
日本文学には「かわず(かはづ)」と「かえる」が登場します。
古今和歌集仮名序の「かはづ」は多分現代の「カジカガエル」。
芭蕉・古池の「蛙」は”カワズ”と読んで中身は普通のカエル(議論はいろいろあるでしょうがアカガエルなど)。
一茶・負けるなの「痩せ蛙」は”ガエル”と呼んで中身は普通のカエル(同じくトノサマガエルなど)。
そこで、
1、古い時代、「かはづ」と「かえる」はどう区別されていたのか?
2、芭蕉や一茶の時代はどう区別していたのか?
実は蕉門の「蛙合せ」を読んで」いて、ふたつが混在しているかも知れないと思い始めて、眠れなくなっています。
どなたか知識、見識ゆたかな方に解説していただきたいのですが、よろしくお願いします。
No.3ベストアンサー
- 回答日時:
言葉の由来にまつわる検証事は大方、何とも大手間の掛かる割には酬いられ難い類でしょうか。
>1、古い時代、「かはづ」と「かえる」はどう区別されていたのか?
歌語(かご)と古語と俗語
「主として和歌をよむ時だけに用いる言葉。鶴(つる)に対する「たづ」、蛙(かえる)に対する「かはづ」など」(小学館「国語大辞典」)
1)かはきぎす(川雉(子))
川で「きぎ」と雉(きじ<古名>ぎぎし/きぎす)のように鳴く河鹿蛙/かわず。別名:金襖子(きんおうし)/錦襖子(きんおうし)/石鶏(せきけい)。(東京堂「類語辞典」)
2)かはづ(川津)
万葉集では「鳴川津(なくかはづ)」は「石本去らず(澄んだ川瀬の石の下)」であり、「川津妻(かわづつま)」も「上つ瀬に(澄んだ川上の浅瀬で)」であり、川瀬のとおり澄んだ河鹿蛙の鳴き声が詠われている。(東京堂「古典読解辞典」)
3)かいろ
「牡鹿が雌鹿を恋い慕って鳴く声を、古くは「かひよ(カイヨ)」と聞き取ったが、これを「帰ろ」の意にとりなしていったもの。」(「古語大辞典」)
4)かへら/かへる/かいる(蛙)
蛙の古語、川雉子とも。「田火(でんか)/玉芝(ぎょくし)/風蛤(ふうこう)/活東(かつとう)/かわず」(東京堂「古典読解辞典」)
雄雉のキギと鳴く、あるいは牡鹿のカイヨと求愛する声に近いことから、澄んだ川辺での鳴き声のきれいな蛙を、特にかわづとして歌語にしたものでしょうか。そういう意味からすれば、「蛙の目借時」という季語も、実は川津の雌狩(めかり)、あるいは媾離(めかり)時なのかも知れません。
>2、芭蕉や一茶の時代はどう区別していたのか?
近世前期を代表する俳諧作法書「毛吹草」(岩波文庫)の「巻第三 付合」のリストの中では、「蛙(かへる)」の項には「蛇(くちなは)、梢(こずゑ)、井戸、仙人、月、蜒(なめくじり)」が、一方「樂(がく)」の項に「鶯、蛙(かはづ)、天王寺、住吉、行幸、法事、神前」とある。従って、日常・生活上での蛙は「かへる」であり、特にその音楽的な鳴き声を採るときは「かはづ」ということなのでしょうか。
初蛙/遠蛙/昼蛙/夕蛙などは「かはづ」と読むが、その他の「痩せ蛙」など、その一般的な特徴では「かへる」もしくは「かいる」ということでしょう。
この「毛吹草」には、「巻第五 春」で6句、更に「追加題目録 春」の部で9句、都合15句の「蛙」の歌が載っていますが、その大半は「今よむも古歌の心や引かへる」の例のように「かへる」と読んだ方が望ましい具合です。
なお「芭蕉の句に出てくる古池の蛙は、殿様蛙か土蛙で、足音が近づくとすぐ水に飛び込む」と。(角川小辞典「入門歳時記」)
詳細な回答をいただき大変参考になります。ありがとうございました。
「毛吹草」をあたってみます。
「かはづ」は「鳴き声を賞美するかじか」だけでなくて、「かえる」の歌語でもある、と考えるとだいぶ見えてきます。
つぎは、「蛙合せ」と記された題は何だったのか?
使われている文字は「蛙 蝦 かはづ 蝌 蟇」と5通り、
蝌は「かえるご」または「かはづご」、蟇は「ひき」でしょう、多分。
蛙 蝦はどうなるか?
感嘆には寝かしてくれない! 田一枚蛙の声で立ち去れず
No.5
- 回答日時:
#3、4です。
>当時、「かはづ」と呼ぶ人と「かえる」と呼ぶ人がいて、江戸っ子、町人は「かはづ」、地方や農民は「かえる」が多かった?
前田勇編「江戸語の辞典」によれば、
かいる【蛙】(「かへる」の訛)口語としては室町時代以降これが普通。訛って「かいろ」「けれろ」とも。
「かいるのつらへみず」「かいるが鳴くよ、おいら内へかいろ」「蟇(かへる)ひとひよこ三(み)ひょこひょこ」「帰(かへ)ろひょこひょこ三ひょこひょこ」
方言ですと「がーた」(徳島)「ぎゃく」(新潟)「たんがく」(福岡)「びき」(青森)「ごんのー」(駿河)など実に多彩です。
ところで、楓(かへで)の古語は「かへるで」で、これは「蛙手」でに由来する、すなわち古来「蛙(かへる)」という言葉はあったといわれています。
また万葉集の「かはづ」の歌の中で二首ほど(10-2265、16-3818)は川辺に関係ない場所(鹿火屋の下で鳴く蛙)を詠っている、だから河鹿蛙だけとは断定できないとされています。
これを受けた形で、芭蕉は「這出(はひいで)よかひやが下のひきの声」と、出羽の蟇蛙を詠んでいます。この「かひや」には諸説紛々ですが、ここでは「飼屋」(養蚕室)ととったものでしょうか。
地域性だけを考えると、「かはづ」は上方から江戸に持ち込まれた、ということなのでしょうか?
