違憲、B事件については合憲というような判断は最高裁では判例変更がないかぎりなされません。これは法適用の平等を確保する意味と、裁判所及び法適用の安定を図るためです。最高裁の判例が以後最高裁以下の裁判所を拘束することがこれを担保しています。
もし仮にA事件とB事件とで異なる違憲判決がなされた場合には、法適用の平等の問題になりうると思います。具体的に判例変更がなされた尊属殺事件の場合には、従前の事件について刑期の変更等がなされて、法適用の平等をはかっていたと思います(この点は不正確ですのでご容赦ください。)。
最後に、この点は多くの方が勘違いなさっているのではと思うのですが、尊属殺違憲判決事件は、「尊属」を特別扱いしたこと自体を平等違反とはしていません。尊属殺の場合に刑を加重することは認めるが、200条の規定する「死刑又は無期懲役」と限定している点が平等権違反としています。
No.8
- 回答日時:
日本の審査権を考えたばあい、「違憲立法審査」と「違憲審査」とに分けて考えることができます。
前者は法文が憲法に違反する場合で、立法による改正などが必要になり、後者は、行政行為などが対象となり、適用違憲がその判断となります。質問者様がおっしゃるように、事件を離れて法令の合憲性(法令違憲か)を審査し、その上で法令を事件に当てはめる場合、先の#4でも述べましたように、抽象審査の様相を呈し、憲法裁判所の性格を帯びることとなります。ここまでは非常に境界域ではありますが、具体的付随審査と考えることが可能だと思います。
憲法裁判所により、憲法について法解釈・判断を示す場合、判決が効力を持ち、拘束します。また、抽象審査でありますので、将来効についてもその効力を持つことになります。
しかしながら、日本における違憲審査の方法は、判決理由中になされ、判決による効力も、主文にのみ認められています。これをして、「判決理由中における違憲判断の効力」が問題ではないと考えるのは、『画龍点睛』ではないでしょうか?
また、憲法のいう「法の下の平等」は、14条(1)前段部分は、法の至高性を述べていて、「法のあるところ、万民に等しく適用する」という意味になります。尊属殺違憲判決における解釈は、その後段である、「社会的身分~により~差別されない」が適用されたのだと思います。
前段の解釈によれば尊属規定であってもそれを適用するものですが、本件は心神耗弱という個別特殊事情により、その適用が難しい法の欠缺が露呈したものであり、200条を違憲無効とし、199条を適用せざるをえなかったという考えではないでしょうか。
(ちなみに、立法によって200条を改正する場合、結局は199条と同様の内容となりますので、200条を削除するということになったのだと思います。)
No.7
- 回答日時:
>違憲判決の効力について、ここで議論するつもりはありません。
帰結するところがやはり、判決(主文)や判決理由、違憲判断の効力が主眼に置かれると思います。
判決における効力は、主文における拘束力(民訴法114条)が明文化されています。
しかし、主文のみにより執行が可能なのではなく、その他の手続法による手続きが必要になります。その執行・実現は、判決に基づく「各手続法」によるのです。
行政や立法、もちろん司法における行為の規制や改正は、判決に基づく強制ではなく、判決を契機としてなされるのです。
尊属殺人法令違憲の事例は、『社会規範の変遷』により実現したものですが、その実体は適用・運用を制限したもので、平成7年の改正により法令自体が改正され、適用もできなくなったと考えるべきだと思います。キーワードは、「日本人の法(規範)意識」だと思います。
No.6
- 回答日時:
#4です
尊属殺違憲判決後についての対応は、最高検察庁が即日通達を発し、尊属殺人については、199条の殺人罪の条項を適用するとしました。
これにより、200条の尊属殺人罪が適用されることはなくなりましたが、法文として最近まで残っていて、平成7年の改正により削除されています。
違憲判決 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%95%E6%86%B2% …
No.5
- 回答日時:
#4です。
念のため…『違憲判決』といわれるものは、それを以って行政や立法を拘束し、法改正や行為を改めさせる拘束力ないし強制力を持つものではなく、各機関の自主的判断・裁量によりそれらはなされると考えられます。
行政機関などの公務員に準ずる人たちには(公務員法などによる)「法令遵守義務」が課せられていますので、『実質的に』、判例による「法解釈の拘束力」が生じるまでです。
違憲判断や判決の『効力』については、様々な解釈があります。興味があれば図書館などで、民事訴訟法の争点[新版]三ヶ月章ほか p326 「破棄判決の拘束力 加波眞一」を参考にしてみてください。
No.4
- 回答日時:
>法令違憲かの検討に際し、事件の内容・特殊性を考慮することは許されるのでしょうか?
