古典作品・堤中納言物語には虫愛づる姫君が収録されており、その内容は宮崎駿がナウシカのモデルにしたと言われているように今では多くの人が知るようになったと思いますが、当時の貴族の風習であるお歯黒やまゆげを抜くといった行為をせず、自然の姿をあるがままに愛した姫君の様子が描かれています。
今回私が質問したいのは内容についてではなく、堤中納言物語の作者はどういう意図をもってしてこの作品を収録したのでしょうか?
この作品には姫君がなぜ当時の風習に従わないのかということを姫君自身の口を借りて説明していますが、その説明の仕方は今の私たちが読んでも極めて共感を覚えるものです。この姫君に対する共感という感覚は今の私たちだけでなく、当時のこの本が書かれた時代においても同じような共感が得られていたのでしょうか?
この物語は貴族の風習を自然本来に反すると揶揄するためにわざと虫愛づる姫君というキャラクターを登場させて社会風刺をするために書かれているのでしょうか?
それとも当時の貴族からすれば常識から外れる行いを繰り返す変人姫君を後世の晒し者とするため、つまり姫君を批判するために物語に収録しようとでも思ったのでしょうか?
虫愛づる姫君は全編が姫君に対する批判というよりも、姫君が語る台詞に物語の主軸が置かれています。そのため作者は姫君を賛美するためにこの物語を収録しているように思えるのですが、だとしたら虫を愛するような姫君こそ自然本来であり美しいという価値観は当時から既に存在したということでしょうか?
また、この虫愛づる姫君が堤中納言物語以降、どのような評価の変遷を経て現在にまで伝えられているのか(いずれも肯定的な評価なのか、それとも否定的な解釈もあったのか)、虫愛づる姫君のような存在は平安時代にあって極めて例外的な存在だったのか、それともこのような感性の持ち主は時代と共にどんどん増えていったのか、そのあたりの事情も教えて頂きたいと思います。
お詳しい方よろしくお願い致します。
A 回答 (4件)
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No.4
- 回答日時:
NO.2、3です。
以下は質問者さんのレスポンス如何によって、書こうかと思っていたことです。徒労にならないと良いのですが…締切前に書き込みます。>この虫愛づる姫君が堤中納言物語以降、どのような評価の変遷を経て現在にまで伝えられているのか
『堤中納言物語』はいつ頃に編纂され、現在残っているような形になったのかも不明です。
伝本は全て近世以降のもの、中世の写本は元より注釈書も残っていないのが現状で、その間の享受なり受容なりは全くの謎です。要はどんな風に読まれていたのかというのが、分からない作品なのです。
ですから評価と言っても近世以降のものになるのですが、近世においても、契沖、村田春海、富士谷御杖、大野廣城などが『堤中納言物語』を研究しているものの、彼らは珍しい部類で、近世の国学者の多くはこの物語に着目していなかったようです。
端的に言えば、ほとんど関心を持たれず重要視されなかったというのが近世における評価。むしろ評価するに至ってないと言った方が良いのかもしれません。学者間ですらそうなのですから、まして庶民の間にまで広く流布したかは推して知るべしでしょう。
『堤中納言物語』を最初に高く評価したのが明治期に活躍した国文学者、藤岡朔太郎。藤岡の論考によってにわかに『堤中納言物語』が注目を集めるようになっていったようですが、殊に研究が盛んになるのは戦後のこと。
この辺りになると、「虫愛づる姫君」の姫君を巡っての解釈、評価は様々です。大別すれば、姫君の理知性を高く評価する見解と、王朝の貴族女性の姿から大きく逸脱する姫君を醜悪なものと捉えて、王朝末期の露悪的、退廃的な精神が映し出されたとする見解。
姫君の知性を高く評価する見解の中には、質問者さんが仰るような貴族社会への批判と見るものもあれば(そこまでの意図はないとするものもあります。私もその立場です。)、王朝女性からの脱皮を目指したと見るものもあります。もちろん、姫君に仏教思想を見るものも。
ご質問はどうも「虫愛づる姫君」が、書かれたと推定されている平安末期ないしは鎌倉期の当時にどんな風に受け止められたのか、どんな影響を与えたのかといった事を知りたいのだと思いますが、『伊勢物語』や『源氏物語』のように、それが窺い知れるような文献や記述が残っていないというのが答えです。
『堤中納言物語』はこれまで話してきたように、他の王朝物語とは異なる特殊な事情があるのだと踏まえてください。
No.3
- 回答日時:
NO.2です。
「虫愛づる姫君」についてだけ考えるとして、「虫愛づる姫君」の物語作者(『堤中納言物語』の編者とは別とします。)は、物語内で虫愛づる姫君の事を賛美していますか?
例えば、姫君独特の言い分や振る舞いが立派だとか素晴らしいとか、良い事として地の文で評価していたり、あるいは、姫君の行動や言動が常に良い方向に描かれているといった根拠が見出せません。
反対に、姫君の言動や振る舞いをして、教訓的なものが物語の結びにあって戒めているというのでもありません。
物語の結末はハッピーエンドでも悲劇でも、ましてや教訓譚でもないということは、この物語の核はそこではないと私は考えます。
姫君が言葉でもって、明確に自身の物の考え方や価値観を打ち出して行動に移すということが、物語の場面が展開する上で一つの契機となっていることは確かです。
加えて、姫君が独自の価値観に基づいた理論で、周囲の出来事や人々の反応もどこ吹く風という態度を貫く面白さだったり、周囲の人々と姫君との差異が際立つことで可笑しさだったりが生まれてくる。そこにこの物語の醍醐味があり、際立った主人公の人物造形があるのでしょう。
姫君の独特な人物造形が物語の主軸なのは、物語的な娯楽性によるものです。
姫君と周囲とが全く噛み合わないから面白いし、その面白さを求めて物語を作っているということです。
そして、だからと言って作者は姫君を賛美しているとは直結できません。また別に分けて考えるべき問題だと思います。
姫君の言葉には一理あると感じさせられるような、ある種の普遍的な響きがあり、姫君が生き生きと描かれているのは魅力ですね。一方で、その思想が行動として表れるのは、多くの毛虫を集めて蝶になる過程の観察だったりと落差があって、くすっとした笑いが生まれてもくる。物語の面白さがある作品だと思います。
No.2
- 回答日時:
私は特別『堤中納言物語』について詳しいわけではありませんが、ご質問に気になる事があり回答します。
確認したいのですが、質問者さんは『堤中納言物語』としての成立と、『堤中納言物語』に収められた物語の作者(あるいは「虫愛づる姫君」の作者)が同一人物だという前提で考えているということでしょうか?
そもそも各短編物語の作者が、全て同じ人物によって創作されたものではありません。少なくとも「逢坂越えぬ権中納言」は天喜3年の「六条斎院禖子内親王家物語歌合」に、小式部作として提出されたものであることが明らかになっており、それ以外の物語については作者不明です。
更に、それぞれの物語を現在のような形にまとめた“編者”と、各物語の作者が同じ人物かどうかも不明です。『堤中納言物語』の編者=「虫愛づる姫君」の作者とは限りません。
ですから、「虫愛づる姫君」だけでもって『堤中納言物語』の作者(編者)の編集意図が、どういったものか考えることは出来ません。
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