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Cu管球(Kα線利用)だと鉄が測定できない
Mo管球(Kα線利用)だとRuが測定できない

というようなことを聞いたのですが、どういうことなのでしょうか?
聞き間違いもあるかもしれないので上の記述は正しいとは限らないので、
関係ありそうな情報でも非常に助かります。

A 回答 (1件)

この問題は、X線回折の実験向け参考書には簡単に触れて有ると思いますが、もう少し詳しく説明してみます。


これは、簡単に言ってしまえば、管球の発生X線のエネルギーがちょうど効率の良い吸収エネルギーになる元素は測定に不向きだ、ということです。
通常のX線回折装置でのX線発生は、管球のターゲット元素が出す最も強い特性X線としてKα線を利用します。
これは、ターゲット物質に高電圧をかけた電子をぶつけてエネルギーを与えることで、一度原子の中で電子を元の場所より高いエネルギーの電子軌道へたたき上げ(励起状態)、次にそれらの電子が元のエネルギーの低い電子軌道へ戻るときに余ったエネルギーをX線として放出します。
その中でも、通常最も強度が強くて波長が長い(エネルギーが低い)、L軌道からK軌道へ電子が落ちる時の発生X線(Kα線)を利用します。
ところが、逆に同じエネルギーをX線からもらえれば、電子はK軌道からL軌道へと効率よく移動出来るので、この付近のエネルギーに対する吸収が著しく高くなります。これを、その元素の吸収端と呼びます。
ただし、X線発生と吸収では、電子軌道のエネルギー差以外にも種々のエネルギーロスが生じますので、同じ元素でのKα特性X線波長はK吸収端波長より少し長く(エネルギーが低く)なっています。
X線の場合、この特性波長や吸収端は原子番号が大きくなるのに連れて短く(エネルギーが高く)なる性質が有ります。そこで、管球に使う元素からの特性X線は、少し原子番号の小さい元素の吸収端にほぼ一致してしまい、非常に大きな吸収を起こしてしまいます。
これが、Cu管球の場合だと、鉄やCo元素に当たるのです。RuはMoより逆に原子番号が大きいので吸収は大きくないと思いますよ。YやSrの吸収が大きくなるはずですが。
吸収が大きくなると何故困るかというと、
(1)まず単純にX線が試料に吸収されるので、回折ピークの強度が減少します。
(2)さらに、そのために回折結果を使って他元素を含む物質との存在比を推定するのに大きな誤差が出てしまいます。
(3)次に、X線を吸収した元素は上に説明したX線発生のメカニズムで、その元素の特性X線を発生しますが、これは管球から出るX線の波長と異なるしかも強度の低いX線ですので、ノイズとして入って来るので測定データの質(S/N比)が落ちます。
という理由で、以前は鉄系の試料にはFe管球が使われたものでした。しかし、Cuは他のターゲットに比べて非常に熱伝導が良くターゲットの水冷効率が極めて良いため、圧倒的に大きなパワーでX線を発生することが可能となります。そのために、鉄を含む試料でも(1)の強度減少はそれほど問題でなくなります。また、最近のX線回折装置では、試料の回折後に単結晶(グラファイト)を使って、管球のKαX線以外の波長による回折を落としてしまう(アナライザー)機構が付属しており、(3)のS/N比の劣化も問題になりません。定量評価をするときには(2)が多少厄介ですが、これも吸収係数を考慮したプログラムの利用でほぼ解決出来ますので、実際には鉄系やCo系試料の場合でもほとんどの場合にCu管球or回転ターゲットが使われています。
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この回答へのお礼

非常に勉強になりました!ありがとうございます(^_^)

お礼日時:2005/06/27 01:02

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