No.2ベストアンサー
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ギリシア神話というより、神話からうかがえる、古代ギリシア人の死生観ということになります。この場合、ローマ時代に造られた「ギリシア神話」は別のものと一応考えねばなりません。例えば、「愛と心(エロースとプシュケー)の物語」で知られる、かなり有名な話は、こういう形の完全な話は、オウィディウス・ナッソ(ローマ時代の詩人)の『転身譚』に出てくるものです。また、ローマ時代に、古代ギリシア神話を書き換えました。(近代になって、近代人がまたギリシア神話紹介と称して書き換えました)。
従って、ギリシア神話というと、ホメーロスやヘーシオドスの著作、またアポロドーロスの『ビブリオテーケー』や、ギリシア悲劇などに出てくる話を前提にしなければならなくなります。
あまり、これはという特徴を述べにくいのですが、まず、死後の世界については、古代ギリシア人は、それはあると考えていました。この「死後の世界」は、「冥府」と呼ばれるもので、「冥府」は、オリエントの古代の人々一般に、同じようなイメージと意味の「死後の世界」が考えられていて、古代ギリシア人の死後の世界も共通のものです。
「冥府」のイメージとしては、昔は、遺体が野ざらしになって腐敗し、骨が散らばり、土や塵が周囲にある、不毛の土地がありました。「死体遺棄場」のようなものがあり、埋葬や火葬に手間がかかる場合は、奴隷などの遺骸は、こういう場所にそのまま放棄したのです。大体、人が近寄らず、不毛な土地で(不毛でない土地は、有効利用します)、夕方や日が暮れた後では、暗がりのなかに、骨が砂や塵にまみれて転がっていたり、全体に、死んでいる、何の意味もないような恐ろしい風景が見えるというような場所です。こういう場所のイメージが、「冥府」のイメージに重なります。
「冥府」は普通、地の底にあると考えられたので、当然そこは暗く、光が射さず、地面の下ですから、土や塵が一杯あり(これは埋葬した遺体でも、たまたま掘り出されたのを見ると、塵まみれの無惨な姿になっているのが普通なので、そこからイメージが来ます)、何の楽しみも、何の変化もなく、死者儀礼として、食物などを、地上の生きている人々が捧げてくれる場合は、それが幾分空腹を満たすでしょうが、大体、どれだけ有名な人でも、忘れられて行くので、結局、空腹で、ただ空しく、死者は、実体がもはやないので、影となって、永遠に彷徨っているという世界です。
古代オリエント世界の「冥府」のイメージがこのようなもので、古代ギリシア人も、同じような冥府の死後の世界を考えていました。ホメーロスの『オデュッセイアー』のなかに、オデュッセウスが、冥府を生きたまま訪問するエピソードがあるのですが、冥府では、犠牲のために捧げられた血のまわりに、死者の霊が、蠅のように群れ集まって血をすすり(つまり、「生気」を取り入れようとするのです)、霊はすべて影のようで、地下世界は埃だらけで暗く空しく、トロイア戦争で、勲を上げ、生者たちの世界では高名で、オデュッセウスも友人であった英雄アキルレウスの霊が出てきて、オデュッセウスに、「勲を上げ英雄となって、冥府で影のような日々を送るよりも、地上で、誰にも知られぬ、平凡な農夫として陋屋に暮らす方が、限りなく望ましい」と嘆きの言葉を語ります。
死して冥府で影のような日々を送るより、生きて、名もなき農夫の人生を生きる方が幸いだ……アキルレウスはこう語ります。ヘクトールを倒した、トロイア戦争最大の英雄が、こう嘆くのです。
ホメーロスのなかには、季節が変われば、緑の木々の葉も色あせ枯れ葉となり、やがて地上に落ちて消える。すべて世は空しい、などという慨嘆も出てきます。オリエント・ペシミズムに通じるのです。
生きているあいだはどうであったかというと、オリエント世界でも、平和的な農耕文化世界と、戦争と征服や力を背景としての略奪・交易などを中心とした文化の世界では、当然、どう生きるかの価値観が変わって来ます。平和的な農耕文化では、生きているあいだは、穀物の収穫や家畜の豊かさに恵まれ、飢えることなく、健康で、多くの子孫にめぐまれ、長寿であることが理想でした。それに対し、戦士文化の社会では、戦いにあって勇敢であること、国家や集団のため、自分を犠牲にしても、大きな勲(いさおし=戦功)を立てることが理想とされます。戦闘に強く、力があり、智慧もあり、何より「勇敢」であることが理想とされます。
