毎週、日曜に放送されているNHK-FMの「現代の音楽」を聞いているのですが、現代作曲家と呼ばれる人の多くは曲のタイトルにやたらこだわりを持っていたり、背景説明に言葉を費やしたりします。本来曲で表現すべきことを、シニフィアンで説明してしまうという愚を犯していると思います。
以前、ポーランドの作曲家ヘンリク・グレツキの「交響曲第三番」を聞くときに、アウシュビッツがどうとか、収容所がなんたらという雑音で刷り込まれてしまい、最早曲そのものを鑑賞できなくなってしまいました。
日本でも佐村河内氏の曲とされる交響曲が、曲そのものよりも背景にあるストーリー(耳が聞こえないとか)に支配されてしまい、曲はそのこと(ストーリー)を想い出す単なる「トリガー」になって、YouTubeで観てもオバサンが涙を流していました、まさか、曲の良さで泣いていたわけではないでしょう。
ここで本題に入るのですが、21世紀という時代に生きていて、尚且つクラシック音楽の最先端に生きていながら、いまだに曲の意味を作曲家自身が決めるのだというのは、表現者として自信の無さの顕われでしょうか?言葉で説明しないとわかってもらえないとでも思っているのか?
文芸の世界では、「作者は表現したいことの意味を主張することが出来ない」「作者の意図は作者自身でさえ決定不可能であって、文学テキストに唯一の目的、唯一の意味、または唯一の存在があるという考えは拒絶される」
(Wikipedia 「ポスト構造主義>文芸評論」より)
ということで、グレツキ以外にも、ペンデレツキの「広島なんたら」もそれが無ければトーンクラスターという技法を使った素晴らしい曲なのに、原爆を想い起こすための「きっかけ」に成り下がってしまいました。
作曲家が意味を決めることは、表現者として正当な行為だと思いますか?
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
お国柄もあると思いますよ。
音楽に限らず、日本人は、芸術に「背景」「意義」「社会的評価」が無いと不安なようです。何かの作品を、自分で評価・判断するクセが付いていないです。それでも大衆的な表現や娯楽作品等であればある程度は「好きか嫌いか、どう思うか」を自分で判断するようですが、特に「聴き手(受け手)を選ぶ」ものであればその傾向は強いです。簡単に言うととどのつまり、「わかっていない」んです。作品だけじゃ自分で判断出来ないから、「作品」以外のもの・・・聴くと胎教にいいだとか、超絶技巧だとか、ハンデを負った人が頑張ってやったとか、完成直後に作者が気が狂ったとか、お偉いナントカさんが評価したとか、作者が作品の意味はこうだと語ったとか、を求めるんです。
で、そういう人に限って、「芸術は全て作者の意思の配下にある」と思い込んでいて、宮沢賢治の全く難解な詩がまさか「本人もよくわかっていないけど、ただなんとなくそうなった」だなんて思いもしていないようです。
そんな大衆の中にいれば、それゃ「語りたがり・断定したがり」の作家ばかりがテレビや雑誌で有難がられて露出が増えるのも必然かもしれませんよ。そうでない(作家らしい)作家は単にそういう場に取り上げられにくいだけかもしれません。
あともう1つ。「受け手が判断する余地を作る」ことが当たり前に重んじられるようになったのは割と近代以降の芸術の潮流だと思います。クラシック音楽というもの自体がそもそも古典・ロマンの時代のファン中心に進んでいるので、古い時代の芸術の嗜み方(「意図」「背景」といった理屈を求める)を現代にも引きずっているというのもあるかもしれません。で、そういうファンの受けがいい現代音楽の作家も結局そういうタイプなのだと思います。
No.3
- 回答日時:
意味込めて作曲した方が、いい感じに出来るのでしたら、いいと思いますよ。
オペラなんかも、ストーリーに沿った音楽づくりをしていますけれど、聴く側は、そう言った作曲家の意図を汲む必要は、無いと思います。私は、一切そう言ったプログラム的なものは無視して聴いて、十二分に楽しめてます。作曲家が、何かの強い思いを曲に込める事により、音楽が素晴らしくなり易いのでしょう。素晴らしく出来てしまった音楽を、唯、何にも考えずに聴いたって、良いんですよ。この頃痛切に感じるのは、20世紀の音楽って、本当に素晴らしいという事です。過去の如何なる世紀の音楽よりも、充実した層の厚い作品群だと思えて来ました。 作曲家が、意味を込める事は、正当な事です。そして、その言葉を音楽を通して感じ取る必要は無いということです。No.2
