かつて、高電圧電子顕微鏡では、電子の運動エネルギーが大きくなると例えば分子結合を破壊するようになるので、そのような微妙な資料は観測できないと言う説明があったように思います。また、ハイゼンベルクは量子現象の不確定性をガンマ線が当たると電子の位置が変わって不定になると説明したような記憶があります。
ところが、現在3MVもの超高電圧電子顕微鏡が実用化されています。このような(電子の質量0.51MeVの数倍もの)高エネルギー電子が当たると原子でさえ移動して、分子や結晶の構造が変わってしまって本来の形態が観測できないのではないかと思うのですが、実際に結晶や有機分子を原子レベルの解像度で観測されています。
高電圧化は電子波の波長を短くなるので解像度の改善という大きな利点をもたらすことは理解できますが、以前指摘されていた問題が実際には起こらないのは何故なのでしょうか?
A 回答 (3件)
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No.3
- 回答日時:
>「照射される電子のエネルギーが大きいと、衝突の度に試料が変形(変位)するので鮮明な像が得られないと予想できます。
」電子ビームがnsではなくても、msでもsでも試料が損失を受けなければいいのです。
荷電粒子のエネルギー損失に関して勘違いされているようです。電子のエネルギーが高いほどエネルギー吸収率(阻止能<dE/dx>)は下がります。これは、ザックリ言うと速いほど相互作用時間が短くなるからです。電子の場合は1MeV〜数MeVで最小になり、約2MeV/cmです。詳しくはNISTのデータベースhttps://physics.nist.gov/PhysRefData/Star/Text/E …をご覧ください。数MeV以上では衝突による損失よりも放射損失が優勢になります。また、試料の温度は、使っているモデルは定常状態でありエネルギー付与のモデルにも疑問がありますが、文献をhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jsssj/25/4/ … を参考に概算できます。文献中の式(5)の電流値は吸収電流なので、照射電流に直すことは阻止能の値を使えば可能です。どの程度の時間で定常状態になるかは試料の熱伝導度と電流密度次第です。定常状態ではない場合は熱伝導方程式を作って概算すれば簡単に損傷の条件が求まります。
これは、定量的な議論をしないとご納得いただけないことと思います。まずご自身で計算してみていただけますか。
>「分子や結晶格子の鮮明な観測は数十kV以上の超高圧電子顕微鏡をもって初めて可能になりました。」.
数十kV(CRTや卓上型電験と同程度の電圧)?勘違いされておられるようですが。MV級の電圧が必要なはずです。
再三にわたる回答を頂き有り難うございます。しかしながら、申し訳ないですが、当方の質問とかみ合ってないようです。
今回の回答の前半部に付きましては、原子レベルの構造に例えば電子1ヶが試料に当たる毎に、構造が変形して正しい像が得られないであろうことを問題にしてます。それは試料の温度上昇が起こる遥か以前の問題だと思います。
また、後半に付きましては、#2回答へのお礼の中の最初の文献の図8(a)に100kV電子顕微鏡による塩化銅フタロニアニンの観測像が載ってます。これをもって「数十keVで結晶格子が鮮明に観測された」と言って良いと考えます。もっとも、これを"超高圧電子顕微鏡"と云うのは現在では書き過ぎなのでしょうが、この論文が出された1976年ではそう呼んだのだと思います。論文のタイトルが"超高圧電子顕微鏡の化学への応用"です。
No.2
- 回答日時:
>「先ず、電子顕微鏡の観測はかつては写真乾板を使ってかなり長い露出時間であったのが普通だったのではないでしょうか。
」現在では、イメージ・インテンシファイア(I.I.)よ半導体撮像素子の利用により写真乾板とは桁違いの高感度が得られており、I.I.を使っていないスマホでも星空を撮れます(I.I.は100万倍から1億倍の電子増倍が可能です)。これらの利用によって、透過型電顕でのリアルタイム観察も可能になっています。
>「X線等のレーザーによる単発の短パルス観測は、高輝度レーザー光源で始めて実用化できて、電子顕微鏡では短パルス観測は無理だと思います。」
電子顕微鏡では高速現象を捉えるためにパルス電子源が開発されています。パルスレーザーを使った光電子銃を使うと簡単にps-nsの電子を得ることができます。一番短い電子パルスは1MV, 数百フェムト秒程度です(市販されている超高圧電鍵の電子銃がパルス動作できるかは確認しておりません)。
蛇足ですが、現在のX線レーザーは加速器を使った自由電子レーザーが主流で波長可変です。10nmは得られています。
>「X線の波長は電子線よりも桁違いに長いし。」・・・「電子顕微鏡の高電圧化の利点は、厚い資料を見えるようになることもありますが、特に高解像度になる点であると聞いてます。」
その通りですが。波長だけを考慮した分解能に達する前に、振動、電圧の安定度、色収差などで制限されます。
>「そもそも(X線)レーザーによる単発の短パルス観測は、極短時間で起きる化学変化の過程を観測することが目的なのではないでしょうか。」
化学変化に限らず、高速変化の観測です。高輝度なので位相イメージングによって高コントラスト画像を高時間分解で撮ることも可能になっています。
>「電子顕微鏡像は電子一個で得られるものでなく、大量の電子が資料に当たっているはずであると思います。X線レーザーによる観測でも観測資料やそれを載せている台座が焼損することさえあるようなので、電子線では尚更影響(ダメージ)は大きいと思います。」
