No.2
- 回答日時:
「横たふ」は自動詞だと四段、他動詞だと下二段ですね。
天の川にかかるので連体形のはずで、連体形なら「横たふ」は四段、よって自動詞です。正しい理解です。「横たうて」はウ音便、元の形は「横たへて」なので下二段の他動詞、よって句全体として意味が通らず、適切ではありません。
No.4
- 回答日時:
よこ-た・ふ 【横たふ】 〔‥タ(ト)ウ〕
一 〔他動詞ハ行下二段〕
{へ・へ・ふ・ふる・ふれ・へよ}
《中世には「よこだふ」とも》
横にする。横に帯びる。
例「横たへ差されたりける刀をば」〈平家・1・殿上闇討〉
訳(忠盛(ただもり)が)横にしてお差しになっていた刀を。
二 〔自動詞ハ行四段〕
{○・○・ふ・ふ・○・○}
横になる。横たわる。
名句鑑賞
荒海や佐渡に横たふ 天の川
〈芭蕉〉訳目の前に広がる日本海の荒海。そのかなたに見える佐渡が島へかけて、澄んだ夜空に天の川が大きく横たわっている。
参考
二は用例も少なく、終止形と連体形だけ、つまり、「よこたふ」の形だけである。他動詞「よこたふ」、自動詞「よこたはる」という対応を重視して、二を他動詞と解釈する考え方もある。しかし、「荒海や」の句の「よこたふ」を他動詞とみると、何が何を横たえるのか、すっきりした解釈ができない。
ところで、二段活用の動詞は、中世以降、一段活用化する。たとえば、下二段「伝ふ」は下一段「伝エル」となる。こうなった時期に、日常使っている「伝エル」を文語に改めるには、「エル」の部分を「ふ」に変えればいい。一方、「伝エル」に対応する自動詞には「伝ワル」があるが、これは文語でも同様に「伝はる」である。しかし、「伝ワル」は日常使っている語で、いかにも口語的なので、これを文語に改めようと、誤って「ワル」の部分を「ふ」に変えて、「伝ふ」という自動詞を作ってしまう。『奥の細道』の「室の八島」に出てくる「世に伝ふ事も侍(はべ)りし」の「伝ふ」はこうしてできた自動詞である。「松島」の「昼の眺め改む」の「改む」も口語「改マル」から作られた自動詞である。「荒海や」の句の「横たふ」は「横タワル」という口語から作られた自動詞であると考えると、解釈もすべてうまくいく。
「小学館 全文全訳古語辞典」より
ご回答のほどありがとうございます。私の質問の内容は自分なりに調べて恐らくはそういうことははないかという段階のものでしたが、少なくとも質問1については私の理解を肯定するお答えかと思います。「よこたうて」はウ音便ということで正しいと思うのですが。
No.5
- 回答日時:
「横たふ」は自動詞で「天の川」の属性を表しています。
日本語では、まず事態を表す場合は自動詞を使用します。天の川自身が自らを佐渡に横たえていることを表現しようとしている訳ではありません。
「九州に台風上陸」というように、聞き手の関心を考え先ず自動詞で事態を表現します。これは、台風が自ら九州に上陸したという意味で表現しているのではなく、単に事態を直接描写しているだけです。その後、低気圧の前線に沿い台風が九州に上陸と原因を述べます。ここで、聞き手は前線が台風を押し上げたのかと原因を理解します。
日本語では、このように関心のある事態を先ず自動詞で表現します。■
ご回答のほどありがとうございます。「日本語では、先ず事態を表す場合は自動詞を使用する」とは初めて知りました。なるほどそういわれてみると。今回の質問は俳句・短歌の観点からです。天の川が自らの意思をもってよこたふと解してみると情趣がより深まると思います。文法的にはそのような捉え方も正しいと思いますが。
「天の川佐渡に横たうて」という表現は文法的がにどうでしょうか。わたしは正しいと思っているのですが。
No.6
- 回答日時:
ご質問の文に「自らを佐渡に横たえている」とありますが、これは他動詞の解釈です。
自動詞ですから「自らを」と自身を目的語として客体化してはいないわけです。自他の区別をのない状態で、原初から未来永劫、自ずからただそこに「横たわっている」ということになります。No.7
- 回答日時:
芭蕉はこの句に関して、下記「銀河の序」を書いています。
「銀河の序」
北陸道に行脚して越後の国出雲崎といふ所に泊る。かの佐渡がしまは海の面十八里、滄波を隔てて、東西三十五里によこほりふしたり
みねの瞼難谷の隅々までさすがに手にとるばかりあざやかに見わたさる
むべ此の島はこがねおほく出でてあまねく世の宝となれば限りなき目出度き島にて侍るを大罪朝敵のたぐひ遠流せらるるによりてただおそろしき名の聞こえあるも本意なき事におもひて窓押し開きて暫時の旅愁をいたはらむとするほど日既に海に沈んで月ほのくらく銀河半天にかかりて星きらきらと冴えたるに、沖のかたより波の音しばしばはこびてたましひけづるがごとく腸ちぎれてそぞろにかなしびきたれば草の枕も定まらず、墨の袂なにゆえとはなくて、しぼるばかりになむ侍る
荒海や佐渡に横たふ 天の川
ここでは、「はるか天なる銀河、天の川だけは地上の喧噪をあざ笑うかのように、この本土側より、あの佐渡島へとさし渡されている。
天は銀河を、あの島の内なる人々へと、荒海の障壁を越えて、横たえつづけているのである。」と説いています。
芭蕉の思想を示す言葉に「不易と流行」があります。ここでは、「天の川」すなわち銀河こそが不易の象徴として捉えられ、描かれています。芭蕉はこの俳句を通じて、このように語りかけています。
「天の川が佐渡に横たうて」も文法的には何ら問題ありませんが、一文文章としての俳句の主題は正に上記芭蕉の思想にあると考えます。■
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