5件の回答だけでも大分知識が増えました。これから消化します。
茶のみ話)やせ蛙かはづなんかにまけるなよ
一茶の含意は言葉と句にあったのではないか、と妄想がつながってゆく。蛙のたまごのごとし。
No.4
- 回答日時:
#3です。
>つぎは、「蛙合せ」と記された題は何だったのか?
この句合(くあはせ)の衆議判を書き留めて編集をした仙化が、内題を「可般図(かはづ)」と書いていることからして、せいぜい別読みの例外は「蝌(かへるご)」と「蟇(ひき)」の二句くらいで、あとは全て「かはづ」と読むのが自然ではないでしょうか。
このサイトでは仮名が振ってあります、ご参考までに。
http://www.kaeruclub.jp/report/huruike/huruike2. …
ところで貞門の重鎮安原貞室(正章)に、「歌いくさ文武二道の蛙哉」があります。
これについて、「貫之のいった「かはづ」は、いまの河鹿で、渓流などでヒュルヒュルと鳴くやつなのだが、貞室は、それを、いまの蛙、つまり田畑を演奏場とするギャフギャフ合唱隊の構成員にしてしまった。」(小西甚一「俳句の世界」60頁)
そして仙化がまとめた「蛙合」が世間の評判を呼んで以来は、「雨蛙」「痩せ蛙」など「かへる」も詠まれるようになったものでしょうか。
ありがとうございました。goo には人材が多い!
「可般図(かはづ)」ですか、なるほど。皆さんの薀蓄を服用して不眠もやや和らいでおります。
「河鹿」の鳴き音に対し、身近な「かはづ」の形態、しぐさを俳諧性として取り扱うところへ、なみいる蕉門のなかで飛び込む音に着眼したのは翁だけ。納得がいったかどうかは別にして、弟子達は及びがたさを確認した、てなことを焼酎のお湯割りの伴にしています。完全に腑に落ちたとはいえませんが、「閑さや岩にしみ入蝉の声」と全く同じ構造(構成)であると気付き、また眠れなくなるかもしれない。
あらためて、ありがとうございました。 短夜に遠近々々と鳴く蛙
追記:当時、「かはづ」と呼ぶ人と「かえる」と呼ぶ人がいて、江戸っ子、町人は「かはづ」、地方や農民は「かえる」が多かった?
ちょっと酔いがまわってきました。
しかし、明治いや第二次大戦後まで方言の違いは大きかった。そういう事情のもとでの「文章語」「歌語」「俳語」だった、とだんだん発想がひろがってきます。
No.2
- 回答日時:
歴史的な経緯は知らないので、無知の素人のコメントです。
少なくとも、芭蕉、一茶の時代に、生物学的種類、あるいは形状の差異で、「かはづ」と「かえる」を使い分けていた、とは考えにくいですね。文字のうえでは、「蛙」という表記でルビが振ってあるわけではないので、その場に居合わせて実際の声を聞き仮名で書き留めている以外は、現存資料からは何とも言えないでしょうね。
つまり、「かはづ」と「かえる」を使い分けていたのは、もっぱら句の流れの中の音韻の感覚だと思います。「蛙」の字から、そのどちらか判断するのは、相当専門的な研究が必要でしょう。
一茶の「痩せ蛙」を「やせかはづ」と読まないのは、「やせかえる」(すっかりやせてしまう)と「やせがえる」との関連を連想する意識を面白い(諧謔)と感じて皆が鑑賞することもあると思います。(実際の一茶の音声がヤセガエルだったという記録があるのかも知れませんが、仮にそのような資料がなかったとしても)
逆に、芭蕉の句は初期の段階で「...蛙飛ンだる水の音」という記録があるので、「かはづ」ではなくて「かえる」(飛ンだる と同韻)と意図して軽く面白がったのかも知れません。ちょっと憶測が過ぎるかも知れませんが。「...蛙飛び込む...」で最終的に「かはづとびこむ」になったのではないかと想像すると別の味わいがあります。
なるほど、とても面白い指摘です。音感は重要なポイントだと私も思っていました。
もうひとつ、イメージを考えると、地上を跳ねるときは「カエル」、水の中では「カハズ」になる。これは現代の、私ひとりの、となるでしょうが。
「やせかえる」「やせがえる」および「かえるとんだる」「かはずとびこむ」は参考にさせていただきます。
ありがとうございました。 すずしさにしばし昼寝のやせがえる
No.1
- 回答日時:
あまり、回答になっていないかも知れませんが
かわずとかえるは、平安初期あたりから混同して使われ始めたと辞書などには書かれています。
そこで、「古池や」の句に、なぜ芭蕉が「かえる」でなく、「かわず」を用いたかの推理ですが。
誰だかの説かちょっと忘れたのですが、
「和歌で「かわず」がテーマとなるのは、その鳴き声だが、芭蕉はその和歌の心を、俳諧として、視覚的な飛び込む音にしたというところに芭蕉の芭蕉たる面目がある」というようなことを読んだことがあります。
和歌を本歌取りするならば、「かわず」という呼び方でなくては、いけないのではないでしょうか。
ありがとうございます。お礼が遅くなりました。
ポイントは本歌取りですね。この句と蕉風の明確化や弟子達との関係の機微も浮かび上がるもののようです。
参考にさせていただきますます。 俳諧をかえるクリヤー棒の先
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