No.1ベストアンサー
- 回答日時:
もう少しきちんと調べてから回答した方がよいのですが、急いでいると言われますので、大体、こう考えているという私念を述べます。
「啓蒙主義」の本質というと、「知識は力である」 「人間は理性的生物である」というこの二つの命題に、もう一つ「教育は人間を変える」というオプティミズムでしょう。実は、これらの背後に、知識や教育の大衆化、庶民もまた知識・政治に参画し、理性的な自己判断ができるようになるはずだ、また、その時代が目前に訪れたという時代認識があったのだと思います。
「啓蒙」とは文字通り、「蒙昧」を「啓く」ということで、無知な者を知ある者に変えるということです。上の「知識は力である」と「理性的生物」のテーゼは、古代哲学においてもすでにあったものです。
しかし、近世西欧の社会変化は、古代においては、賢人・エリートが「理性的生物」として「理性と知」をみずからのものにできるに対し、一般庶民は、理性的存在たりえない、という事実認識があったのに対し、教育の可能性で、一般庶民もまた、理性でものごとを考え、判断できるようになるはずだ、という期待があったのです。
カントやヘーゲルにも、この基本的な「進歩史観的構想」がありますし、カントは「啓蒙とは何か」を著しています。またヘーゲルの、ただ一人が自由な社会(アジア的専制国家)、少数が自由な社会(古典ギリシア・ローマの貴族国家、西欧社会)、そして西欧社会が更に展開すれば、万民が自由な社会が来るのだ、というのは、啓蒙思想のラインにあります。
フランスの百科全書派は、庶民の啓蒙を目指し、広く知識の集積を試みたので、そのような思想は、コンドルセなどの進歩思想に継承され、フランス革命後の、国家的国民義務教育制度の構想にまでつながります。
>それにより人間の理性が現代文明に果たす役割とは何だと思いますか?
「啓蒙主義」は歴史的には失敗したのだと思います。教育によって、民衆が知識を持ち、各自が理性的判断を行うようになれば、カント的格率のトートロジーのようなことになり、内面の理性の真理命令によって、人々は博愛や平和や善を志向すると考えたのですが、知識を得て、「理性」を得ても、人は、それを、エゴイズムの道具としてしまいます。
また、民主主義あるいは多数決原理のパラドックスも発見されています。民意を最高の決定原理とすれば、もし、多数決で、或る個人を最高指導者として、独裁権限を与えるのが、もっとも適切だと決まると、民主主義や多数決原理に矛盾する社会体制が成立するのです。
これは理論的にではなく、ナチスの擡頭と、ワイマール憲法から独裁者ヒットラーが選ばれたことに歴史の事実があります。
現代アメリカでも、コマーシャリズムや金権政治や軍産複合体の世論操作・情報操作が、きわめて露骨にあるのであり、どこまでが、理性的に判断できているのか、与えられている「世界についての情報」そのものが歪曲されているのが実状で、独裁国家だった旧ソ連よりも、何が「おかしいか」が見えないだけに、余計に問題だとも言えます。
しかし、フランス革命の標語ではありませんが、「平和・博愛・自由」を目指して、私たちは、努力すべきだということでは、道は決まっているとも言えるのです。「自由」は、独裁や強制からの「自由」であるべきで、好き勝手なことをする「自由」は、抑制されねばならないでしょう。
寧ろ、「博愛・平和・平等」をこそ標語とせねばならないでしょう。そこで、歴史的啓蒙主義の失敗と問題点を反省し、「啓蒙」は、個人の啓蒙だけではなく、とりわけ、社会や文化や伝統の啓蒙であらねばならないということが、より明らかになったとも言えます。
過去の啓蒙主義も、旧社会の悪弊や悪しき社会慣習の廃絶を目指したのですが、それこそが、もっとも難しい問題でもあるのです。旧弊な文化が、個人の可能性を歪曲し、啓蒙を不完全なものとしてしまうということが問題でしょう。
ここでいう「旧弊な文化」とは、実は、先進知識人が唱える、個人の自由とか、権利とか、機会の均等と言った、一見、それはよりよい社会を築く前提となる原理に見えるような文化規定、イデオロギーでしょう。
こういった文化規定は、アメリカが典型的にそうであるように、あまりに「無限定」的過ぎるとところがあるのです。「自由」は、アメリカにとって、他人を殺す自由や、他国の内政に干渉する自由になってしまっています。権利も同様で、自己の権利を守るためなら、他人の権利や、地球の環境資源を破壊しても構わないという理屈になっています。
