No.12ベストアンサー
- 回答日時:
#2&8&11です。
○債務不履行を原因とする損害賠償の範囲について
損害賠償の範囲が原則として通常損害に限定されることは、民法416条の条文上明白です。
かつて、この条文は「相当因果関係」を表明したものであるされましたが、現在はそのような解釈はむしろ少数説です。この条文がイギリス法に起因するものであり、ドイツ法の概念である「相当因果関係」と読み替えることは不適当であるとされたのです。
この416条を「相当因果関係」と読み替えるか否かはともかく、いづれにせよ債務不履行を原因とする損害賠償においては、この条文の適用があることに争いはありません。
○不法行為を原因とする損害賠償の範囲について
不法行為を原因とする損害賠償の範囲については、直接にこれを規定する条文がありません。そこで、債務不履行を原因とする損害賠償の範囲について定めた416条の適用(もしくは類推適用)の可否については当初から争いがありました。
この問題について判例は416条の適用を肯定しました(大連判大正15・5・22)。その後、416条を「相当因果関係」と読み替える説とともに長らく実務を引っ張って来たのです。
古い通説では「相当因果関係」の有無で、新しい学説では「保護範囲」もしくは「義務射程」という理論で損害の範囲を画してきました。いづれにせよ「故意だから全損害の賠償」などという単純な理論ではありません。
(ここまでを簡潔に述べているのが#1および#6の最初の4行)
しかし、不法行為を原因とする損害賠償について416条を適用する考えについては70年代以降、痛烈な批判に晒されることになりました。主な批判者は東大の平井宜夫教授です。
突発的に生じる不法行為において、被害者側の事情について加害者の予見可能性を問題とすることは不当である、というのが主な根拠です。
この平井教授の理論は学説に大きな影響を及ぼしましたが、先の判例が変更されるには至りませんでした。既に実務に定着しており変更が大きな混乱を生むことが明らかだったからです。
そこで学説は416条の適用があることを前提に、具体的妥当な結論を導き出すため様々な理論を模索してゆきます。そして実務にも取り入れられてきました。不法行為を原因とする損害賠償において416条の適用ありとすると、一見不合理な結論に結びつくかのように見えます。しかしながら実際問題としてはそのような単純なことは決して無いのです。
(ここまで#2)
○具体的事例
「AがBを川に突き落としたところところ、Bは生来ショックに弱い体質でショック死した。BはAがそのような体質であることを知らなかった」事例について考えます。
416条の適用があるとする立場では、一見、Bの死亡は特別損害であり、ショックに弱いという事実を知らなかったAには損害賠償の責任が無いかのように思えます。
しかし旧通説の立場では、416条を「相当因果関係」と読み替えますから、【ショックに弱い人を川に突き落とした場合、その人が死ぬこと】を加害者または一般人が予見できれば、賠償責任があることになります。416条2条の「特別ノ事情」というのは【Bに特異体質があるか否か】ではないのです。
同じ意味で#9の通り魔の事例では、予見の対象とされるのは【被害者が社長かどうか】ではありません。【成人男性を殺した場合、その人が働く会社にも損害が生ずるかどうか】です。一般人から見てこれは相当だといえますから、原則として賠償の対象になります。
質問者さんが一番疑問に思っているのはこの部分だと思います。
そしてその後に、被害者の素因を考慮して損害額の減額調整を計ります。「特異体質のBを川に突き落として殺そう」という故意、「川に落として驚かそう」という故意、「驚かそうと思ったが、川に落ちるとは思わなかった」という過失、「Bの脇を急いで通り過ぎようと思っていたが、ぶつかるとは思わなかった」という過失。それぞれで規範的判断の対象になります。
一方、新しい理論では、Bの死亡についての責任をAに帰せしめるのが妥当か否か、という規範的判断を行います。このときに、故意・過失の態様が斟酌されることになります。故意・過失で峻別されるのではなくて、その態様によるのです。
○刑事と民事の峻別について
アメリカ法では、不法行為について懲罰的損害賠償が広く認められています。しかし、我が国では認められておりません(#6参照)。
たしかに悪意の加害者について処罰感情が高まるのは理解できます。しかしそれを民事法に持ち込むべきではありません。
不法行為を原因とする損害賠償において、示談契約が適切に為された場合に、しばしば減刑や起訴猶予の扱いがなされます。ですから民事の責任を全うすることで、刑事責任が消滅・減少することは十分にあり得ます。しかし、刑事上の処罰が適切に為されないからといって、民事でそれを代替させることは罪刑法定主義の理念に反するため不可能です。
この意味でも、損害賠償という民事責任を論ずるにあたり「故意犯」という刑事上の概念を何度も持ち込み、当罰感情から賠償範囲を拡大しようという考え方は、到底承服しかねます。
No.11
- 回答日時:
#2&8です。
#3の回答を見たときに、もちろん気づいていたのですが、単なるケアレスミスだと思って揚げ足取り的な指摘はしないでおりました。
しかし#9にて再度【損害賠償の世界において、「故意犯においては全額賠償が基本」】と断言していますね。
この点理解に苦しみます。
まさか、法概念一元論に立脚しているのでしょうか?
