No.2
- 回答日時:
お礼欄拝見しました。
おっしゃるように戯曲『マクベス』では、「月たらずで、母の胎内からひきずりだされた」マクダフによってマクベスは倒され、マルコムの勝利で幕を閉じます。
で、わたしもそこから先は知らなかったので、ちょっと調べてみました。
マルコムは実際にマクベスを倒した後、マルコム三世としてスコットランド王に即位します。
この人は、戯曲では父親が暗殺されたと聞くや、その翌朝、自分の身の危険を感じ、アワ食って逃げ出します。マルコムはイングランドへ、ドヌルベインはアイルランドへ、「命こそ宝、分けておいた方が、おたがいに安全というもの」とか「こそ泥のまねはしたくはないが、せっぱ詰れば、自分の命を盗んで逃げる、それより仕方あるまい」とか言って、こそこそと退場するんですが、実際にはダンカン王殺害の1940年にはたった9歳だったんですね。イングランドのエドワード王の庇護を受け、1057年にはその助けを借りて、マクベス討伐を果たし、マルコム三世としてスコットランド王となります。もちろん、弟もいて、この弟はマルコム三世没後、ドナルド三世として王位を継ぎます。
こうして1371年のデイヴィッド二世が没するまで、ダンカン王の血統は続いていくのです。
1371年のロバート二世の即位から始まったスチュアート朝は、1603年にはイングランドも手中に治め、1714年まで十四代に渡って続くことになります。そうして八代目が、昨日も言ったように、ジェームズ一世だったんですね。
一方、バンクォーは実在したものの、その息子フリーアンスはホリンシェッドの歴史書には出てくるものの、どうも実在の人物ではなかったようです。
シェイクスピアが参照したホリンシェッドによると、ウェールズに逃れ、ウォルターという息子を設けたということになっていますがどうやらそんな人物はいなかったらしい。
史実でわかっている「スチュアート朝」というのは、12世紀にウォルター・フィッツアランがスコットランド王ディヴィッド一世の宮宰(Steward:国王の代理人として行政上の最高職)に命ぜられ、その職を世襲することになり、それを家名とするようになります。ここにはバンクォーの名前は出てきません。(※参考文献 高橋 哲雄『スコットランド歴史を歩く』岩波新書)
ですからシェイクスピアの時代には、このウォルター・フィッツアランもバンクォーの血筋と考えられていたけれど、今日ではそれは史実ではないことが明らかになっているのだと思います(ここらへんは典拠がないのでよくわかりません)。
シェイクスピアの時代からすれば、マクベス王というのは六百年ほど前のことです。
日本で言えば、戦国時代あたりに平家物語を聞くような感覚でしょうか。ですから当然史実とは異なる部分もあったのでしょうね。
『蜘蛛巣城』わたしも観たことがあります。ものすごく怖い映画で、「マクベス」ってこんな怖い戯曲だったんだ、って、逆に思った記憶があります。
以上、参考になれば幸いです。
ありがとうございます。非常にややこしいですね。何しろ現代からシェイクスピアの時代への錯誤と、シェイクスピアの時代からマクベスの時代への錯誤が二重でありうるのですからね。シェイクスピアがジェームズ一世を喜ばす為の8人という暗示が、実は間違いだったんですね。ちょっと残念ですね。
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
第四幕一場の洞窟の場面ですね。
この八人の王には意味があります。
まず『マクベス』は史実に基づいた戯曲です。
マクベスも、ダンカン王も、バンクォーも、モデルとなる人物がいます。
マクベスが発表、上演された当時の王はジェームズ一世でしたが、彼はそれまでスコットランド王であり、一六〇三年、エリザベス女王没後、イングランド王をも兼任し、スチュアート王家の祖となった人物です。そうして、このジェームズ一世の先祖にあたるのがバンクォーなのです。
シェイクスピアはホリンシェッドの『イングランド・スコットランド・アイルランド年代史』をもとに、この戯曲の構想を練りました。
歴史的に見ると、マクベスには正統な王位継承権があり、逆にダンカン王こそ王位簒奪者だったようです(※参考文献 福田恆存『マクベス』巻末解説)。
ところが当時の王であるジェームズ一世を立てようと思えば、当然マクベスは悪役にしなければならなくなる。だからマクベスの治世は実際には十七年間あり、国王として立派な業績をあげた人物であったにもかかわらず、戯曲では王位を十週間程度にまで切り縮め、王位継承権をまったくないものとし、問題の多い人物であったらしいダンカンを「名君」としているわけです。
ホリンシェッドの歴史書のなかでは、バンクォーも王位簒奪の野心を持ち、マクベスの陰謀にも加担していたようですが、バンクォーの子孫に当たるジェームズ一世を慮って、その点を曖昧にしたようです。
ともかく八人の王が続く。当然、この八番目は、ジェームズ一世その人を指している。
マクベスはそのまぼろしを見てこういいます。
「(先頭の影を見て)貴様は、バンクォーの亡霊にそっくりだな、退れ! その王冠がおれの眼玉を焼けただらす。(二番目の影を見て)その髪の毛、額にはまたしても金の冠、貴様も前の奴にそっくりではないか。うむ。三人目も。(略)四人目もか?(略)ええい、最後の審判のその日まで、この行列を続けるつもりか? またか? 七人目だな? もう見ぬぞ、八人目か、手には魔法の鏡、あとに続く無数の行列を見せようとてか、あれは何者だ、玉を二つ、三つの笏を手にしている。(以下略)」
この魔女に見せられたまぼろしによって、マクベスは自分には王家の血は流れておらず、バンクォーの子孫代々へと王の血が受け継がれていくことを知るのです。
一方、このせりふにはそれだけではない意味が含まれているんです。
つまり、現実との関係です。
バンクォー以降、ジェームズ一世まで王家の血はこのように受け継がれてきましたよ、さらに「無数の行列」が続いていくんですよ、と示唆しているんです。
「ふたつの玉」が含意しているのは、彼の代になって、スコットランドとイングランドの両方を統治するようになったこと、さらに「三つの笏」は、やがて王がスコットランドとイングランドだけでなく、アイルランドまで統治するであろう、とほのめかしているのです。
つまり、シェイクスピアは戯曲の中にこんなせりふを織り込んで、王様を喜ばしているわけですね。
『マクベス』はそんなに長くないし、あらすじを読むより、たぶん戯曲で読んだ方がおもしろいと思います。
ありがとうございます。8人というのはジェームズ一世までの王位の人数だったのですね。黒澤の蜘蛛の巣城を調べていたのでマクベスのあらすじを読みました。「女の股」→「帝王切開」、「森は動かない」→「動く」の、あざあやかさに感動しました。見事な”とんち”といいますか。ちなみについでに教えていただければありがたいですが、あらすじの最後はダンカン王の息子のマルカム王の誕生で終っていますが、8人はマルカムの子孫ではなく、バンクォーの子孫なんですよね?。ダンカンの子孫からどこでバンクォーの子孫に王位が入れ替わるのでしょうか?。マルカムの次の王がバンクォーの息子(フリーアンス)でしょうか?。
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