本来そうではないはずで、国家的エゴイズムは、実は、その社会や文化の体制のエートスの現れだとも言えます。従って、旧弊たるエートスが、イデオロギーを生み出し、それが、視野の狭い個人の世界観・価値観を生み出し、このような個人がまた、イデオロギーやエートスの頑迷な維持者・墨守者となり、悪循環がやまないということを、どこかで止めねばならないのです。
個人はあくまで「理性的」であることが望ましいのです。しかし、理性的であることを阻害する理由が、国家イデオロギーや悪しきエートスに内在するのです。「革命」が起こるのではなく、何百年・何千年の展望における、「社会や文化の啓蒙」が必要なのでしょう。社会や文化、制度やエートスが「理性化」せねばならないとも言えます。
個人を教育する方法は様々に考案され、実行されていますが、社会や文化やエートスのようなものを教育し、啓蒙するのは、どうすればよいのか、方法が分かりません。しかし、だからと言って、「理性への信頼」を失うことは、より悪しき状況への後退になるので、「理性主義」は断固維持せねばならないでしょう。
「平和」「博愛」「平等」を、根拠付ける論理は、「理性」によってしか出てこないからです。また、理性ではたりない判断もあり、それは、「叡智理性」とでも呼ぶ、宗教を越えた、人類的な博愛のヴィジョンでもって対処せねばならないでしょう。
反理性・反動・反啓蒙と対抗しつつ、理性主義を維持し、しかし、なおかつ理性の限界を自覚し、古代の哲人たちが問題としてやまなかった「叡智」を、地球世界市民的ヴィジョンで、新しいエートスとして築くことが、望まれる展望でしょう。
「理性」しか「平和・博愛・平等」の根拠を整合的に提示できるものはなく、理性でさえも、時にそれは困難なのです。しかし、理性を棄てれば、理性への信頼を失えば、もっと難しい、悲惨な事態となり、社会や文化は退行して、巨大な悪へと沈んで行くでしょう。
この回答へのお礼
お礼日時:2002/05/21 22:49
NO.1さんとても参考になる意見どうも有り難うございました。ぜひその豊富な知識で僕のほかにもいろいろな人にアドバイスしてあげてください。
No.2
- 回答日時:
啓蒙主義の本質は、理性の結実であるところの智慧とともに知識を広めることにあると思います。
現代は平等の名のもとに良しにつけ悪しにつけ権威が失われ、かつて西洋やわが国にあった、いわゆる啓蒙主義の時代に見られる一方向的な啓蒙は馴染まないのではないかと思われます。
現代が抱える大きな問題の一つに、発達する科学技術がもたらす諸問題があります。とりあえず今はこのことに問題を絞ってみます。人間本来のもつ自然な力や能力とは大きくかけ離れた、文明の利器を手に入れたことによる混乱についてです。
それは銃の有無が人間の力関係を劇的に変えるように、精神的にも物質的にも人対人ばかりでなく、人対自然・人対環境といった位相でも現れてきています。
これらの事柄の良し悪しは表裏一体のものであり、一部の人間が快適さや利便性を獲得した一方で、未だ終わることのないない戦争・核やゴミの廃棄・人口・食料・環境など世界的にも解決の糸口が見えぬ問題を抱えています。
かく言う自分に立ち返ると、コンピューターに親しみゴミを生産し飽食の一端を担う典型的な現代人です。一人の人間が生存に必要な量の100倍を優にこえるエネルギーを消費する、と言われる日本に暮らす普通の人間には、このジレンマから抜け出すことはきっと不可能なことでしょう。
このように、言わば原罪ともいうべき生の裏面をさらに塗り重ねている我々が、理性をもって何がしかの役割を果たすとするならば、それぞれの立場を自覚しその上で出来得ることを考えなおかつ行動し、それぞれがもつはずの理性に働きかけながら、既にある共感を重ね得てうねりをさらに大きくすることだと考えます。
まだ間に合う可能性は充分にあると思います。(参考URL↓)
コピーの飛び交うこの世の中で、真似事ではない真の哲学者の立場にある者の果たす役割は貴重でありましょう。
参考URL:http://oshiete1.goo.ne.jp/kotaeru.php3?q=221096
この回答へのお礼
お礼日時:2002/05/21 22:43
お答えいただいたNO.2さんどうも有り難うございました。とても分かりやすくまとめてあって、なるほど!と思いました。またお世話になるかもしれませんが、そのときはよろしくお願いします!!!
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