ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫)を読み始めています。
1章1節「信仰と社会層分化」を読んでいるのですが、31頁に
「しかし、コルベールの闘争からも知られるように、フランス自体でも、十七世紀には、事情はまったく同じだった。」とあります。
この一文の意味がよくわかりません。なにが「同じだった」のでしょうか?
「しかし」で始まっている文なので、前の文に対して否定的な意味を持つのあだと思ったのですが、いまいちピンときません。
ちなみにその前の文の内容はフランスやオランダの経済的文化的優越や、追放と伝統的生活からの離脱の深刻な影響がカルブァニストの散在を「資本主義経済の育成所」たらしめた原因ではないか?という理屈もなりたたないわけではないというものだと思います。
『プロテスタンティズム~』をお持ちのかたがいましたら、該当箇所の文脈にそくしてご教示いただければ幸いです。
No.1ベストアンサー
- 回答日時:
わたしが持っているのは河出書房の全集(『世界の大思想23 ウェーバー 政治・社会論集』ですから、訳文・ページ数ともにちがっています。
先はまだまだ長いし、本格的な論考が始まっていくのはもうちょっとあとからですので、ここらあたりは大きく流れをとらえながらどんどん読み進んでいってください。
冒頭
「プロテスタント派(…略…)は、事実が示すところによれば、支配者の地位にあるときにも、被支配者の立場におかれたときにも、また多数者の地位に立つときでも、少数者の立場にあるときにも、つねに一貫して経済上の合理主義をつらぬく傾向をもっていた。これに反してカソリック派は、前者の地位にあるときも、後者の立場にたつときのも、経済上の合理主義を志向する傾向を、いまだかつて見せたことはなかったし、こんにちでもそれを見ることはできないのである。」(p.127-128)
これを受けて、「信仰=宗派の特性を形成している諸要因」のなかで、いったいどんな要因が「経済上の合理主義」を志向させているのか、の考察に移っていきます。
ご質問のパラグラフでは、フランスとオランダでの資本主義の興隆の要因をカルヴァン主義に求めることができるのではないかという仮説を立てている場所です。
とりたてて問題の箇所とも思えなかったのですが、ご質問は、なぜ「しかし」という逆説が使われているかということですね?
ですから、このパラグラフでのそこにいたるまでの論理の流れを追っていきましょう。
・キリスト教信仰での内省的な立場を代表する人たちが、商人階層から多く出ている。
↓
・だが、彼ら商人が単に「内省的な性格」だった、というだけでは、説明のつかないばあいがある。
↓
・とりわけカルヴァン主義の場合は、資本主義的な企業家の精神と、強靱な信仰が同時に存在しているケースが頻繁に見受けられる。
↓
・オランダの資本主義が興隆したのはカルヴァン主義者たちがディアスポラによってオランダに流れ込んできたからと考えられる。(注:本文には書いてありませんが、カルヴィニストが弾圧されたのは16世紀ですから、この箇所の記述は16世紀半ばのオランダのことを言っているのだと思います)。
もとより
(1)フランスとオランダは経済文化が卓越していたから、オランダの資本主義が興隆していたともいえるし
(2)カルヴァン教徒たちが追放され、伝統的な生活環境から切り離されたことから、彼らが商業活動に邁進したから、とも考えることはできる。
だが「しかし」、17世紀のフランスでも同じことが見られたのである。
ここでの「同じ事情」とは、その時代のフランスでも、カルヴァン主義者たちが勃興しつつある資本主義経済の担い手であった、ということです。
ここで「闘争」といわれているのは、貨幣の蓄積を国力の基礎においたコルベールが国内経済を統制しようとし、もっぱらその統制の対象となったフランス国内の小規模手工業者と激しく対立したことを指しているのだと思います。わたしはここらへんの歴史はあまり知らないのですが、ウェーバーの記述を読む限りでは、その小規模手工業者の中心は、フランスのユグノー派であったのではないでしょうか。
ともかく、ここは、カルヴァン主義の精神そのものに、資本主義の興隆を起こさせる要因があったのだ、という流れであることをつかんでおけば大丈夫かと思います。
以上、参考まで。
ghostbusterさん
詳しい説明ありがとうございます。
フランスでもカルバン主義者の信仰が資本主義促進の要因だったということですね。
この段落の趣旨からしてもそうだと思います。
ただ、なおも逆接の「しかし」に拘泥するならば、その意味は
(1)フランスとオランダは経済文化が卓越していたから、オランダの資本主義が興隆していたともいえるし
(2)カルヴァン教徒たちが追放され、伝統的な生活環境から切り離されたことから、彼らが商業活動に邁進したから、とも考えることはできる。
の反論か反例でもあるのではないかと思います。
もういちどよく読み返してみると、上記(1)(2)はフランスとオランダのカルバン主義者の両者を指しているような気がします。
すなわち
(1)散在がフランスとオランダに源を発しており、両国が経済文化が卓越していた
(2)カルヴァン教徒たちが追放され、伝統的な生活環境から切り離されたことから、彼らが商業活動に邁進した
「(1)(2)よりフランス、オランダのカルバン主義者と資本主義の精神が結びついたともいえる。」
ということです。
ところがこの主張は明らかにウェーバーの主張に反するから次の文で「しかし、コルベールの闘争からも知られるように、フランス自体でも、十七世紀には、事情はまったく同じだった。」
と反例を呈出します。これが反例たりうる理由はフランス自体が散在の源だったから少なくとも(2)の影響を排除できるはずだという意味でだと思いました。だから「フランス自体」と強調しているのでしょうか。
いまいち自信ないのですが、とりあえず以上のように解釈してみました。
No.2
- 回答日時:
>これが反例たりうる理由はフランス自体が散在の源だったから少なくとも(2)の影響を排除できるはずだという意味でだと思いました。
だから「フランス自体」と強調しているのでしょうか。そうですね。わたしもそういうことだと思います。
この「しかし」が否定しているのは、より直接的には「伝統的な生活環境から切り離されたことからくる影響」という箇所だと理解してよいのではないでしょうか。
ghostbusterさん再度回答ありがとうございます。
たしかに(2)だけに限定した意味での反例と理解したほうが妥当ですね。
ささいな一文でしたが、おかげさまでようやく理解できたような気がしてほっとしました。
いまは次節を読んでいますが、フランクリンの吝嗇の哲学は興味深いです。
また読んでて不明な点があれば質問を投稿するかもしれませんので、そのときはまたお知恵を拝借させてください!(^^)
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