
No.3ベストアンサー
- 回答日時:
「回路として保存」について説明しましょう。
脳は神経細胞のネットワーク(回路網)で出来ていて、神経細胞は別の神経細胞に信号を伝達します(このことを活動とか興奮とか発火と呼ぶ)。そのとき、信号の受け手側に伝わった信号がある強さを超えると、受け手側の細胞はさらにその次の細胞に信号を送ります。まあここまでを前提としましょう、
ここにA←Bという神経回路があるとあるとしましょう。
Bの細胞を一定上の強さで活動させてやると、Aの細胞も活動しだします。で、ある研究者が、Bの細胞をかなり強くズガガガと活動させてみたのです。当然Aも強く活動します。その後、Bを通常の強さで活動させてみました。するとAが以前よりも鋭敏に活動するようになりました。さらに、以前ならAが活動しなかった程度の強さでBを活動させてみました。それでもAは活動します。つまり、Bの活動に対してAが鋭敏に反応するようになったのです。そしてその効果は数時間以上、細胞さえ生きていればかなりの長時間持続したのです。この現象を「長期増強」と呼びます。
これは、長期的な記憶のもとではないかと考えられました。例えば掛け算九九を何度も繰り返しやっていれば、すなわち強い入力が何度も与えられることで、神経回路が広く鋭敏に反応しやすくなると言う、記憶現象の説明になるのではないかと考えられました。
さらに、次のような実験が行われました。
A←B
↑
C
以上のような、Aに2つの細胞が入力しているような神経回路で、BとCから同時に同程度の入力があった場合、Aは単独の場合の2倍の信号を受け取ることになります。実験してみると、前述したような長期増強が起きやすいということがわかりました。これは連合記憶の元になっていると考えられました。連合記憶というのは、例えばいわゆる「パブロフの犬」のように、ベルの音と餌を同時に提示すると、両者の間に連合が生じ、両者の関係が記憶されるというものです。
この現象が発見された当時、パブロフの犬式の連合記憶の研究が大流行していて、ちょうどそこに連合記憶を説明するような神経回路メカニズムが存在するという研究が現れました。このとき、人間の記憶や学習は、全てこの回路で説明できるのではないかという期待感が満ちあふれました。そして神経回路による記憶のメカニズムの“推定モデル”がたくさん作られ、さも常識のように語られました。
そのモデルの一つがCell Assemblyと呼ばれるものです。ちょうどその頃、トランジスタやICの発明によってコンピュータが劇的な進化を遂げ、このモデルをコンピュータ上でシミュレートしてみようという、AI研究が盛んに行われました。あと10年で人間の子供程度の知能を持つコンピュータが出来るだろうと言われました。
結果は惨憺たるものでした。
1970年代は心理学、特に脳科学の黄金時代でした。この時代に多くの画期的な発見がなされました。脳を情報回路として捉える基礎もできました。私たちはいまでもその成果を継承しています。脳は神経細胞のネットワーク回路で出来ていて、長期増強という現象が記憶に深く関わっていることもほぼ確実視されています。しかし、それだけですべてを説明できるほど私たちの脳は単純ではありませんでした。分かったことは多かった。しかしそれだけでは私たちの記憶を説明するにはあまりにも足りないことも同時に分かったのです。
#2氏の書いていることは半分くらい事実です。ドパミンなどオピオイド(脳内麻薬とも)総称される物質は感情に関与し、また長期増強にも関与します。記憶については大脳辺縁系や間脳、特に海馬と呼ばれる部分が深くカニョしていることが知られます。脳卒中などでこの部分が限局して障害を受けると、新しくものを覚えるのが困難になる「病気」を生ずるからです。
また長期増強も回路の変化して記述されますし、それは2つの神経細胞の接続部位であるシナプス、および受け手側細胞でシナプスがある場所である樹状突起の変化だと見られています。
ただ、脳のどの部位が記憶を担当しているかだとか、そのメカニズムについての説明は、半分以上「昔誰かが言った予想」とその拡大解釈なので、いろいろ補足説明が必要です(それがこの回答ですが)。
まあ、日本の地上波番組で一番まともと思われるNHKスペシャル「人体II 脳と心」でも#2氏のような「推測的モデル」をさも事実かのように垂れ流していたので、仕方ないかもしれません。いままでちゃんとした情報発信をしていなかった我々研究者の責任です。インターネットによってそのような場が提供され、触発される人が出てくるというのは良いことだと思います。
ちなみに長期増強時のシナプスの変化にはタンパク質が関わっているので、記憶にタンパク質が関わっているのはほぼ確実ですが、ただし記憶をコードするようなタンパクがあり、それを他人に移植すると記憶が移転するなどと行ったことはほとんど否定されている状況と言えます。ご質問にある記憶喪失の状況を鑑みればわかるでしょう。神経回路の一部が断線すると信号の伝達が困難になるので記憶喪失になるという考えが主流です。
以上、記憶のメカニズムについてわかっていること、そして何もわかっていないと言う事実についての説明です。長文申し訳ない。
この回答へのお礼
お礼日時:2005/07/30 00:00
返事遅くなって申し訳ありません!すごい丁寧な解説ありがとうございます。まだ詳しくは読んでないのですが、今から読ませていただきます。
No.2
- 回答日時:
大脳の一番外側、皮質が認識、思考という高度な処理機能を持つのに対し、記憶は大脳辺縁系とよばれる、大脳のもっとも深い位置にある、原始的とも言える部分が担当します。
そのなかで海馬と呼ばれる部分が短期記憶の中から長期的に記憶すべきものを選び出し、記憶を司る中枢、側頭葉と連携して記憶を管理し、また必要に応じ取り出す働きをすると考えられています。いわゆる記憶喪失は、データの欠損ではなく、記憶の再生の障害です。で、記憶はどのような形で残されているかですが、脳神経細胞の樹状突起、シノプスの連結として、つまり、回路として保存されています。でも、その情報を取り出す大脳辺縁系は人間の基本的な情動を支配する視床下部などの影響を受けやすいのです。いわゆるトラウマはこういった関係の中で精神に影響を及ぼします。また、脳内物質セロトニンやエンドルフィンなどが情報伝達に大きな働きを持っていることが判ってきています。これらの物質はシノプス伝える情報を修飾する(その情報は快適なものか、不快なものか、といったような)と考えられています。そして、この修飾が記憶に影響を与えることが知られています(快・不快に結びついた記憶は残りやすい)。この回答への補足
すごく分かりやすい説明ありがとうございます。確かに僕の中にあるのも比較的、快or不快に分類しやすい記憶ですね。で、一つ聞きたいのですが、「回路として保存」っていうとこの意味がいまいち判然としません。回路として保存されるって言うのはどういう意味なのでしょうか?
補足日時:2005/07/05 01:52No.1
- 回答日時:
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