男女の地位では、平和的な農耕文化では、男女同権というか、宗教的には、女性が尊敬され、現実社会では、男性が統治などを行うが、男女はほぼ平等であるような社会になります。女性でも、働き次第で、社会に認められた社会です。他方、戦士社会では、女性は、女神などもいますが、現実の女性は、戦利品であったり、交換用の商品であったり、子どもを生むための道具であったり、「くだらない生産活動」に従事させる奴隷と同じようなもので、戦士となる男に較べると、権利が弱く、社会的にも認知が低いとも言えます。
古代ギリシアは、「戦士社会」であったので、女性の地位は低く、女性が、自分の力量で社会的に認められるということは珍しかったとも言えます。妻は家に閉じこめられていて、夫は外に出て浮気などをするが、妻には貞節が求められてなどと、男と女で、非対称になります。
「生き甲斐」や「生きる意味」は、男は、戦士として勇敢であり、身体や精神を鍛え、国家のために尽くすことが理想でした。国家のために、戦場で戦功を立てて死ぬことが、最高の栄誉でもあったのです。平和に生活して、財産を築き、多くの子孫を持って長寿であるということは必ずしも理想ではなかったのです。家をたやさないため、子孫を持つことは、男の市民の義務でしたが、「多くの子孫」は、できれば望ましいでしょうが、それ以上に、若くても、戦場で国家のために死ぬことの方に意味がありました。ただし、死んでからどうなるのかは、オリュンポスの神々が、天で祝福してくれるという話もある他方、戦士社会は「現実主義」の社会ですから、見たこともない、天国などないということになり、先の「冥府」の考えになります。
素晴らしい、戦士としての勇敢な死を迎えることが、理想なのですが、死んだ後は、暗く空しい冥府が待っているが、仕方ないという「諦め」の心でした。
古代エジプトなどは、冥府のイメージもありましたが、神に忠実で、この世で、「正義」を守り、正しく生きた人は、死後に「審判」が行われ、「正しい人」であると判定されれば、死後の楽園で、楽しく生きるというようなことが信じられていました。審判で正しくないと判定されると、魂は獣に喰われ、無となり消えます。
古代ユダヤ人も、神ヤハウェを信仰していましたが、死後の生は、基本的にオリエントの冥府で、「天国」などはありませんでした。上の農耕文化の死生観に近く、神の恵みは、「生きているあいだのもの」となります。
古代ローマ人(共和制ローマ頃乃至それ以前)は、戦士社会で、勇敢さや質実剛健、個人的快楽よりも共通の利益への奉仕などが価値あるものとされ、戦って戦功を立てて死ぬことが、なにより素晴らしいことだと考えられていましたが、古代ローマ人は、非常に現実主義、実用主義で、あまり想像力がなかったようで、死後の世界など、考えていなかったということのようです。
古代ケルト人か古代ゲルマン人か、どちらかか、両方ともか、死後の世界は、この現実世界と同じようなもので、死ぬことは、もう一つの世界に行くことだと考えていた文化もあります。その場合、死後に返すからというので、そういう条件の借金状を造って、貸し借りができたとされます。
詳しいご説明、どうもありがとうございます!!
とてもわかりやすかったので、自分なりに、ですが、かなり具体的なイメージがつかめたようです。
本当にありがとうございました!!
No.1
- 回答日時:
>神話や宗教(民族というべきでしょうか?)によって「死生観の違い」はあるものですか?
答はイエスでもありノーでもあると思います。
宗教や神話というのは、逆に死生観が反映されて出来上がったというのが妥当ではないかと思います。
ギリシャ神話の死生観というのは、ヨーロッパのキリスト教の死生観に非常に影響を与えています。
冥府の神がいて、番犬ケルベロスがいる。三途の川のようなレトの河があって、その水を飲むと生前の記憶をなくしてしまう。
だいたい僕の知識ではこんなイメージですね。
あとは、参考になりそうなのは、「オルフェウスとエウリデュケ(オルフェオとエウリディーチェ、ギリシャ版の「イザナギとイザナミ」)」とか、ダンテの神曲あたりではないでしょうか。
〉宗教や神話というのは、逆に死生観が反映されて出来上がった…(以下略)
確かによく考えてみればその通りですね。
オルフェオとエウリディーチェというのは、確かグルックのオペラでしたね。
オペラは専門外だけど、ストーリーをちゃんと調べてみようかな。
どうもありがとうございました!!
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