ベートーヴェンの交響曲第九番 第一楽章冒頭の「六連符」は有名ですが、調べてみると似たような音型がピアノ協奏曲 第四番 第一楽章にありました。
この曲はト長調で始まり、29小節目でいきなり短調に変わります。それに伴って、弦が三連符を刻むのですが、先ほどの第九も八分音符を一拍と取れば三連符の連続です。
ベートーヴェンの楽曲の中で、この「連符」が発生するのは、どういう状況からだと考えられますか?
私見では、第九の場合何かの「予兆」「生成過程」(ホルンがラとミという不完全な和音)のきっかけであり、ピアノ協奏曲では幸福ば気分が、一転突然の不安になります。
また両曲とも連符の部分は短調ですが、こういった連符は、ベートーヴェンにとってどういうメタファーになっているのでしょうか?
(※ 画像はピアノ協奏曲第四番 第一楽章 29小節目からです)
No.2
- 回答日時:
先ほど、3拍子と舞踊音楽の関係について触れましたが、交響曲を始め、多楽章の楽曲にはしばしば「スケルツォ」という楽章があることは御存じでしょう。
3拍子の曲で、非常にテンポが速いので、1小節を1拍として数えることが多いです。つまり、3連符のようなものです。普通程度の速さのアレグロで4分の4拍子の曲に3連符が現れた場合、このスケルツォのような諧謔性や躍動感、切迫感という性格も現れます。交響曲第5番の第4楽章などもよい例でしょう。3連符の動きが始まると同時に、躍動的になります。譜例に出したのは、最初に3連符が出る、第2主題の提示部ですが、この楽章の終わり近く、294~307小節の3連符による高揚は圧巻です。この効果を徹底しているのは、交響曲第8番の第4楽章でしょう。最後の例は交響曲第4番の第4楽章ですが、説明はもう不要かと思います。この場合は、16分音符のあと少し落ち着いて、優雅な性格の音楽に場面転換します。このあとさらに8分音符の動きに落ち着いていきますので、この場合は動から静へのプロセスということになります。
ベートーヴェンの音楽において、連符が特定の何かのメタファーになっていると考えるのは無理でしょう。どういう意味を持つかは、前後のコンテクストによります。おもに言えることは、
1.動→静、または静→動の変化における拍の分割の細分化の一段階。
2.奇数による分割が挿入されることによる鮮やかな場面転換や意外性の効果。
3. 3拍子的性格からくる、軽妙な躍動感、諧謔性、優雅さ、切迫感。
などになるでしょうか。
ちょっと回りくどかったかもしれませんが。
そうですね、連符は緩急や緊張弛緩のパーツ、曲を組み立てるときの部品ということですね。
なので、隠喩というよりは、前後の文脈によって性格が決まるということでしょうか。
それにしてもベートーヴェンの曲は、そびえ立つ山脈のようで、交響曲という山を登り切ったらまだ弦楽四重奏や、ピアノソナタ、協奏曲などの山脈がいくつもあって、愕然とした気分になります。
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
おもしろい考察ではありますが、少し考えすぎではないでしょうか。
ピアノ協奏曲第4番の例と同じように、3連符とともに短調になる箇所はほかの曲にもあることはありますが、それは単なる偶然です。短調にならない例も当然あります。強弱法という、音の大きさに付ける変化があるのと同様に、リズムにも増減法があります。曲全体の構成の中で、拍節感が切迫したり、逆に緩んで静まったりします。一つの単純な捉え方として、3連符は、そういった拍節の緊張弛緩という段階的変化に組み込まれたものということができるでしょう。そして、8分音符や16分音符など、偶数で割り切れた分割のリズムと、奇数である3連符を一つの曲の中に併存させる方法は、バロック期から発展したと思います。
