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下記の事例で,甲には,自動車運転致死罪(刑法211条2項)が成立するのでしょうか?
すなわち,自己の先行する過失行為の後にさらなる自己の行為が加わり,それにより死亡させた場合,因果関係の処理はどうすればよいのでしょうか?
考えをお聞かせください。
※なお,ここでは,相当因果関係説を採るものとします。
【事例】
甲は,未成年の実子である乙を助手席に乗せて自動車を運転していたが,厳冬期の夜中,人や車がほとんど通らない山中で事故を起こし,乙に重傷を負わせた。乙は,すぐに病院に行けば,間違いなく助かる程度の怪我であった。
しかし,甲は,乙が気絶していたのを死んだものと誤解して,事故の発覚を恐れ,乙を道路わきに降ろして逃げたため,乙は凍死した。
(業務上過失致死傷等)
第211条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
2 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
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No.2ベストアンサー
- 回答日時:
相当因果関係説のうち,通説的とされている折衷説によれば,行為当時一般人に認識・予見可能であった事情と,行為者が特に認識・予見していた事情を基礎として判断するとされています。
自動車の運転中の過失行為の時点で,運転を誤り事故を起こせば,同乗者である乙に重傷ないし死亡の結果が発生し得ることは,一般人から見て予見可能ではないでしょうか(もちろん過失の存在が前提ですが)。
また,事後的に自己の行為が介在していますが,事故の発覚を恐れて逃走するという行為は異常とまではいえず,過失行為と死亡の結果との相当因果関係を切断するほどのものではないでしょう。実際の死亡の結果に対する寄与という面でも,過失行為が大きく寄与しているのは明らかです。
そうすると,相当因果関係は肯定され,自動車運転過失致死罪が成立するように思います。
なお,保護責任者遺棄致死罪については故意が阻却されることになるでしょうか。
遅すぎた結果の発生(ウェーバーの概括的故意)とも関係しそうなので,概説書のその辺の記述も当たってみてはいかがでしょうか。
ご回答有難うございます。
「自動車の運転中の過失行為の時点で,運転を誤り事故を起こせば,同乗者である乙に重傷ないし死亡の結果が発生し得ることは,一般人から見て予見可能ではないでしょうか」
:なるほど。仮に甲による乙の遺棄を因果関係有無の判断の基礎事情に入れないとしても,死亡の結果とは因果関係があるということということですね。ただ,甲による遺棄行為を除いて考えた場合,「すぐに病院に行けば,間違いなく助かる程度の怪我」と死亡との結果に相当因果関係があるといえるかは難しい問題ですね。
「事故の発覚を恐れて逃走するという行為は異常とまではいえず,過失行為と死亡の結果との相当因果関係を切断するほどのものではないでしょう。」
:実際の事故においては,そういう事例が多いようですね。
とすれば,一般人の認識可能な事情といえ,この行為を因果関係有無の判断の基礎事情に入れるという認定は,試験答案作成においても妥当でしょうね。
「保護責任者遺棄致死罪については故意が阻却されることになるでしょうか。遅すぎた結果の発生(ウェーバーの概括的故意)とも関係しそう」
:この点は,なんとも難しい点ですね。
私は,本件においては(※といっても私が自分で考えた事案ですが),甲は,死体遺棄罪(刑法190条)の故意で保護責任者遺棄の行為を行っているにすぎず,保護責任者遺棄罪(同218条)の故意は成立せず(同38条2項),また,保護法益及び行為態様において両罪に重なり合いは認められないので,故意犯は成立しないと考えました。
No.3
- 回答日時:
私は,自動車運転致死罪は成立しないと思います。
本件では,甲が乙を道路脇に放置した行為は,事故の時点で甲も,一般人も知り得なかった事情であり,車外への放置という甲の行為がなく,通常通り乙を病院に連れていっていれば,乙は助かっていたのですから,甲が起こした事故と乙の死亡との間には,相当因果関係がありません。
この問題のメインは,因果関係ではなく,錯誤の問題だと思います.
以下は,質問とは直接関係ありませんが,こんな考え方もあるかなということで。
============================================
まず,自動車の運転中に過失によって人を傷害しているので,自動車運転致傷罪(211条2項)が成立します.
親である甲には,未成年の乙を保護する法的責任が明確に認められますし,事故を起こした者として,先行行為に基づく保護義務もありそうです.
そして,車から乙を出して人や車がほとんど通らない山中に放置した行為は,遺棄にあたります.
すると,乙を山中に放置して死に至らしめた,甲の行為は,客観的には保護責任者遺棄致死罪(219条)の構成要件に該当します.
もっとも,甲は,乙が死んでいると錯誤して遺棄しているので,主観的には,死体遺棄罪(190条)の故意しかありません。これは,抽象的事実の錯誤になります。
この場合,法定符合説からは,両罪の構成要件の実質的な重なり合う範囲内で,故意犯の成立が肯定されます。保護責任者遺棄致死罪と死体遺棄罪の構成要件については,保護法益も客体(生きている「人」と「死体」)も異なり,重なり合わないので,どちらの罪も成立しません。
もっとも,上記2罪が認められないとしても,生きている乙を死んでいると誤認して山中に放置して死亡させた点について,重過失致死罪(211条1項後段)が認められます(本来,死んでいると思ったとしても,病院には運ぶべきとも言えます)。
よって,甲には,自動車運転致傷罪と重過失致死罪が成立し,この2罪の関係は併合罪になります。
ご回答有難うございます。
なるほど。後行行為について,先行行為の因果の流れには含めず,別個の行為として検討されたのですね。
このような認定もありうると思います。ただ,自動車運転致死罪を認める場合に比べ,法定刑の面で重くなるという違いが生じますね。
ただ,私がよく分からないのは,後行行為は,先行行為後の介在事情であるところ,被害者や第三者の行為ではなく犯人の行為が加わったという「特殊な」事例なので,一般人に予見不可能とは言えるとしても,介在行為を行った行為者にとって予見不可能と言っていいのかという点でした。
行為後の介在事情がある場合について相当因果関係説をとらず,前田説(ア:先行行行為の結果への寄与度,イ:介在事情の特殊性,ウ:介在事情の結果への寄与度,の三点について総合的に斟酌)によって判断するとしても,結局同じ疑問にぶつかります。(たとえば,アについては,先行行為は死亡自体の決定的要因とはいえず,ウについては寄与度が決定的に大きいことははっきりしているが,イについて,行為者が事故後に被害者を放置することが一般的と言えるかは難しいですね。)
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