プロが教える店舗&オフィスのセキュリティ対策術

二日ばかりありて、赤衣着たる郎等、畳を持て来て、
「これ」
といふ。
「あれは誰ぞ」
「あらはなり」
など、ものはしたなくいへば、さし置きて去ぬ。
「いづこよりぞ」
と問はすれど、
「まかりにけり」
とて、取り入れたれば、ことさらに、「御座」といふ畳のさまにて、高麗など、いと清らなり。心のうちには、「さにやあらむ」なんど思へど、なほおぼつかなさに、人々出だして求むれど、失せにけり。あやしがりいへど、使のなければ、いふかひなくて、「所違へなどならば、おのづからまたいひに来なむ。宮の辺に案内しにまゐらまほしけれど、さもあらずば、うたてあべし」と思へど、「なほ、誰かすずろにかかるわざはせむ。仰せ言なめり」と、いみじうをかし。
二日ばかり音もせねば、疑ひなくて、右京の君のもとに、
「かかる事なむある。さる事や気色見たまひし。しのびてありさまのたまへ。さる事見えずは、『かう申したり』と、な散らしたまひぞ」
と、いひやりたるに、
「いみじう隠させたまひし事なり。ゆめゆめ、『まろがきこえたる』と、な口にも」
とあれば、「さればよ」と、思ふもしるく、をかしうて、文を書きて、また、みそかに御前の高欄に置かせしものは、まどひけるほどに、やがてかけ落して、御階の下に落ちにけり。

A 回答 (1件)

枕草子第255段(259段)「御前にて、人々とも」の1節ですね。


宿題丸投げだと為にならないでしょうから、ここは意訳を交えて。

二日ほどして赤い服の従者が「これを預かってきた」と畳を持ってやって来た。
我が家の者たちが
「うっわ、あれ誰?」
「げっ、こんなとこ見られた、恥ずかし~」
などとゴチャゴチャと騒いだためか、従者はモノを置くとさっさと帰ってしまい、「どちらからの届け物?」と聞いた時には、「使いは既に去りました」とのことだった。屋敷に入れてモノを確認してみると、御座という特別仕立ての高麗ヘリもついた美しい品。「こんなことするのは中宮様くらいよね」と内心では思ったけれど、何の印もないので確証がなく、人をやってお使いの者を探させたが何処へ消えたが見つからない。あれこれ送り主を詮索したところでお使いの人が見つからないのでは話にもなりません。
「まぁ宛先違いなら何か言ってくるでしょ。宮中で聞き込みさせてもいいけど、中宮様からじゃなかったら気まずいし」と思いはしたけれど、「でも他に誰が冗談にでもこんな事する? やっぱりこれって中宮様の命令よね」と考えて心が暖かくなりました。

二日ほどしても何処からも何の音沙汰もないので、もうこれは間違いないよねと、右京の君に「こんなことがあったけど、何か見か知ってるならそっと教えてよ。知らなかったらこの手紙の事も忘れちゃっいいけど。」と手紙を書き送ったところ、「『極秘作戦だ~』って張り切って手配しておられましたよ。あ、もちろん私から聞いたとは絶対にバラしちゃだめよ」と返事が来た。
「やっぱりね」と思った通りだったのが可笑しくて、礼状をこっそり御前の縁の手すりの所へ置いて来させたつもりが、忙しさのあまりか気づいてもらえず、やがて飛ばされて階段の下まで落ちてしまったようです。
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