はじめまして。民法初学者です。
現在、民法総則を勉強中なのですが、質問があります。
譲渡人をA、第一譲受人をB、第二譲受人をCとします。登記はまだAに残っている状況です。
二重譲渡は通常177条の問題として処理され、BとCの物権取得の優劣は、登記の先後によって決まります。
ですが、この状況を94条2項類推適用で処理できないでしょうか?
つまり、Aはすぐに登記をBに移転させるべきであったにもかかわらず、それをしなかった。不実の登記を作出したAの帰責性、そして、不実の登記を信じたCの保護の必要性から94条2項を類推適用して、Cを保護するとできないでしょうか?
A 回答 (3件)
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No.3
- 回答日時:
外観法理については#1のとおりですので、
ご質問のケースについて公信力説を主張することができるということを指摘しておきます。
すなわち、Aの登記に公信力を認めるという考え方です。
この公信力説については、物権の分野で触れると思います。
回答ありがとうございます。
総則は物権、債権と密接な関連があるようなので、質問するときに次の分野を学ぶことで用意に理解できるものだったら回答者に失礼なのではないかと心配でした。大学の試験がもうすぐなので、それが終われば、早速物権に入ろうと思います。ありがとうございました。
No.2
- 回答日時:
94条2項の適用に当たり,善意の第三者の登記は必要ないとされていることから,同項を適用できるとすると,Cは登記なしでBに対抗できることになります。
これは登記の先後により画一的に物権変動の優劣を判断するという公示の原則になじまず,ひいては取引の安全に反する可能性があります。よって,A及びBに特段の帰責性が認められない限り,単なる二重譲渡の事例について,第二譲受人の善意を理由として,一般的に94条2項で処理することはできないと考えます。ただ,詐欺や行為無能力を理由とする取消後に登場した第三者は,二重譲渡と同様の利益状況と考えられますが,これについて,判例のような177条ではなく,94条2項の類推適用により保護すると主張する学説はあります(※)。
※たとえば,甲が乙に土地を譲渡し登記を移転した後,詐欺取消し(96条1項)をしたが,登記を甲に戻さないままにしておいたところ,乙が手元に登記があることを奇貨として,丙に譲渡した事例です。
甲の取消しにより乙への譲渡は遡及して無効となります(121条本文)が,取消後も登記をそのままにしておいた甲の帰責性を認め,94条2項の類推適用により善意の丙を保護すると主張するのです。
回答ありがとうございます。
他の事例まで取り出してくださって、いい勉強になりました。
民法の勉強には、京大の佐久間先生の教科書を使っていますが、それにも詐欺取消後の第三者の保護法理として解説がありました。本書を読む限りでは、177条より94条2項類推適用のほうが説得力があるように思います。(例えば、177条によると取消しによる法律効果の理解が、取消前は遡及的無効だが、取消後は物権の復帰というように、異なっている点です。)このへんは次に物権を学ぶことで深い理解が可能になるのではないかと期待しています。ありがとうございました。
No.1
- 回答日時:
面白い考え方だとは思いますが、そもそもの94条2項の理解に難があります。
>> 不実の登記を作出したAの帰責性、そして、不実の登記を信じたCの保護の必要性から94条2項を類推適用して、Cを保護するとできないでしょうか? //
94条2項は、ほんらい、通謀虚偽表示によって虚偽の外観を作出した場合に、その虚偽の外観を信頼した第三者を保護する制度です。これを、外観法理一般の通則的規定ないし一般法と考えて、他の外観事例にも適用するのが、94条2項類推適用説です。
ここで重要なことは、外観に対する内心的効果意思が存在しないことです。「本気じゃないのにそんなことをしたんだから、責任とれ」という話です。ゆえに、類推適用の場合には、それに匹敵する外観作出に対する帰責性が求められます。
そこで、設例について見ると、不実の登記の作出について、Bに帰責性があり、その登記を信頼したCを保護するのであれば、確かにその通りです。しかし、Bには帰責性がありません。早くにAから登記を得るべきですが、登記は登記権利者(買主)と 登記義務者(売主)の共同申請が原則なので、売買即登記とはいかないわけです。
また、177条は、物権変動について特に対抗要件主義をとっているからこそ登記の先後で決着をつけるという話であって、ほんらい登記には公信力がありません。したがって、登記を見ただけでAが権利者と信じたCにこそ過失(少なくとも軽過失)がある、という反論も、十分に成り立ちます。
加えて、Aに登記があることについて、Bが積極的にそれに関与したわけではなく、そうでなくてもその状態を何年も放置していたというならともかく、そういった事情がなければ、「虚偽の外観を作出した責任」とまではいえません。
一般に、94条2項類推適用の場面は、
(1) 意思・外観対応型-本人作出型
(2) 意思・外観対応型-他人作出型
(3) 意思・外観非対応型
と類型化されています。
(1)は、たとえば自分の不動産について、あえて他人名義の登記をしたような場合です。相続税対策で、あらかじめ子どもに登記を移しておいたら、それを良いことに勝手に処分してしまった、といった事案です。
(2)は、他人が作出した虚偽の外観に対して、本人が気付きながら、あえて真実の登記に戻さなかった場合です。
(3)は、本人のあずかり知らぬ登記がなされた場合です。たとえば、信用増大のために土地の登記を移してやった(登記を貸してやった)だけにもかかわらず、さらに勝手に土地を処分されたような場合です。
(3)のようなケースでは、本人の帰責性は低く、むしろ「ほんらい許した以上のことをやられて、虚偽の登記が作出された」という点に照らして、判例は、110条(権限踰越の表権代理)の「法意を類推」して(もともと「類推」=「法意を適用」という意味のはずですが、判例がそういっているので)、虚偽の外観作出、本人の帰責性、第三者の善意、さらに第三者の無過失まで要求します。
したがって、単に「94条2項類推」だけではなく、その事例がどういう事実関係で、どのくらいの帰責性があって、どのくらいの信頼があって、信頼したことに対する過失の程度はどの程度か、といったことを、事案ごとに考慮しないといけません。
蛇足ながら、同じような話は、いわゆる信義則、権利濫用、公序良俗違反といった一般法理の適用にも当てはまります。本来的なケースではないからこそ「類推」なので、「類推できるだけの確たる理由」が必要なのです。
回答ありがとうございます。
確かにこのケースにおいては、Aに94条2項類推適用するだけの帰責性が認められるか疑問でした。さすがに所有権移転後すぐに登記を移転させなかったからといって、「不実の外形を作り出した責任を取れ!」とはいえないのですね。納得できました。
詳しい解説ありがとうございます。
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