おっしゃる通りです。ですから、電子線加工機になってしまう一歩手前の電流密度で使うことになります。
分解能の限界まで使おうとすると焦点合わせが大変な作業らしく、観測対象物で焦点合わせをすると損傷を受けるので、近くで焦点を合わせてから移動する等の工夫をしているようです。
再度の回答、ありがとうございます。
衝突する電子が高エネルギーであってもΔxは問題にならないことを漸く理解しました。しかしながら、1ヶの電子と試料が1度だけ接触しても像に成りようがありません。観察像を得るまでには多数の電子が試料の色んな所に接触する必要があるはずです。しかし、照射される電子のエネルギーが大きいと、衝突の度に試料が変形(変位)するので鮮明な像が得られないと予想できます。ところが、実際に、分子や結晶格子の鮮明な観測は数十kV以上の超高圧電子顕微鏡をもって初めて可能になりました。普通に考えれば、数十keVもの高エネルギー電子が分子のような微小物体に甚大な影響(変形)をもたらすはずです。この点が不思議なのです。
ちなみに、”超高電圧電子顕微鏡の化学への応用”という1976年の記事を見つけました。この中に0.5MV電子顕微鏡による有機分子の(”乾板またはフィルム”を用いた)観測例があります(p.4)。また、page 2には”0.5MV電子顕微鏡の方が0.3MVよりも試料の電子線損傷が小さい”との(一見不思議な)記述もあります。
<https: //www.jstage.jst.go.jp/article/kenbikyo1950/11/2/11_2_126/_pdf >
さらに、大阪大学の3MV電子顕微鏡の記事の最終pageには、”ピコ秒からナノ秒領域”パルス電子源が望まれて、その方面の開発が進められているとあって、この記事が書かれた2011年にはナノ秒領域の電子源は得られてないことが判ります。
<http: //microscopy.or.jp/archive/magazine/46_3/pdf/46-3-160.pdf >
以上のことからも、私の疑問が依然払拭されてないことを理解して頂けると思います。
(webサイトが正しく表示されなかったのでhttps:の後に半角スペースを入れてますので削って下さい)
ちなみに、Sping8横のX線レーザーSACLAは(8.4GeVに加速した電子線を用いて) 10keV程度のX線(λ≈0.07nm)を発生させるようです。
No.1
- 回答日時:
>かつて、高電圧電子顕微鏡では、電子の運動エネルギーが大きくなると例えば分子結合を破壊するようになるので、そのような微妙な資料は観測できないと言う説明があったように思います。
分子結合を破壊されても、観測に要する時間内では分解能以上には動けないからです。多くの場合、試料は真空に晒されるか樹脂に固定されるか冷凍されていますから、動く原因は熱変形や膨張です。特殊な試料として生きた細胞がありますが、断片の移動は熱運動ですが、十分強力な電流密度で短時間で観測します。
似た物に、X線レーザーによる生きたDNA構造の観測があります。そこでは非常に強力なX線パルスを試料に集束照射して、試料が飛び散る前に(動きがわかる前に)測定を終えるようにしています。
>また、ハイゼンベルクは量子現象の不確定性をガンマ線が当たると電子の位置が変わって不定になると説明したような記憶があります。
顕微鏡の分解能Δxは光学顕微鏡と同様に、波長と対物レンズが如何に多くの電子(光)を集めるかで決まります。つまり、単焦点で大口径レンズの方が高分解能が得られることはご存知かと思います。この時、電子(光)はレンズのどこを通過したかが分かれば運動量を知ることができますが、残念ながら通過点は分かりません、これが運動量の不確かさΔpを表します。これらの積がh/2πを超えることはありません。
ご質問の文中例のは、顕微鏡の分解能の説明に使うのはあまり適当ではないと思いますが、有限の相互作用時間を考えると良いのではないかと思います。
>3MVもの超高電圧電子顕微鏡が実用化されています。このような(電子の質量0.51MeVの数倍もの)高エネルギー電子が当たると原子でさえ移動して。
陽子の質量は約1GeVですから、炭素だと12GeVです。数MeVの電子が一個当たっても、直接はじき出すことは難しいです。
回答をありがとうございます。しかしながら、仰ることには十分に納得することができません。
先ず、電子顕微鏡の観測はかつては写真乾板を使ってかなり長い露出時間であったのが普通だったのではないでしょうか。X線等のレーザーによる単発の短パルス観測は、高輝度レーザー光源で始めて実用化できて、電子顕微鏡では短パルス観測は無理だと思います。X線の波長は電子線よりも桁違いに長いし、そもそも(X線)レーザーによる単発の短パルス観測は、極短時間で起きる化学変化の過程を観測することが目的なのではないでしょうか。
また、電子顕微鏡の高電圧化の利点は、厚い資料を見えるようになることもありますが、特に高解像度になる点であると聞いてます。光学顕微鏡においても、その分解能の限界が(レンズ以外に)光の波長で制限されていることは良く知られてます。例えば、顕微鏡とは逆の機能になりますが、半導体製造に用いる露光装置も高解像度化するためには、紫外線からX線を用いる必要に迫られてます。
さらに、電子顕微鏡像は電子一個で得られるものでなく、大量の電子が資料に当たっているはずであると思います。X線レーザーによる観測でも観測資料やそれを載せている台座が焼損することさえあるようなので、電子線では尚更影響(ダメージ)は大きいと思います。
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