まず、交響曲第9番ですが、これは曲の冒頭で、その前に拍節の基準となるフレーズがありませんし、どちらかというとトレモロの効果で、6連符(もしくは3連符×2)のリズムの特徴が前面に出ているとはいえません。始まった瞬間は、何拍子でどのくらいのテンポなのかは感じ取りにくいですが、断片的なモティーフが少しずつ導入されるに従って明らかになっていき、そこに若干の意外性があります。ピアノ協奏曲第4番の途中の部分とは性格も役割も異にしますので、比較するのは無理かと思います。3連符は奇数なので、8分音符や16分音符と比較すると、「脈動」は十分伝わりながらも、感じられる拍の単位は、大きな1拍です。交響曲第9番の出だしの6連符は、4分の2拍子という拍節感を明確に出すことを避けながらも、律動感を準備する効果があります。
ピアノ協奏曲第4番の当該部分での3連符の使用は、新しいフレーズが挿入されるにあたって、その前の部分との性格的な対照を明確にするためのリズムの変化です。転調ももちろんそうですが、両者を同時に使うことによって、思い切った場面転換の効果があります。また、3連符のリズムは、偶数で割った刻みとは違う、軽妙な躍動感があります。これは、3拍子の音楽の多くが舞踊音楽であったこととも関係するでしょう。いずれにしても、8分音符や16分音符などの偶数で分割されたリズムの中で3連符のパッセージが現れると、拍節感に大きな変化が付き、意外性という効果が生まれることも多くなります。
新しいフレーズが始まるときに、音楽上の性格変化を効果的に付けるためには、転調、リズムの変化、音の強弱、音域の高低などいろいろな要素を組み合わせて使います。そして、常に新鮮な展開を保ち、いかに聴衆を飽きさせないかが、作曲家のウデの見せ所です。ピアノ協奏曲第4番の場合は、転調とリズムの変化を同時に使った例です。同じような例が、ヴァイオリン協奏曲の第1楽章にあります(譜例参照)。そこまで、気品のあるテーマが長調でゆったり奏された後、同じテーマが短調で現れるのに合わせて3連符の対旋律を導入し、ここで音楽が動き始めます。リズムの増減法という観点から見ると、そこまでは4分音符と8分音符だけだったのが、ここで3連符という一段上の拍節的高揚に進み、そのあと、さらに16分音符の刻みに変化するとともに、ヴァイオリン独奏導入を準備するオーケストラの最初のクライマックスに到るわけです。3連符の部分は、拍の刻み方が少しずつ細かくなる、その段階の一つでもあります。静から動への変化です。
その下の譜例は、ピアノ協奏曲第5番の第1楽章からの部分です。3連符が出る直前は16分音符の刻みで、ハ短調、フォルテッシモです。ハ短調のドミナント、「ソシレ」の和音を突然ト長調の主和音に読み変えて始まるのが、3連符が導入される個所です。情熱的で切迫したパッセージから、突然明るく、優雅で落ち着いた雰囲気に場面転換します。同じ3連符でも、先の例とは逆に16分音符の刻みのあとなので、リズムの効果としては、動から静への変化になります。調性の点でも、ピアノ協奏曲第4番の例とは逆に、短調から長調への変化になっています。
譜例を追加するので、回答番号を改めます。
いつも丁寧に回答して下さってありがとうございます。
三連符の具体的な導入事例を解説していただき感謝しています。
先月、「第九」を集中して聴くことがあって、ノリントンやインマゼールなどの演奏を繰り返し聴きましたが、第九は混沌とした状態から何かが創造される様な印象を受けます。例えば、冒頭の第一ヴァイオリンのラ・ミ→ミ・ラ→ラ・ミは「雷鳴」のようで、ハイドンではないですが、『天地創造』の曲のようです。
また、こちらでは参考資料としては、スコアと音源、あとはネットのWikiや他人様のブログから断片的な知識をつなぐ程度なので、大したことは論じられません。あまりネットでは参考にならなくて、やはり紙媒体を手に入れるしか無いようです。
あまり自分の中で煮詰まった仮説ではなかったので、質問するのもどうかと思ったのですが、趣味とはいえ調べ方をもっと入念にしなければならないと思いました。
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