- 回答日時:
観念的なお題ですが、日本人に限らず、音楽や絵画や小説や詩が「何を表わしているのか」「作者は何を言いたいのか・何を伝えたいのか」「作者の意図は」ということを理解しないと、きちんと鑑賞したことにならない、逆にいうと、それが分かれば「ちゃんと鑑賞できた気持ちになる」というのが人の常のようです。
以下、議論は「音楽」に絞ります。
フランス革命以前の、芸術のパトロンであった王侯貴族は、一応の「鑑識眼」は持っていたと思います。ほとんど現在のポピュラー音楽並の「好き嫌い、嗜好」のようなレベルのものだったと思いますが。
それが、フランス革命、産業革命以降の市民階級の台頭により、19世紀以降は市民階級が芸術観賞の中心になります(ハイドンの最晩年時代のロンドンの興行主ザロモンの活躍や、メンデルスゾーンの活動したライプツィヒのゲヴァントハウスが「織物倉庫」だったことなどに代表されるように)。そして、もともと王侯貴族のような鑑識眼すら持たない市民階級のために、「評論家」という「善し悪しの判断」「鑑賞のためのガイド」などの「鑑識眼の代行」を生業とする職業が生まれます。
もともとの王侯貴族も、さほどの「鑑識眼」など持っていなかったはずなのに、この職業「批評家」は、「鑑識眼」として哲学的・文学的に高尚なことを述べ、大所高所から作者の意図や作品に内在する意味などを語るので、一般市民の音楽愛好家は、それを頼りに音楽を受容するようになったのでしょう。逆に、教養主義的に、そういった「高尚な鑑識眼=音楽界の権威」の「お説」を知らないと、その音楽を理解したことにはならないと思い込むようになったのでしょう。
19世紀の作曲家自身は、こういった批評家を煙たく思っていて、作品の中で批評家をからかったり敵視したりしていますね。(ワーグナー「マイスタージンガー」のベックメッサーとか、R.シュトラウスの「英雄の生涯」の「英雄の敵」とか。こういう逸話もある意味「お説」の受け売り)
ショスタコーヴィチなどは、それを逆手にとって、うまいこと「言葉」で窮地を逃れたようです。
ポピュラー音楽の分野では、幸い「権威」などというものは必要ないし、「王侯貴族の鑑識眼」などという妄想もなかったので、普通に一般人の価値基準で受け入れられてきたのでしょう。でも、最近ではそれも怪しくて、自分の鑑識眼を持たずに「ランキング」とか「ネットでの話題性」のようなものに依存する傾向も強いようですが。
クラシック音楽では、結局その「鑑識眼の代行」が現在まで続いていて、権威・専門家の「ガイド」に依存する「音楽鑑賞のお作法」が定着しているのではないでしょうか。「曲」だけでなく「演奏」についてもそうで、特に日本ではその傾向が強いようです。(「権威付け」としての「コンクール」がその典型でしょう)
「現代音楽」にしても、結局「売れてなんぼ」の世界ですから、作曲家自身もそういった「権威」を頼り、聴衆もタイトルや「権威」のガイドを通して受容する、という構図は変わっていないのではないでしょうか。ましてや、音楽産業(演奏家、コンサート企画、CDやDVD販売会社)はビジネス最優先ですから、そういう「話題性」「分かりやすいキャッチコピー」に飛びついて売ろうとするのでしょう。
それを「芸術としてあるまじきこと」などと言いますか?
お題の「現代作曲家は曲の意味を決める主体になり得るか?」ですが、そもそも「曲の意味」など存在しないと考えれば、意味のない議論でしょう。
その「曲の意味」というものが、「代行された鑑識眼」のフィルタを通して音楽を受容する形態そのもののことだとすれば、ある意味で「意味」を付与することが成功への近道なので(作曲家、演奏家、音楽ビジネス共通で)、みんなで寄ってたかって付けようとするのでしょうね(ある意味で「やらせ」「創作」も含めて)。その「意味」が広く独り歩きして受け入れられれば、売れますから。
それに載せられるか、自分自身の鑑識眼で受容/拒絶を判断できるかが、受容する側の能力なのだと思います。
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