No.10
- 回答日時:
そして、間接損害の例は通常損害の範囲の問題であって、特別損害の問題ではないだろうと仰る方もおられることと思います。
しかし、それは違うのです。なぜなら、通常損害ならば「故意や重過失の場合に」などと限定を附して論じることなどないはずだからです。何を持って通常損害か、特別損害かを判別することは難しいものがありますが、少なくとも故意や重過失と限定を附して論ぜられている以上、どちらかといえば特別損害の範疇の問題なのです。
No.9
- 回答日時:
>>この例は、故意・過失という主観的要素によって実質的な賠償額に差異が生ずる例をいくつか出すために事例を用意したにすぎません。
特別損害と通常損害との関係は、既に最初の一文で明らかにしていますから敢えて言及しなかっただけです。むしろ、ここに特別損害と通常損害を比較する事例を入れてしまったら、次に述べている過失相殺、好意関係、訴因との関係がぼやけてしまいます。特別損害と通常損害の扱いについては、1の方と同じと述べて置きながら別の論点について書くのはおかしな感じがするのですが・・まあこれはこれで良いこととします。
特別損害についても責任を負う例についてはいわゆる第三者による債権侵害の、間接損害の例を出せばおわかりいただけるでしょう。
この例においては、加害者は重過失又は故意でない限りは賠償責任を負わないとされていますが、それはなぜなのでしょう。
例えばAさんは会社の社長で彼なしでは企業は円滑な活動が行えないという場合に、ある加害者(通り魔としましょう)によってAさんが殺されれば会社は多大な損害を被ります。この際に会社は加害者を相手に損害賠償を請求できるのだろうかという問題です。
皆さんの意見からすればそのような請求は認められないことになります。なぜなら「予見可能性」が存在しないからです。加害者は会社の社長などという認識など持ち合わせていないからです。しかし、学説をはじめとして、一般的にはこのような例について加害者は会社に対して損害を賠償するべきであると考えられています。それはなぜでしょうか。
このように予見可能性の判断を広く判断するべきだなどと皆さんは仰いますが、たとえ予見可能性の判断を広めても「ないものはない」のです。それにも関わらず上の例で損害賠償が認められるのは、「故意に犯罪を行ったということに対して、特別な評価が加えられるから」なのです。予見可能性がなかったとしても故意という行為の悪質な行動につき、特別にペナルティが課されるのです。損害賠償の世界において、「故意犯においては全額賠償が基本」といわれるのはそのためなのです。
No.8
- 回答日時:
#2です。
知らぬ間にずいぶんと盛り上がっているようですね。批判に対してお答えします。
「そして#2の方の例えにも問題があります」
にて論及されている例えですが、これは仰るとおり通常損害の例です。しかし最初からその意図です。
この例は、故意・過失という主観的要素によって実質的な賠償額に差異が生ずる例をいくつか出すために事例を用意したにすぎません。特別損害と通常損害との関係は、既に最初の一文で明らかにしていますから敢えて言及しなかっただけです。むしろ、ここに特別損害と通常損害を比較する事例を入れてしまったら、次に述べている過失相殺、好意関係、訴因との関係がぼやけてしまいます。
なお、#3さんの回答への批判は他の方がなさっているようですので、議論が煮詰まった後必要ならばするつもりです。
No.7
- 回答日時:
#4の補足です。
今日,注釈民法の416条を見ていると,大変面白い話がありました。コピーを取っていないので,詳細は原典に当たってください。
というのは,旧民法は,#3の方がいわれるように,故意と過失とでは,損害賠償の範囲が違っていたようです。しかし,これを現行民法の立法時に,故意と過失とで損害賠償の範囲が違うのは理論的に一貫しないという理由で,現行の416条の条文が起草されたということのようです。したがって,立法者意思としては,416条では,故意であろうが過失であろうが損害賠償の範囲は変わらないということになりそうです。