わが国の裁判における違憲判断については、具体的争訟における付随審査という形態をとっていて、その事件個別にノミの判断であります(個別効力説)。
最高裁判所は憲法裁判所ではなく(最裁判例)、憲法81条に規定があるように、最終審であるとしています。
付随審査である以上、法令違憲かの検討に際し、事件の内容・特殊性を考慮することは許されるかというよりは、それらを考慮した上での判断でなければならないのではないでしょうか。
>事件を離れて法令の合憲性(法令違憲か)を審査し、その上で法令を事件に当てはめるべきだと思うのですが。
そのような方法は、抽象審査(抽象的規範統制)であり、憲法裁判所を導きます。司法権から三権分立(行政権、立法権)を考えると、その言及の程度が大きくあってはならないのではないでしょうか。(個人的感想です。)
この回答への補足
違憲判決の効力について、ここで議論するつもりはありません。
しかし付随的審査制といっても、具体的な訴訟において、事件につき適用しようとしている法令に対してしか審査できないということであって、法令違憲かどうかの審査は、事件を離れて行うべきではないでしょうか?そうでないと、適用違憲との区別がなくなってしまうと思います。ある法令が、Aさんが起こした訴訟では合憲とされ、Bさんが起こした訴訟の中では違憲とされるのは、法の平等な適用を求める、法の下の平等に反しませんか(その意味で、なるだけ法令違憲はない方がよい)?
ご回答ありがとうございました。
補足に誤りがありました。
誤:その意味で、なるだけ法令違憲はない方がよい
→
正:その意味で、なるだけ適用違憲はない方がよい
No.3
- 回答日時:
参考URLにある当該裁判での最高裁判決では、
“所論は、刑法200条は憲法14条に違反して無効であるから、被告人の本件所為に対し刑法200条を適用した原判決は、憲法の解釈を誤ったもの”との所論に対して、“刑法200条は憲法14条に違反して無効”の部分と“刑法200条を適用した原判決”の部分を分けて判断しています。
前半部分(違憲判断)は殺人の客体(尊属がそれ以外か)で個別に処罰規定を設けること及びその法定刑に差をもうけること自体は認めています(判決文中段付近、“このような点を考えれば、尊属の殺害は通常の殺人に比して一般に高度...”)。
しかし、普通殺と尊属殺では実際の量刑において著しい差が発生する為、その部分が不合理であるため憲法14条1項に違反していると判断しています(最大限の減刑処置をとっても、尊属殺では執行猶予を選択できない)。
従って、違憲判断には事件固有事情は判断に含まれていません。
そして、所論後半については上記判断により違憲である尊属殺を適用せず、普通殺の規定で量刑を行っています。
“尊属殺違憲判決は、法令違憲”ではありますが、その判断に事件固有の事情を含んでいないので、適用違憲とはいえないと思われます。
確かに事件が違憲判決の契機になったのは間違いないでしょうが、日本においては違憲判断は付随的になされることになっているので、それはしかたが無いでしょう。
尚、回答子は同書を読んでいないので、的外れな回答になっているかもしれませんが、その場合はご容赦を。
参考URL:http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/sonnzoku …
No.2
- 回答日時:
こんにちはー
小杉さんの「法廷の疑惑」にも尊属殺のことがでてきますが、確かに質問者様の言われるとおりだと思います。
尊属殺というものは最初から刑法に入れるべきではなかったのでしょうが、当時の家族内での封建的な考えから、仕方なかったのでしょうか。
No.1
- 回答日時:
「つぶせ!裁判員制度」という本を読んだことがないので、どのように解説されているか分かりませんが、法令違憲の判断は当該法律自体の憲法適合性を判断するものですから、その判断において当該事件の具体的な事情を考慮することは出来ません。
この点は質問者の方のおっしゃるとおりだと思います。
仮に具体的事情を考慮しているとすれば、法令違憲ではなく(最高裁は認めていませんが)適用違憲とすべきでしょう。
ただ、尊属殺違憲判決の事件では、被告人の情状が違憲論に傾くきっかけになったことは否定できないと思います。
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