前回下記質問をしました
Q 違法行為時点で心神耗弱、その他正常ではない(なかった)場合、罪に問えない。この歴史は何時から?
回答をいただいたのですが、その回答は「罪刑法定主義は何時から始まったか?」という回答でした。
(まあ、私の質問文の書き方が悪かったのでしょうが)
そこで再質問します。
現在の日本の刑法では以下のようになっています。
「(心神喪失及び心神耗弱)
第39条
心神喪失者の行為は、罰しない。
心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」
これはこの刑法が施行されたときからこのようになっているわけですが、
江戸時代にも同様の規定、例があったようです。赤穂事件では刃傷に及んだ浅野内匠頭を取調べしたものが
「乱心ならお咎めはない。乱心でござろう?」
と説得するシーンが出てきます。(まあ、それが当時の何の規定や法律で決められていたのかは知りませんが)
このように、「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」というのは現代日本、近代日本よりも以前から存在したようです。
では「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」、あるいはそれに類似する法が定められたのは何時が期限でしょうか?
(なお「罪刑法定主義はいつからですか?」 という問いではありません)
また、他国において「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」、あるいはそれに類似する法が定められたのは何時が期限でしょうか?
(こちらの問いも、「罪刑法定主義はいつからですか?」 という問いではありません)
詳しい方、お願いします。
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
それは、何と大宝律令(701年)に規定があるそうです。
日本で初めての体系的な法律で、奈良時代の前の飛鳥時代ですね。ただし、大宝律令は中国の唐の律令のまねでした。
精神障害と犯罪 ─ 司法精神医療の現場から
田口寿子(講演当時、国立精神・神経医療センター病院の精神科医。専門は司法精神医学。東大医学部卒)
(専修大学学術機関リポジトリhttps://senshu-u.repo.nii.ac.jpで検索してください)
〔引用開始。92ページ〕
それでも,精神障害者には健常者と同じような刑事責任を問うことはできない,問うてはいけないと考える司法精神医学者,あるいは刑法学者たちは,精神病者や知的障害者の社会的制裁に制限を加えるという「例外規定」が,近代刑法が制定される以前の古くからずっと,海外にもわが国にも存在していたことを指摘しています〔中略〕
ヨーロッパでは,古代ギリシャのプラトン『法律』,ヒポクラテス『集典』で精神疾患者への社会的制裁の制限について言及され,古代ローマの『ユスティニアヌス法典』では責任無能力の条件として「痴呆,狂気,愚鈍,幼児」が列挙されています。近代になってから,フランスでは『ナポレオン刑法典』(1810年),イギリスでは「マクノートン・ルール」(1843年),ドイツでは『帝国刑法典』(1871年)で,法的に責任無能力制度が整備されました。
わが国でも,701年の『大宝律令』,718年の『養老律令』が,漢・唐の「律」の思想をそのまま受け入れて,年少者,高齢者,身体障害者の他,「癡」(重度知的障害),「癲狂」(てんかんと精神病)に対する例外規定をも細かく定めています。時代を下って,1742年,江戸時代の『公事方御定書百箇条』にも「乱心者」と15歳未満の者の刑の減軽が定められています。
〔引用終り〕
プラトンの弟子のアリストテレスの有名な『ニコマコス倫理学』でも、(プラトンの影響を受けて)意志と、行為の責任との関係が論じられているそうです。
しかしながら、大宝律令の当該の規定が実際にどの程度適用されたかは、あまり明らかになってないかもしれません。法令というのは、条文だけでなく実際の運用まで調べるものですね。田口氏の講演も、「現場から」と題して現在の実際の運用を詳しく論じています。
ご質問の赤穂事件のエピソードはともかくとして、ヨーロッパの中世末期・近代初期のころでも、まだ残虐な刑事司法・行刑が横行していたことが知られています。日本国憲法でも第36条に「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。」とあります。一部の悪質な司法官憲は、いわゆる知恵遅れの人を拷問してウソの自白をさせて、難事件の解決をでっち上げることがあったらしいんですよ。知恵遅れなら心神耗弱で罪一等を減じられるし、措置入院で精神病院送りにすればいいと思ったのか。しかし冤罪ではないか。
やはり、「刑事責任能力」(心神喪失者は無罪)が常識となったのは、端的に言って近代人権思想・近代刑法のおかげではないでしょうか。実際の運用では条文が適用されず反動もあったりした後、徐々に守られるようになったが、今なお不十分なのかも知れません。
ご回答ありがとうございます。
子供や高齢老人に刑事責任を負わせないのは理解できますが
それと同じぐらい、大昔から法律で規定されていたのですね。
ということは、大昔から人間は
「心神喪失者、心神耗弱者は保護すべき対象」
として見ていたのですね。
勉強になりました。
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