ちょっと勉強になりました。
No.6
- 回答日時:
不法行為による損害賠償は,基本条文である民法709条にあるように補償的損害が原則です。
因果関係で結びつく損害を填補するのがその目的ですから,損害額は故意であろうと過失であろうと変わることは無いということになります。
これに対比される考え方に懲罰的損害賠償というものがあります。英米では肯定され(ただし,制限すべきという判例がでました。参考URL)る一方,日本では否定的に理解されています。
http://www1.ocn.ne.jp/~mourima/momose.html
ところで精神的苦痛の損害の場合,根拠条文は民法710条となりますが,そもそも精神的苦痛というのは受け止める側によって千差万別であり,通常考えられる因果律で規定できるものではありません。
その算定基準は,被害者側の資産状態,年齢,生活水準,社会的地位や負傷の程度などの様々なファクターと,さらに加害者側の資産状況,社会的地位,職業,年齢,不法行為の動機,故意過失の程度等々のファクターを総合的に勘案して裁判官が判断することになっています。
このように加害者側の故意過失も算定に斟酌され得るのですが,それは懲罰的な程度までも考慮するのでは無いということになります(民事と刑事は分化すべきという考え方)。
ところで,精神的苦痛はそもそも被害者側の受け止め方で千差万別なので,この特別損害という概念は何であるかが問題となり得ます。
希な例を考えると初恋の相手からのラブレターや母の形見のように,それ自体が他人にとっては何の価値もないようなものであれば,それが毀損されたということだけでは客観的損害と主観的損害の乖離が激しくなります。そこで加害者に困らせてやろうといった積極的害意があれば損害の予見可能性があるため,過失による場合の賠償と比べ範囲の広狭を生じさせるべきという考え方があります。
参考URL:http://www.jbahouston.org/backissue/2003/may2003 …
No.5
- 回答日時:
>>特別損害の例としてはいくつかのものがありますが,例えば,成年男子に平手打ちを食らわせたところ彼には誰も知ることのできなかった脳血管の異常があったために死亡してしまった,という場合に,これが故意による不法行為であるからといって,死亡の損害まで因果関係が認められ,恒に賠償の対象となるでしょうか。
それでは集団リンチを加えていたところ少年が脳血管の異常により死んでしまったという場合を考えた場合どうでしょうか。今度は加害者が全額賠償を負わないのはおかしいと仰るでしょう。さんざん人を殴っておいて、裁判になると被害者に脳血管の異常があるとは知らなかったとか、特別な事情があることなんて知る由もありませんでしたという主張は単なる開き直りだからです。このように賠償責任はないと言い切ってしまうのは妥当な結論を導かないのです。
>>他に特別損害としてあげられるのが,売買の対象物を引き渡さなかったことによって,引渡をしない間に戦争などの異常な事象が生じ,その物の価格が暴騰した場合の転売利益が上げられることがあります。これも,そのような異常な経済事象が生じることを,だれも予見できなかった場合に,故意により引き渡さなかった場合には転売利益の全部が賠償の対象となり,過失によって引き渡さなかった場合には,転売利益は特別損害として賠償の対象とならないというのは,やはり公平を欠く考えであると思います。
不法行為の故意はと私は申し上げているつもりですが。
そもそも契約時の認識を問題にするのが416条なのに不履行時の態様等が問題になるわけがありません。
No.4
- 回答日時:
#1です。
