
法律の勉強をしているのですが、
法律用語での「対抗」という意味がいまいち正確につかみきれません。
例えば、今勉強しているところでは、
商法の商業登記の効力の項のなかで
テキストに
「登記すべき事項は、登記の後でなければ善意の第三者に対抗できません(9条1項前段)。」
と書いてあります。
これは実際例としてはどういう状況の時に当てはまるのでしょうか?
「対抗」という意味が把握できていないので文を正確に理解することができません。
第三者というのは、自分と商取引をする相手方以外の人なのでしょうか?
そうなると取引をする相手方に対しては対抗できるということなのでしょうか?
どなたか教えてくださいませ。
No.3ベストアンサー
- 回答日時:
一言で言えば、主張するということですが、それが法律的にも認められるということでもあります。
法律関係(またはその法律関係の基礎となる事実)の主張をする場合、その法律関係に異論がある人がいなければ当然何も問題になりません。しかし、もし誰かが異を唱えたらどうなるでしょう?それに対して「いや、かくかくしかじかだ」という(法律的な)主張をするわけです。その時にその主張が法律的にも正当なものとして認められうるということが「対抗する」の意義です。つまり、誰かの異論をまって初めて問題になる主張なのでその意味で「反論」であるわけですが、単なる反論とは違って、「法律的に正当な反論となる主張」ということです。
そこで、商業登記の話を見てみましょう。
「登記すべき事項は、登記の後でなければ善意の第三者に対抗できない」とはどういう意味か。まず商業登記法の話と捉えているようですが、この規定自体は商業登記法の規定ではなく、商法の規定です。つまり、商業登記の問題と言うよりは、商法という実体法(簡単に言えば、一定の法律関係、特に私法では権利義務関係を直接に定める法律のことだと思ってください)上の要件論(要件とは、法律上一定の効果を認めるために必要な前提となる条件のことだと思ってください。効果とは、法律上認められる一定の結果程度に思ってください)なのです。
そして、商法9条1項前段が述べているのは、「登記することになっている事項を登記しないうちは、その事実を知らない人には主張できませんよ」という意味です。
本来、法律関係あるいはそれを構成する事実というのは、それが実体に即している限り、誰に対しても主張することができるはずです。なぜなら本当なのですから。でも、そんなことは知らないという人がいた場合に、その人が不利益を被ることになることも考えられます。とすると、その両者の利害を調整する必要があります。そこで、事実を知らないということに対して一定の保護を与える必要があるわけです。言い換えれば、本来当然できるはずの事実の主張を制限することが起りえます。それが、登記の消極的公示力と呼ばれる商法9条1項前段の規定です。
そこで「第三者」なのですけど、これは言葉にあまり拘らない方がよいです。「第三者」という表現は、「当事者以外」という意味なのですが、登記における当事者というのは、登記する人、登記される人だと思っていれば十分なので、それ以外の人、つまり、ほとんどの人は「第三者」なのです。商業登記では、登記する人、登記される人というのは、例えば商人が登記する人でその使用人である支配人などは登記される人ですが、商号などは登記する人(法人かも知れないし個人商人かもしれません。なお、商法9条は会社には適用がありませんから、商法9条に関する限り、法人は考える必要はありません)しかいません(この辺の話は不動産登記でも同じで、例えば売買による所有権移転登記ならば登記義務者と登記権利者がいますが、相続などでは、被相続人は死んでいるので登記権利者しかいません)。なお、登記官は単なる登記事務を司る公務員に過ぎないので、当事者ではありません。
この登記する人登記される人以外は全部「第三者」だと思ってください。よって、取引の相手方は、その取引においては当事者であるが「登記との関係では第三者」ということになります。
なお、主張する側は、登記の当事者だけです。ですから、登記の当事者から第三者に対しての主張が制限されるだけで、第三者相互間で主張する、第三者から登記の当事者に主張する等の場合は、商法9条1項前段は適用されません。
以上まとめますと、
「対抗」とは、異なる主張に対して法律上正当な反論として主張することができるという程度の意味である。
「第三者」とは、登記に関係する人以外、つまりは、登記する人される人以外という程度の意味である(なお、「善意」は知らないという意味ですが、商法9条に関しては、文字通り「善意」で足り、重過失があっても構わないというのがおそらく通説でしょう)。
商法9条1項前段は、商法の規定により登記すべき事項を登記しなかった場合には、その登記に関係する人以外でその内容を知らない人が異を唱えた場合には、「登記の当事者」は、その事項について知らない人に対して主張することができないと定めている。
これは、本来ならば事実であれば誰に対しても主張できるはずなのに、それを主張できないことにするという登記の消極的公示力を定めた規定である。
ということです。
回答ありがとうございます。
非常に分かり易い文章で、丁寧に説明していただき、もの凄くためになりました。ありがとうございました。
文中、まだ今の私の法律についての知識では分からないところ少しありますが、
質問した要点のところはほとんど把握できました。
説明を受ける人の身になって分かり易く説明して頂いているのが理解でき、
文体や文の構成も素晴らしいので、非常に分かり易かったです。
ですから、おそらくlowlawrawrowさんはただ単に学問が優秀な方ではなく、相手の立場にたって客観的に分かり易く説明できるということから、真に頭が良い人だと思います。
大学の教授でも本当にそういう能力を持つ人は少ないです。
自分が当然に分かっていることをただ単に一方的に説明する人ばかりで、教える師となり得ない人が多いのですが、lowlawrawrowさんのような方は本当の教える師となりえる方だと思います。
また法律を勉強していくなかでlowlawrawrowさんの回答を時折読み返していきたいと思います。
その都度より深く理解できるようになり勉強も楽しくなりそうです。
このたびは本当に有難うございました。
No.4
- 回答日時:
字数制限内で書ききれなかったので続きです。
参考に付け加えると、9条1項前段を逆に見れば、登記してしまえば知らない人にも主張できるということになります。これを登記の積極的公示力と言います(なお、例外は9条1項後段の「正当な事由によって……知らなかった」場合です。この「正当な事由」というのは、登記を知ることができない客観的(誰であっても当てはまる程度の意味だと思ってください)事情、例えば登記簿が滅失したとか災害で交通機関が途絶したなどであって、主観的(特定のその人に特有なという程度の意味だと思ってください)事情、例えば病気で登記簿閲覧ができなかったなどは、「正当な事由」に当たらないというのがおそらく通説でしょう。
No.1
- 回答日時:
対抗することができない
既に成立した権利関係を他人に対して主張しえないこと。
主として、当事者間において効力を生じた権利関係を第三者に主張しえない場合に用いられる
新法律学辞典
有斐閣
S38年3月発行より
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