補足します。特別損害の例としてはいくつかのものがありますが,例えば,成年男子に平手打ちを食らわせたところ彼には誰も知ることのできなかった脳血管の異常があったために死亡してしまった,という場合に,これが故意による不法行為であるからといって,死亡の損害まで因果関係が認められ,恒に賠償の対象となるでしょうか。
平手打ちは故意による不法行為ですが,通り魔のように見ず知らずの人に平手打ちを食らわせた場合,口げんかが高じて思わず平手打ちをした場合,監督が部員にかつを入れるために平手打ちをした場合,いずれも416条の適用を否定すると,死亡の損害まで賠償しなければならなくなります。私はこれは公平とはいえないと考えています。
他に特別損害としてあげられるのが,売買の対象物を引き渡さなかったことによって,引渡をしない間に戦争などの異常な事象が生じ,その物の価格が暴騰した場合の転売利益が上げられることがあります。これも,そのような異常な経済事象が生じることを,だれも予見できなかった場合に,故意により引き渡さなかった場合には転売利益の全部が賠償の対象となり,過失によって引き渡さなかった場合には,転売利益は特別損害として賠償の対象とならないというのは,やはり公平を欠く考えであると思います。
この点について判例を調べてみましたが,適切なものはありませんでした。また,学説的にも,私の調べた範囲では,故意の場合に416条の適用を明確に否定するものは見当たりませんでした。
まあ,故意による不法行為の場合には,予見可能性の範囲を広く認めるというような操作をするのがせいぜいであろうと考えます。
この回答への補足
ありがとうございました。
有意義なご意見を寄せていただき大変感謝しています。
確か、’いくら加害者だからといってありとあらゆる損害を加害者に負わせてしまってはかわいそう’という説明が法律の本に載っていました。
そのような背景があるとしたら、加害者が故意に行いその行為が悪質であると評価できる場合には、損害の範囲が広範にわたる場合において、通常損害を超える部分に関して責任を負わせても、加害行為が十分非難に値することを踏まえれば、良しとされるのではないかと考えて質問しました。
ありがとうございました。
No.3
- 回答日時:
>>民法上の不法行為責任や債務不履行責任である限り,予見不可能な損害を賠償する義務はありません。
特別損害の賠償が認められるのは,加害者が予見しているか,予見可能な場合だけです。そのことは,民法416条2項の条文上明白です。ここの部分は誤りでしょう。
そもそも不法行為責任を賠償しなくて良いのはそれが「過失」だからです。故意の場合に自分は予見し得なかったから見逃してくれと言う主張を認めるのは虫が良すぎるでしょう。そもそも不法行為の原則から言えば故意犯については全額賠償が当然のはずです。
そして#2の方の例えにも問題があります。
なぜなら、
>>Aさんの時価1万円の腕時計を、Bさんが川に落として毀損してしまったとします。
この場合、Bがわざとやった落とした場合(故意)も、不注意で落とした場合(過失)も、損害賠償額は損害額である1万円になるでしょう。
のように、特別損害の問題について聞かれているのに、通常損害の賠償責任について例を挙げて説明してしまっているからです。腕時計を壊してしまったら1万円の賠償責任がある、それはそのとおりです。しかしそれは通常損害の問題を言っているに過ぎません。
もし特別損害について説明したいのならば、腕時計を壊してしまったところ、Aくんがショックのあまりに持病の心臓の発作を起こしてそのまま死んでしまったなどの「特別」な例を挙げた上で説明しなければならないのです。
基本的には故意犯である以上、特別損害も含めて全額賠償すべきであるというのが一般的な考え方なのです。
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